多くの犯罪者を有する暁は、世界統合主義を唱えている勢力だ。
多くの里に支持者がいると同時に、抜け忍を多く抱えるため、里から警戒されている。難しく危険な尾獣を集めているとの情報もあり、尾獣を操ることによって、里と対抗しようとしている節もある。
里、強いては国との争いが起こるのは時間の問題と言われる。
「尾獣・・・」
はぁ?何それと言った感じで首を傾げるの反応は頗る鈍い。
「それって、能力的に強いんですか?」
「ナルトのように人柱力と言われる者たちが使役する場合が多いが、チャクラは多いな。」
「それって、わたしと何が違うんですか?ナルトも持ってるのに、何が危ないんですか?」
綱手が説明しても、やはりの反応は鈍い。怒るでも、何でもなく、は本当に不思議そうに尋ねる。
九尾以上の莫大なチャクラを持つ神の系譜の直系であるにとって、チャクラが多いというのは至って普通の話だ。別段物珍しい話ではない。そのためチャクラが多い尾獣と言われてもぴんと来ないらしい。
ましてや友人のナルトが人柱力であればなおさらだ。
「・・・おまえ。」
綱手は自分の弟子であるに、頭を抱えるしかなかった。まったく話が通じていない。
は馬鹿というわけではないが、自分の見方が動かない少女だった。病弱で常識というものを知らずに育ったせいか、一般人の考え方をまったく介さず、自分の考えをしっかり持ちすぎている節がある。
だから、尾獣に関しても、ナルトが持っているし、チャクラが多いと聞いても自分も多いし、恐れる気持ちが全くないのだろう。それを集めている暁が危険だと言われても、なおさらぴんと来ない。
「あのな、、やっぱ力のある尾獣を複数集めようってしてる時点で、危険だろ。それに犯罪者集団だぞ。」
カカシは困った顔をしてに付け足す。
「それにナルトの尾獣も狙っているわけだしな。」
「・・・そう、なの?」
は今度はナルトに尋ねる。
「え?俺?」
ナルトはどう答えて良いか分からず、サクラの方を見る。
「いや、わたしに話を振られても・・・。」
サクラも困ったように言って、カカシにもう一度目を向けた。話が戻ってきたカカシは大きなため息をつきながら、に言う。
「ひとまずだ。俺たちの任務はこれからナルトと行動することによって、暁の動向にも気を配らなくちゃいけないってことだよ。」
簡潔にまとめれば、も納得出来たのか、こくりと頷く。
ここまでの話が随分と長かったなと思いながら、あともう一つと綱手は口を開いた。
「音の里がな。を狙っている節がある。」
「音?」
サスケのことを思い出し、ははっと顔を上げる。ナルトやサクラも一緒だ。
「まぁ、おまえは希少能力保持者だから、どこでもほしいだろうが、気をつけるに越したことはない。気は抜かないようにな。」
「でも、襲ってきてくれても良いのになぁ。」
「はぁ?!」
「だってそしたらその人を捕まえたら、いっぱい情報が得られるでしょう?」
はさも当たり前のように、無邪気に笑う。そうすればサスケを取り戻すことが出来ると言外に言っていた。
「おまえ、」
綱手は眉を寄せて、を見据える。
イタチが里を抜けてしまったサスケのことを、そしてうちは一族のクーデターを密告して一族解体に追い込んだことを、大きな罪悪感と共に未だに抱えていることを、は知っている。だからこそ、せめてサスケだけでも取り戻したい。傷ついているイタチを間近で見ているがそう思うのは当然だ。
綱手も十分承知だが、のこういう所をたまに不安に思う。
ここ数年のの能力、精神的な成長は、師である綱手も目を見張るほどのもので、驚くほどしっかりした。は目的をきちんと把握し、果たすだけの能力をつけた。けれどその反面、幼い頃から病弱で多角的にものを考えることを知らなかったため、物事を考える時の視野が狭く、本来なら当たり前のように見えている一部が、欠落している時があった。
イタチのために何でもしてあげたい。
はいつでもそう思っている。でも、イタチが最初に望むのはまず、の身の安全だろう。本当にそれを自身が理解しているだろうか。
「ひとまず、おまえらはふたりは慎重になれと言うことだ。」
綱手はとナルトを睨んで注意する。
「良いな。くれぐれも、自分の命を棒に振るようなまねはしないことだ。おまえらは無鉄砲すぎる。」
「「はーい。」」
二人の返事は揃っていて、非常にはっきりした肯定だったが、全く当てにならないのは綱手もカカシもよく知っている。
それに長い綱手の話にも飽きてきたのだろう。既にナルトとの視線は揃って明後日の方向を向いていた。まともに聞いていなかったに違いない。
「明日から通常任務だからな。心してかかるように。」
もう長い話をしていても二人には何の意味もないだろう。綱手はそう思って話を切った。
「あ。綱手先生。本気でやりあう許可くださいな。」
「誰と?」
がにこにこ笑いながら、思い出したようにそう言った。綱手は今までの慎重になれの話を聞いていたのだろうかと疑いたくなりながらも、尋ねる。
「母上。多分、お話行くと思う。」
の母、蒼雪は綱手の弟子であった。と同じ白炎使いであり、炎一族の宗主でもある。
高レベルの忍び同士が模擬戦をするためには、任務上の問題と場所の問題とで、当然許可がいる。下手をすると他人を巻き込みかねないからだ。
この2年半の間にが許可を得て本気で争ったのは5回。父親の斎と、恋人のイタチだけだ。本気だと言っても、にはまだ到底逆立ちしても勝てっこない相手だが、それでも周囲への影響は絶大だった。
特にの白炎はチャクラを無効化するため、暴走させると手に負えない。許可は当然のことで、ついでになかなか出ないのが常だった。その上同じ能力を持つ母親までとなれば、綱手とは言え上忍会の説得など時間が随分とかかるだろう。
「・・・何をしたいんだ?」
蒼雪は火影並の力を持つ神の系譜の直系であり、実力もさることながら、気性も荒い。子供を相手に手加減をする器量は持ち合わせていないだろう。ましてや今のに勝てないのは明白だ。
綱手はを見ると、は自分の肩に乗る白炎の蝶に手を伸ばした。
「どこまで操れるのか、限界を知りたいの。」
のチャクラの半分を体に宿しているのはイタチだ。
大きすぎるチャクラは体を蝕む。の体は本来自分の持つすべてのチャクラを支えるほど強くはない。だから、イタチが半分肩代わりしている。
しかしその半分でも、チャクラの量だけで言うなら、蒼雪と互角だ。
「無茶のラインを知りたい。」
これから戦いが難しくなると言うことを、は理屈で分からずとも何となく理解している。そして病を抱えるイタチを支えていかなければならないことも。
自分が勝てないレベルの人間がたくさんいるからこそ、自分の持つ力の限界と、無茶の境界を知る必要がある。
「わかった。」
綱手は頷いて、を改めてみた。
紺色の瞳は汚れることはなかったけれど、ここ数年で酷く大人びた。ただ自分の大切なものを心から思っていることを、綱手は誰よりも知っていた。
意志
( 心の中にある自分の志 )