ナルトが帰ってきたのは、自来也と里を出て二年半もたった頃だった。
「本当に、まったくかわっとらんかった。」
綱手が少し呆れた顔で頬杖をついて言うと、目の前の少女はふんわりと笑う。
「まぁ、ナルトですから。」
紺色の長い髪をうなじで1つに束ね、柔らかに広がる膝丈の桃色の着物、艶やかな緋色の帯を着けている彼女は、少し小首を傾げて見せた。
「おまえは随分しっかりしたのにな。」
比べるように綱手が息を吐けば、は鈴をならすように高いが、心地よい声音で笑った。
「そうでしょうか。」
紺色の髪がさらりと揺れる。
今年で15歳になった炎一族の東宮は、上層部の推薦によって上忍になった。上忍会も全会一致の判断で彼女の実力を認めている。
「私はナルトよりもおまえの方が火影に向いていると思うがな。」
綱手が言うと、は目をぱちぱち目を瞬いて、首を振る。
「そんな恐れ多い。それに私もまだまだですから」
相変わらず控えめで自信があまりないところは特別変わっていない。
「失礼しマース!」
明るい声と共に、もうひとりの少女が綱手の部屋に入ってくる。
「あら、もいたのね。綱手様、報告書です。」
桃色の髪のサクラは綱手に報告書を提出する。サクラは背が伸び、今ではよりも随分背が高く、2年半前よりずっと逞しくなっていた。
「あれ、任務終わったの?早かったね、予定より。」
がサクラに声をかける。
彼女の任務の予定は夕方までだったのだが、今はまだ昼前だ。随分と帰還が早い。
「うん。早く終わったの。犯人案外簡単に捕まってね。わたしのエルボーで一発よ。」
「・・・よ、良かったね、早く終わって、」
サクラのガッツに、微妙な間と共にはへらっと笑って見せる。
サクラは極めて緻密なチャクラコントロールを身につけ、一点集中させる代わりに、怪力という特技を身につけた。あっという間に地面をたたき割ってクレーターを作るほどの怪力だ。
が腕力が弱く近接戦闘だが、中長距離戦闘が極めて得意なこともあり、しょっちゅう二人で任務に出ることがあり、姉妹弟子となってからなお一層絆は深まった。サクラも中忍になっており、上忍のを中心とする中隊に配属されることが頻繁だった。
「夕方、の家に行っても良い?ナルトも来ると思うんだけど。」
「え、サクラ、もうナルトに会ったの?」
「うん。偶然ね。後ろから声かけてきてびっくりしたわ。」
「そうなんだ。大きくなってた?」
「そうそう。背も伸びててさ。ちんちくりんだったのに。」
「あはは、わたしもちんちくりんだったけどね。」
「は良いのよ。可愛いから。」
サクラはあっさりとそう言う。
背の伸びたサクラと違って、は152センチそこそこで、あまり身長が伸びなかった。身長が忍びのスキルと関係あるわけではないが、コンプレックスに思わないわけではない。
「イタチさんはいるの?」
「多分、今日は帰ってくるって言ってたよ。」
はにっこりと笑う。
「まさかが家を出て二人暮らし始めるとか、思いもしなかったわ。」
「そうかな。」
今年の春、が15歳になったと同時に、とイタチは家を出て、火影岩の近くで二人暮らしを始めるようになった。
別に両親との不和があったとか、そういうことではない。
ただが一族からの自立ということも含めて、一人暮らしをしてみたいと言いだしたのだ。もちろんの両親はの“一人暮らし”には賛成しなかった。だがイタチが一緒なら良いと同意したらしい。
イタチもイタチでいつまでも炎一族邸にいるのも何となく申し訳ない気がしていたのだろう。またイタチも20歳になって保証人なくとも家を借りられるようになったのを機に、二人暮らしを始めたのだ。
「泊まってく?」
「うーん。でもちょっと四人は無理じゃない?」
火影岩の近くのアパートは便利だが小さく、手狭だ。
炎一族の東宮が暮らすようなものには到底見えないテーブルが置ける台所と寝室、畳の小さな部屋。そして手洗いと風呂しかないというこじんまりした作りだ。寝室にはダブルベッドが1つしかない。
いつもサクラが泊まりに行く時、イタチがいないか、もしくはダブルベッドでとサクラが寝て、イタチはカーペットの上に布団を引く。そして色々話して夜を明かすのだ。
流石に泊めてもらっているので、サクラはよく布団で寝るというのだが、それはイタチのポリシーに反するらしい。女性と言うことで、サクラに気を遣ってくれているのだろう。
「うーん。そうだね。ダイニングで寝てもらおうか、もしくは、布団はもう一枚あるけどな。かび臭いかな。」
使ったことがないらしく、は困ったように言う。
「まぁ、後で考えましょ。」
サクラは心配するに明るい笑みを返した。
「そういえばイタチの調子はどうだ?」
綱手が達の会話に割って入る。
「・・・普通に生活するには、問題ないみたいですけど。」
「まぁ、無理は禁物だからとくれぐれも言っておけ。」
ついこの間の話だが、イタチは手術を受けた。
なんと彼は肺結核だったらしい。イタチ自身体調が最近悪かったのだが、同時期に暗部のイタチの部下だった女性が吐血した。原因は肺結核だった。どうやら吐血するまで肺結核であることに気づかなかったらしい。発見された時には既に手遅れの状態だった。
「そういえば、結局何人亡くなったんですか?」
羅漢したのは、イタチとその亡くなった女性だけではない。サクラが尋ねると神妙な顔つきで綱手は息を吐いた。
「4人だ。重篤だったのはイタチを含めて8人。全部でまぁ20人ちょっと感染していたな。」
特定伝染病であるため、木の葉のほとんどの忍びが一斉ツベルクリン反応を調べる注射をした。これは結核への耐性がある陽性の人間とない陰性の人間を分け、陰性の人間には予防注射を、陽性の人間は良いのだが、過剰反応(強陽性)の人間は逆に結核に現在かかっている可能性があるため、レントゲンで結核感染の有無を確認した。
ちなみにイタチの近くにいたは強陽性だったため、皆結果に気をもんだが、はただ単に耐性を持っているだけで、レントゲンでも結核にかかっている様子は全くなかった。
「これも、1つの戦争による犠牲者だな。」
綱手は火影の椅子にもたれかかって腕を組む。
肺結核は伝染病だ。だが予防注射があり今ではほとんど羅漢者はいない。ただ、ある一定の年代だけがその予防注射を受けていなかった。
イタチの幼い頃は忍界大戦でそれどころではなかった。現在19歳から22歳の忍はちょうどそれを受けていない年代で、イタチも亡くなった女性も、ちょうどその年代だった。イタチもかなり体調が悪かったので病状自体は進行していたが、不幸中の幸いで肋骨を何本か切り取るだけですんだ。ただ経過があまり良くないため、回復を待って次の手術が必要だ。
「ひとまず、まだ病み上がりだ。気をつけるに越したことはないからな。」
常に激務を抱え、無理をしがちなイタチをよく知る綱手だ。
真面目は良いことだが、たまには休んでも良いと思うが、サスケが里を抜けてから、イタチはなおさら仕事に打ち込むようになった。だから、良いことではないが、結核によって任務が大幅に削減されたのは良いことだと思える。
「一緒に住んでいるんだ。しっかり見張れよ。」
「はーい。」
は綱手に元気に笑って返事をし、サクラと目を合わせてまた笑う。
綱手は姉妹のように仲の良い弟子達を見ながら、自分も笑った。
信友
( 信じているひと )