ナルトが左に飛んだ次の瞬間、閃光とともにじゅぅっと岩を焼く嫌な音が響き渡る。思わず当たっていたらとひぃっと青くなったが、途端に叱咤の声が響く。
「はい、ナルト!回避が遅いよ!気をつけて!」
高い声音はからだ。
この攻撃を放っているのはで、の周りには淡い白紅色の球体が浮いており、それが一瞬揺れる度に、閃光状のビームが出てくる。
構成としてはその球体は熱量と白炎の外壁をチャクラで固めて高圧に強制圧縮した物体で、側面のチャクラを一部薄くすることによって、中の莫大な力を、一気に一方方向に放出するらしい。球体の大きさと圧縮率に比例して威力が変わるため、きちんと警戒するべきなのだが、なにぶん浮いている球体は10個を超えている。
その上、は手元から風の刃を飛ばしてくる。風の刃を警戒しながら、球体の閃光を注意するのは至難の業だった。
ましてやを捕らえようなど、なおさらだ。
「ナルト!ちょっとしかりしなさいな!!」
サクラはひょいひょいの攻撃を避けながら、ナルトに注意する。
さっきからしょっちゅう掠っているナルトと違い、サクラは慣れているだけあってすごい速度で避けている。
「って言われても・・・ひっ、」
耳のすぐ傍を閃光が通っていく。
それを見ながらナルトは頬を引きつらせるしかない。どうにか防げる方法はないかとナルトも色々考えたのだが、この炎の閃光は簡単なガードを軽く打ち抜いてしまう。
「はこれのおかげで遠距離の天才と呼ばれてるからな。」
イタチは木陰の切り株に腰を下ろして達の修行を観察しながら、冷静に言う。
遠距離の天才、
その言葉は今のに相応しい。多少のガードは簡単に壊すこの攻撃を、は“白隼”と呼んで重宝している。現在では風の刃“鎌鼬”と共にを示す代名詞である。
はこれを自分の血継限界で千里眼の力を持つ透先眼と併用することで、敵から最高5キロ離れていながらも敵を視認、攻撃することが出来る。
「なるほどってばよ。」
ナルトもそれによってが上忍になった理由がわかった。
彼女はその透先眼と後方支援の能力によって、自然と隊長が不在、もしくは戦いに行った時などは、副長として指揮を任されることが多かったのだろう。それ故に昇進も早かった。至極自然な成り行きだ。
はサクラとナルトの二人を相手にしても余裕そうな顔で、風に紺色の髪と緋色の着物の袖を翻している。膝丈の着物の裾に見えるのは五つ咲きの花の紋がある。蒼一族の紋だ。
「ひとまず休憩するか?」
イタチのかけ声にぴくりと反応したは、あっさりと球体を分解した。張り詰めていた空気が一瞬で融解し、サクラが大きな息を吐く。
「緊張するわ。とやると綱手様バリに殺されるかと思う。」
「殺さないよー。サクラは友達だもん」
「とか言いつつ、二回ぐらい殺しかけたくせにー。」
「うぅ、」
前科があるはサクラの言葉に反論する言葉を失い、息を吐く。
「本当に、強くなったんだな。」
ナルトは感心したような、羨ましいような複雑そうな表情をする。
「仕方ないわよ。修行がまたすごかったから。」
サクラは弁当を開くイタチを手伝いながら、呟く。ちなみに今日の弁当を作ったのはイタチとサクラだ。とナルトはそもそも朝起きられなかった。
「任務のない日は、早朝はイタチさんと修行に行って、それから朝の綱手様との修行に出て、昼には斎さんと修行して、夜には蒼雪さんに頼んでまた・・・みたいな。」
サクラはここ数年間のの様子を姉妹弟子のためよく知っている。
「夕方にはぼろぼろで、母上にボロ負けするんだよ。」
くてくてになるまで鍛えられたらしい。
「おかげで打たれ強くなりましたー。」
はシートの上に座って幸せそうに弁当を見つめる。弱々しい、病弱少女のイメージの抜けなかったは随分と変わった様子が見えた。
「は強くなったからな。」
「それでもイタチには全く敵いませんよぅ。」
イタチが言えば、はちらりと隣のイタチを見る。
「そうか?おまえは強くなったよ。本気でやり合えば俺も危ないさ。」
慰めるようにイタチはの頭をくしゃりと優しく撫でつけた。
ナルトがしばらく見ない間に、イタチは随分と痩せた気がする。やつれたと言うほどではないが、儚くなったといった感じだ。元々年よりは大人びて見えたが、なおさら。病を得たと言う話は聞いていたが、まだ完全に病が癒えたわけではないとすぐにわかる。
「嘘ばっかり。」
は少し頬を膨らませて不満げにレジャー用シートの上で足をくつろげるイタチの膝を軽くぽんぽんと叩いた。
「ね、サクラもそう思うよね。」
「そうそ。わたしとが束になったってイタチさんには敵わないんだから。それ言うのはずるいですよ。」
サクラも反論をする。
あまり接点がなかったサクラとイタチだったが、どうやらここ数年のうちに仲良くなったようで、サクラも普通に話すようになっていた。やはりの家に頻繁に行くからだろう。前は修行を見てもらうなどはまったくなかったが、どうやらサクラもと一緒にイタチに頻繁に修行を見てもらっていたらしい。
とサクラの師である綱手はなんだかんだ言っても火影で、四六時中一緒にいるわけにはいかない。忍として優れた両親、恋人を持つにひっついて修行を見てもらうというのはなかなかサクラにとっては良い案だっただろう。
の両親も嫌がるようなタイプではない。イタチも然りだ。
「さて、みんなご飯にしようか。」
イタチが順番に重箱を開いていく。
昼ご飯は個別ではなく、ばさっと大量に卵などを焼いてそれを詰めてきただけなので、自分で好きなものをとる形式だ。
「やったー鮭。」
は手元の紙皿に鮭をとって満足げにご飯と一緒に食べている。
「ナルト君は斎先生にはあったか?」
「あったってばよ。大きくなったねーってあたまぐしゃぐしゃにされた。」
イタチの質問にナルトはの父である斎を思い出す。
ナルトはたまたま綱手に会いに行った時、斎と鉢合わせた。久しぶりだと喜ばれ、挙げ句の果てに頭を昔と同じようにぐしゃぐしゃにされた。ちなみに斎はもう30代半ばのはずだが、あまり顔が変わっていないようだった。
斎は比較的童顔なのだろう。皆それなりに変わったようにしばらく里から離れていたナルトは思ったが、彼とカカシだけはちっとも変わっているように見えなかった。
「明後日から七班で久しぶりに任務なのだろう?皆久々だから調子に乗らず、落ち着けよ。」
イタチは浮かれている三人に注意する。
「もう、大丈夫だよ。」
は不満そうに眉を寄せる。イタチの心配性な所は全く変わっていないらしい。
「そういや明後日の任務って、なんだったかしら。、聞いてる?」
「うーん?なんも?でもなんか暁の風が、なんとかって?」
「いや、それ全然わかんないわよ。」
「暁?そう言えば、そんな集団がいるってエロ仙人も言ってたってばよ。」
脈略の得ない話にサクラはに抗議するが、それを気にせず、ナルトはふと思い出したように言葉を付け足す。
「んー、世界統合主義?だっけ?」
「暴力的なコスモポリタニズムの一種だって、父上は言ってたけどね。」
難しいことはさっぱりわからないナルトとも話だけは聞いていたらしい、顔を見合わせて首を傾げる。
そんな二人をサクラとイタチは困った顔で見据えた。
自覚
( 自分での理解 )