ナルトは少し他人の二人暮らしの家に入るのには緊張したようだったが、の顔も見れば吹っ飛んだらしい。




ちっちゃくなったってばよ!!」

「ナルトの背が伸びたんだよ。」




 開口一番ナルトがそう言ったので、はむっとした顔で返した。イタチはの後ろで苦笑する。

 は案外自分の背が伸びないことを、気にしていた。人それぞれだし、別に150センチそこそこでも可愛いじゃないかと思うのだが、周りがにょきにょき伸びたし、両親共に長身であるため、なおさら自分が成長しないことが気になるらしい。

 イタチが170センチを超えていることもあるのだろう。




がイタチ兄ちゃんと二人暮らししてるって聞いた時は冗談だと思ったってばよ。」




 ナルトは笑いながら「おじゃましまーす」と家に足を踏み入れた。

 玄関から続く台所はせまく、置かれているテーブルは小さい。そして他に二部屋しかないので、ベランダまでがそのまま見える。




「うん。イタチが20歳になったから、わたし、一人暮らししてみたかったし。」



 結局二人ぐらしだが、とは笑った。




「わたしはよく来てるんだけどね。おじゃましまーす。」




 サクラもナルトに続いてイタチに頭を下げてから部屋へと入った。彼女は既に勝手知ったるで、慣れた様子で靴を脱ぎ、それを端に寄せてから中に入って自分の上着を棚に放り投げる。




「ちなみにイタチさんのご飯って結構美味しいのよね。」




 サクラはあっさりとそう付け加えた。




「そりゃどうも。」




 イタチも苦笑しながら扉を閉める。

 サクラもの少し前に一人暮らしをして親元から離れたが、お菓子作りなどはするがそれ程料理は忙しさもあり、しない方らしい。

 特にイタチが病を得て手術後療養のためと任務がなくなると、することも自動的になくなり、一時完全に主夫化していた時期は、サクラは毎日のように夕飯をごちそうになりに来ていた。最初はミーハーそうだったし、の友人だけにむげにも扱えずイタチも親しくなかったため困っていたが、話してみると案外物事を考えている上、常識的なため、イタチも女友達のような気分になっていた。




「本当に久しぶりだな、修行はどうだったんだ。」

「すっげーーーーーーー大変だったってばよ!!」




 イタチが尋ねると、ナルトは強調して言った。




「ほんと、なんど殺されると思ったか。」




 がりがりと頭を掻きながらも、手応えはあるのだろう。ナルトはどこか満足そうだった。

 ナルトは奥の一部屋開いている畳の部屋に座って、はごそごそと近くのちゃぶ台を引っ張り出す。日頃は二人なので台所の小さなテーブルで食事をするのだが、四人では無理だろう。狭いがちゃぶ台を出すしかない。




「今日はがすき焼きの準備を買ってきたから、鍋だな。」



 イタチは棚から適当な鍋とガスコンロを取り出す。




「やったぜ!肉だ肉!!」




 ナルトが手を振り上げて喜ぶ。




「何か手伝いましょうか?」




 サクラは立ち上がってイタチに申し出る。




「あぁ、すまない。冷蔵庫から具材を出して切ってくれるか?」

「あ、わたしも手伝うよ。」




 が声をかけて立ち上がろうとしたが、サクラは首を振った。




「良いわよ。今日はわたしがやるわ。」




 とサクラでは当然遙かにサクラの方が手際が良い。

 は渋々ナルトの隣の畳に、座布団を引いて座った。お嬢様育ちのは、どうしても畳の上にそのまま座るのは嫌らしく、二人暮らしの当初は何かと座布団やらクッションやらを買いあさっていた。




