ナルトと忍犬は綱手の命をうけ、ひとまずサスケを追っていた。
「サスケがこちらに向かってきてるな。」
忍犬が不思議そうに言う。ナルトも首を傾げていたが、木の下に見知った影を見つけ、ナルトはそこへと降り立った。
「!」
ナルトは素早くの傍に着地する。
綱手の命令は2つ。の保護。サスケの連れ戻しだ。の希少能力は狙われる可能性が高く、大蛇丸なども狙っている。すぐにでも里の支配下に戻るべきだった。
実際ナルト達は音の忍び達に複数会っており、シカマルなども今、現在進行形で戦っていた。
「大丈夫か?」
の肩を揺らすと、やっとは顔を上げて、くしゃりと表情を歪めた。
「ナルトぉ…」
もうどうして良いか分からないと言った、途方に暮れたような掠れた声だった。
「さ、サスケが、」
「サスケに会ったのか!?」
ナルトは思わずの肩に手をかける。
「ナルト、もう駄目だよ。サスケは…」
はそれ以上言葉にならず、ぼろぼろと涙をこぼした。
「うちは一族の話は、俺も聞いたってばよ。」
ナルトは少し目を伏せて言う。は顔を上げて彼を見た。ナルトは悲しそうに笑って、の手を握る。
「サスケにも、イタチ兄ちゃんにも、思うところがあるって、わかる。」
里に反旗をひるがえしたうちは一族。反逆を密告して自分の一族を裏切ってでもそれを止めたイタチ。そして、イタチの裏切りに衝撃を受け、力を求めて里を抜けようとしているサスケ。
「斎さんも綱手のばっちゃんもまだ状況は確認できてないけど、うちは一族は…」
処刑されなかったとしてもチャクラを奪われ、牢に軟禁されるか、チャクラを奪われ追放されるか。ひとまずうちは一族の解体は免れない。イタチもそれを承知していて、裏切ったのだろう。その覚悟はいかようのものか、想像でしかないが、辛い決断であったに違いない。
ましてやそれが原因で、サスケの憎しみまで買うなど。
「でも、だからって、サスケが里を抜けて良い訳じゃねぇし、サスケはまだ罪を問われないって話だ。」
ナルトはぐっとの手を強く握る。はぼろぼろと涙をこぼしていたが、ぴくりと白い蝶が動いたのにはっとして顔を上げて、ナルトを突き飛ばす。
そしては透先眼に瞳を変えて、蝶を広げる。次の瞬間、轟音があたりに響き渡った。
「!?」
大きな爆発音と共に、手裏剣がいくつも飛んでくる。それをナルトは避けながら、土煙の中目をこらす。
「外したか。」
冷たく、低い声音が響き渡る。ナルトはその空色の瞳を丸く見開き、現れた少年を凝視した。
「さ、サスケ?」
その姿が信じられないのか、ナルトは確認するように影に問う。
「次はおまえか、ナルト。を殺そうと思ったが、おまえまでいるとはな」
さも面倒そうにサスケはそう言い捨て、ばちりと千鳥を手に纏わせる。
は何とか攻撃を防ぎきったらしく、涙をいっぱいにためた瞳でサスケを見ている。ナルトはやっと泣きじゃくったの意図を理解し、呆然とした。
「おまえにどういうつもりだよ!どういうつもりだよ。」
ナルトは怒りのままに叫んだ。
への攻撃は明白で、彼の台詞もそれを裏付けていた。
「里は抜ける。」
サスケは軽い調子で、ついでのように言って、を指し示した。
「でもその前にそいつを捕らえて、死体にして、大蛇丸につきだそうと思ってな。兄貴がどんな顔をするか。」
サスケは楽しそうに唇の端をつり上げる。
がイタチの恋人であることは、皆の知るところだ。幼い頃から、イタチはを本当に大切にしている。それはナルトもよく知っていた。
うちは一族の反逆を密告したため、サスケはイタチを恨んでいるのだろう。
しかし、
「…は、仲間だ。本気か?」
確かにサスケがイタチを許せないと思う気持ちは、一応理解できる。だが、は今まで一緒に過ごしてきた友人であり、仲間だ。
それを簡単に殺すとでも言うのか。
「本気だぜ。」
あっさりとサスケは認めた。はぐっと拳を握りしめて、また涙をこぼしたのが分かった。ナルトはの近くに立って、を自分の背中に庇う。
「…おまえを、殺してでも連れて帰る。」
「やれるもんなら、やってみろ。」
サスケはナルトをあざ笑うように手を広げた。
それは余裕の笑みで、ナルトにその実力はないとでも言うように、完全になめきっていた。ナルトはぎりっと奥歯をかみしめたが、が震えたのを感じて、振り返った。
「、おまえは戻れ。斎さんが心配してる。」
「え?」
はぽかんとした表情でナルトを見た。まさか帰れと言われるとは、思っていなかった。
「イタチ兄ちゃんも、今はちょっと動けねぇけど、めっちゃ心配してると思う。だから、帰ってやれってばよ。」
ナルトはぐっとの手を握った。
「それに、シカマルとかも、音の忍びと戦っててさ。おまえそっち助けてくれってばよ。」
「で、でも、サスケ、」
「おまえはサスケを傷つけられねぇってばよ。」
ナルトは困ったようにに笑う。
先ほども、多分はサスケから結局逃げてきたのだろう。は優しいから、敵に対してなら仲間を守るために冷酷にもなれただろうが、今まで一緒に過ごし、ましてや幼なじみであるサスケに、攻撃することなど到底出来ないだろう。彼女の精神性を考えればすぐに分かる話だ。
「でも、俺はそんなが大好きだから、心配すんな。」
ナルトは努めて明るく笑って見せる。
「サスケを連れて帰る。サスケのことは任しとけ。」
は不安そうな顔でナルトを見ていた。
「だから、おまえはイタチ兄ちゃんを笑って迎えてやれよ。」
きっとイタチは誰よりもに嫌われることを不安に思っているはずだ。に何かあれば、彼は本当に悲しむ。辛い決断をしたイタチを思えば、ナルトはイタチに早くを会わせてやりたかった。
「…でも」
「おまえにしか、できねえことだってばよ。」
誰でもない、イタチはを望んでいるのだ。
「わたし、泣いちゃうかも…」
は情けない表情で言うから、思わずナルトは笑ってしまった。
「良いってばよ。それで。くしゃくしゃに泣いて、でも笑って迎えてやれば良いってばよ。」
泣いていたって、笑っていたって、不器用だったって。それがだ。
イタチはそんなを望んでいるのであって、別に泣いていたって良い。ナルトだって思う。そのままので良いのだ。
「ねぇ、ナルト、帰ってきてね。」
はぎゅっとナルトの手を握り返す。
「絶対だよ。」
「あぁ、大丈夫だってばよ。」
ナルトは笑っての頭をくしゃくしゃと撫でる。はそれを確認してから、ナルトの手をゆっくりと離してきびす返す。
「…」
ちらりと一瞬、はサスケを振り返った。サスケが小さく唇を動かすのが見えた。
さようなら、
それがが見た、最後のサスケとなった。
光
(あかりが そこにある )