が木の葉へと行く道を走っている最中に、倒れているネジを拾い、ついでに敵と戦ってぐったりとして休んでいるシカマルと風の国から援護に来たテマリと早早に合流することとなった。しばらくすると、カンクロウがチョウジ、我愛羅がリーを連れてやってきた。
木の葉の忍びは皆、明らかに満身創痍だった。
「ひとまず、おまえが無事で良かったぜ。」
シカマルは大きくふーと息を吐いた。
「あんたも大丈夫かい?」
豪快なテマリは重体のネジを乗せている犬神を驚いた顔で見つめながら尋ねた。
「ごめんなさい。なんとか。」
はテマリ達が援護に来たと言うこと自体に驚いたが、沈んだ様子は見せられないと何とか平静を装った。
「ひとまず、あたしらは木の葉に戻るぞ。、あんたの保護が最優先事項だ。」
テマリは重体のネジの様子を確認し、言った。チョウジも酷い状況で、早急に医療忍者の助けが必要だった。
「で、でも、ナルトが、」
はテマリに言う。しかしテマリが首を振った。
「後から後援部隊がくる、それに任せるしかあるまい。」
「でも、人員は・・」
「あたしは言ったはずだ。おまえの保護が最優先だと、ましてや怪我人が多いこの状態では、敵に襲われればひとたまりもない。」
要するに怪我人を庇うためにも、一度里に帰らなければならないと言うことだ。
「そ、そんな、わたしは大丈夫です。だから、」
はテマリに必死で言いつのった。だが、テマリは首を振る。が持つ犬神に怪我人全員を乗せることはできないし、その護衛がいる。そしてへの護衛もだ。今戦えるのは3人。を含めるなら四人だが、怪我人が四人いる。を奪われる危険性を考えるならば戻るのが得策だ。
「戻るぞ。」
シカマルが低い声でに言った。
「シカマル!」
「ここは、国境近くだぜ。わかってっか?」
再確認するように、に問う声音は厳しい。
「でもサスケとナルトが戦って無事で済むわけがないでしょう?わたしたちは、」
「・・・綱手様は最優先はおまえを連れ戻すことだと言った。」
「え?」
は意味が分からず、首を傾げる。サスケを連れ戻しに来たのではないのか、と問う感情は彼に伝わったのだろう。
「確かに、サスケ一人ならそうだっただろうけどな。おまえは特別だ。」
「何を・・・?」
「おまえはさ、なんも分かってねぇよ。」
シカマルは漆黒の瞳でを見据える。
「おまえは炎一族の東宮だぞ。蒼一族の最後の血統だぞ。その意味、少しは考えろ。」
声音は静かだったが、叱責であることは明らかだ。は初めてのことに凍り付くしかなかったが、それでも残してきたナルトとサスケを思えばいても立ってもいられない。
「・・・でも、」
「自分の価値をちっとはわかれって言ってンだ!」
はその身に2つの希少な能力を宿し、里にとっては欠くことの出来ない存在。誰よりも、写輪眼を持つ言ってしまえばサスケよりも遙かに価値があるのだ。
「周りを思うなら、自分の価値を理解して、自分を大切にしろ!!」
まだ言いつのるに、シカマルは怒鳴って、ふらふらしているリーに肩を貸す。
は俯いたまま目を伏せた。
「行くぞ。」
テマリが黙り込んでいるの肩に気遣わしげに手をかける。
「う、うん。」
は頼りなく頷いて、犬神に動けないチョウジとネジをのせる。二人は動けないので、犬神はゆっくり走らざる得ない。リーやシカマルもカンクロウ達に手を貸してもらっても早く動けない。
今襲われればひとたまりもないというシカマルの意見は事実だ。
それでもは後ろ髪引かれる思いで、何度も滝の方向を振り返った。
既にあまりに遠く、透先眼でもなかなか視認できないところまで来ている。
「前を向け。」
我愛羅が、静かな声音でに言った。
「・・・」
は答えることができず、仕方なく前を向いた。の隣を走るのは我愛羅だ。彼が一番忍術もうまいらしく、の護衛をかねて一番最後尾にいた。
「おまえの一族のものは心配していた。」
「え?」
「斎と、言ったか。忙しいらしいが、わざわざ俺たちの所まで出向いて、娘を頼むと言いに来たぞ。」
父の名前が我愛羅の口から出てきたことに、は目を丸くする。
「え。えっと。」
「おまえの母親も任務交代で帰って来るらしいぞ。」
「えぇ!」
元々今日は夜明けまで任務だった母親だ。ましてや反乱の話があり、音の忍びも関わっていると言うことがあれば、やはり、任務は続行だろうと当たり前のように考えていたは、驚きを隠せなかった。
「良い両親じゃないか。」
彼の声にはなんの感慨も窺えなかったが、深く染み渡るような低さがあった。
「・・・」
「おまえを、心から心配してくれている。」
走りながら、彼の言葉には両親を思い浮かべる。
勝手に出て行って、絶対に心配しているだろう。一族のものだってそうだ。国境付近となれば他国の忍びも動いていることがある。その危険性を理解していないわけではない。けれど、今頃になってなんの指示も仰がず、サスケを単身で追っていたのがどれだけ危険なことなのかを認識する。
透先眼で見て避けて行っていたため、音の忍びには会わなかったが、シカマル達は彼らと交戦しており、サスケと戦っている間にが彼らに襲われてもおかしくなかったのだ。
そんなあたり前のことに、は追わなくちゃと言うことだけで頭がいっぱいで、気づけなかった。
「・・・ごめん、シカマル。」
が突然呟いたのに、前をテマリに腕を貸されながら走っていたシカマルは、呆れたように声を張り上げた。
「なんだ突然。」
「だって・・・、心配かけたから。それに、うん・・」
「そんなのいつもだろうが。おまえとナルトはいっつも危なっかしい。でも放って置けねぇんだ。めんどくせー。」
いつもの彼の悪態に、は小さく笑う。
なんだかんだと言いながらも、シカマルはいつもやナルトを手伝い、悪態をつきながらもついてきてくれる。
「ナルトなら戻ってくる、」
シカマルははっきりと言った。
「あいつは約束は守る奴だ。それしかとりえねぇしな。」
「・・・それ酷いよ。シカマル。」
は笑いながら、少しだけ泣いた。
―――――――好きだった
サスケの低い声音を思い出す。
何も気づかなかった。何も知らなかった。それが幸せなことだと言うことにすら、気づいていなかった。
気づかないで、いたかった。
知
( それは意味を知ること )