「それにしてもサクラちゃんは中忍かぁ・・・」




 ちょっとへこんでいるらしいナルトは顎をちゃぶ台の上に置く。

 修行に出て強くなったとは言え、ナルトは未だ試験も何も受けておらず、下忍のままだ。ナルトと同期の忍びは皆中忍くらいにはなっているので、少し不満なのだろう。




「ちなみには上忍になったわ。同期では一番早かったのよ。」




 サクラは意地悪くナルトに笑う。




「え?、上忍?」

「そ。上忍会が全会一致で推薦したのよ。すごいでしょ。」




 自分のことのように自慢するサクラに、は少し頬を染めて俯く。




「すっげー!」




 ナルトは感嘆の声を上げる。




「わたしもよくと一緒に任務に出るようになったけど、本当に向かうとこ敵なしなんだからね。」




 サクラは親指を立てて言う。

 中忍に昇進したのはシカマルが一番早かったが、ナルトが修行の旅に出てからのは、綱手について随分変わった。元々性格もおおらかで細かいことを気にしないのもあって、隊のまとめ役としてはかなり良いらしい。

 内気ではあるが、今では自他共に認める優秀な上忍で随分と頼りにされている。





「まぁ、能力としても二人のコンビはなかなか有益だからな。」




 イタチは鍋を持って、それをコンロにかける。




「二人なら、有益?」




 ナルトは難しい言葉に眉を寄せる。




「二人をコンビにすると能力的にぴったりと言うことだ。は中長距離、サクラは近距離が得意だからな。」




 炎を能力とするは長中距離の攻撃が得意だ。透先眼で遠くからでも目標を視認できるため、数百メートル離れたところから長距離砲式の忍術で敵の要塞をぶち抜いたこともある。現在では長距離戦に関してはほぼ向かうところ敵なし。だが、は近距離戦闘に難がある。腕力がそもそも弱い上、近接戦闘に有効的な手を持たない。

 その欠点を補うのが、怪力を持つサクラだ。近距離戦闘が得意で動きも速いサクラはが能力を使っている時の護衛、また近接戦闘でが相手と距離をとる時間を稼ぐなど、にとって必要なすべてを持っている。




「綱手様の弟子で、一緒に修行をいつもしているから、チームワークも抜群よ。」




 サクラは包丁を持ったまま笑う。それを引きつった目で見つめながら、ナルトはそうかと頷く。




「まぁナルト君も近距離が得意そうだから、は必要になるだろうな。」




 イタチは冷静に分析する。その通りで、ナルトも言葉が出ず苦笑した。




「だからわたしが昇進できたのは半分サクラのおかげなんだよ。」




 はにこりと笑う。謙虚な性格はあまり変わっていないらしい。




「そんなことないわよ。」




 サクラは言いながら、切り分けた肉や野菜をどっさりと皿に盛って、ちゃぶ台の上に置く。

 最後はうどんにするつもりなのか、きちんとうどんまで置いてあった。




「醤油と酒はどこか。昆布はあったかな」




 イタチは棚からまたごそごそと酒瓶と醤油瓶を探して取り出した。




「なんか、昔と打って変わって庶民的だってばよ。」




 ナルトは楽しそうに笑いながらイタチとに言う。

 ふたりとも大きな一族の嫡子で、大きな屋敷に住まい、ちょっと一般人からずれたところがあった。だが今の二人は小さな家に住まい、誰が見ても普通の同棲するカップルにしか見えない。




「最初は大変だったぞ。二人とも家事すらろくにしたことがないんだ。洗剤をつけすぎて、台所は泡だらけになるわ。ガスコンロの火はつかないわ。なぁ?」




 イタチはに話を振る。




「そうだね。わたしもだし粉そのままご飯に振りかけてみたりとかしたねぇ。」




 は目を泳がせる。

 生まれた時から一人暮らしみたいなナルトとは違い、やはり、とイタチにはそれなりに苦労があったらしい。




「さて始めるか。」




 イタチが肉を鍋の中に入れて、醤油と砂糖、酒で味付けをする。じゅうと美味しそうな音と、甘い酒と醤油のにおいに酷く食欲を誘われて、ナルトは思わず舌なめずりをした。



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