チヨ、カカシ、、ナルト、そしてサクラ。5人が我愛羅を攫った面々を追うことになった。





「よっしゃ、行くってばよ。」




 ナルトは鋭い瞳を森のあたりに目を向けた。




、補足は出来てるか?」




 どうしても熱くなりがちなナルトにため息をついて、カカシは冷静にに声をかける。

 は紺色の元の色合いから自分の瞳を薄水色に変えて、遠くを見る。既にサソリともう一人の男がどこにいるか、視えていた。透先眼は少ない遺物だけで、消息をたどることが出きる。ただ、サソリとその男がいる場所は結界が貼られているのか、中の様子までは見ることが出来そうになかった。

 透先眼とはいえ、結界内まで覗くことは出来ない。




「うん。大丈夫。」



 はカカシに大きく頷いた。




「便利な能力じゃな。相変わらず。」




 チヨは久々の任務に肩をぐるぐる回しながら、に言った。

 は体力がないため犬神を呼び出し、その上に乗る。全員の準備を再確認して、一斉に出発することになった。




「蒼の倅は元気か?」




 道すがら、チヨはに尋ねた。





「父上は元気ですよ。相変わらずですけど、最近は忙しいみたいで。」




 イタチが病に倒れてから、代わりに斎は忙しくなった。

 おそらく彼の任務のほとんどは斎が肩代わりしたのだろう。イタチはそのことに随分心痛めていたが、斎はイタチが怪我をした時などは絶対にそのことに文句を言ったりしないし、日頃だらだら任務に遅刻したり、さぼったり、適当に書類を他人に押しつけたりしているのだが、任務をサボらなくなる。

 シカマルの父のシカクなど「イタチは療養の名目で遠慮なく長いこと休んだら良い。斎様にはたまには少しやってもらないとな」とイタチを慰めていた。




「あやつ、元が優秀なくせに、変じゃからのぅ。苦労するじゃろ。」

「え?そんなこと、ない・・・けどなぁ。」




 娘のから見ると父は、普通だ。

 誰から見ても一人娘に激甘の父親で、鬱陶しいくらいに親ばかで、忍びとして尊敬できるかと言われると能力は尊敬できるが、素行は最悪で、でも申し分のない父である。




「おまえが苦労してない分、俺たちが苦労してるから。」




 ひらひらとカカシはに手を振る。

 斎とカカシは暗部で同期だったらしく、その時は少し年上の斎に任務やら書類やらひとまず何から何まで押しつけられ、カカシも当時は真面目だったらしく、大変だったと言っていた。

 それは斎がイタチを弟子にしてからも変わらなかったらしく、全く関係のない任務の書類をカカシに押しつけたとイタチが怒っていることが何度もあった。




「あはは、」




 はへらっと笑って返すしかない。




「おまえ、蒼の倅から何か聞いとらんか?」




 チヨが父の動向を聞いたのは、何も彼が元気か知りたいわけではないらしい。本題はそちらかとは思いながら、少し考える。




「うちはの一件から、音、暁への警戒は、強化されましたがね。」




 代わりにカカシがため息をついて答えた。




「・・・うちはの一件からって、どういうこと、だってばよ?」




 ナルトはうちは一族と暁の関わりまで知らなかったらしく、眉を寄せて問う。




「うちは一族の逃げた一派が、暁や音に逃げたって話なんだ。」




 カカシはナルトをちらりと見て、話をする。

 うちは一族の反乱は、木の葉の里にとっても衝撃だった。なぜなら彼らは3代目火影を殺した大蛇丸を里長とする音の里の忍と手を組み、里の中に引き入れたのだ。イタチの密告によってある程度事前に把握していたので対応は早かったが、うちはの一部は音の里、そして自動的に里に敵対する暁に流れた。

 音の里へと行ったのは、何もサスケだけでは無いと言うことだ。そのため音と暁への警戒は当然強化され、暗部も情報を探っている。




「・・・うん。それは知ってる。わたしも・・・」





 は表情を曇らせた。




「どういうことだってばよ?」

「炎一族は里を抜けたうちは一族の対処にかり出されてるんだ。写輪眼に有効的手立てを持つのは、炎が一番だからな。」




 カカシは意味を飲みかねているナルトに説明をする。




「知ってるわ。それ。確かうちは一族得意の幻術たぐいが聞かないのよね。炎一族は。」




 サクラはこの2年半里にいて、何度もと任務を共にしていたため、事情を知っていた。

 根本的に写輪眼は一般的にチャクラの流れをすべて“見る”ことが出来る。そのため術を先読みされたり、解かれたり、跳ね返されたりと、写輪眼への対処は困難を極め、特に写輪眼を視認することによって受ける幻術、術返しは、手練れの上忍でも対処できない。



 それを簡単にやってみせるのが炎一族だ。

 白炎使いである宗主を頂点とする炎一族の血継限界・鳳凰扇は能力と炎の色、力に大なり小なりあるが、基本的に他人のチャクラを食い分解する性質を持つ。

 写輪眼によって術を先読みされることはあっても、幻術や術返しなどは炎一族にとっては全く無意味だ。他者のチャクラは炎一族にそもそも干渉出来ない。術はすぐに分解されて終わりだ。

 写輪眼による術返しや幻術を得意とし、それ以外の術を持たないことも多いうちは一族のものは、炎一族にかかればただの忍。そのため、炎一族はこの二年半、うちは一族の残党狩りにかり出されてきた。




「特にのお母さんの蒼雪様は、そもそもチャクラを写輪眼では先読みされないらしいの。」




 サクラは何度も写輪眼を持つ者の捕縛のためにと共に任務に赴いた。

 写輪眼はどうやら色でチャクラを判断するらしいが、や蒼雪など炎一族の直系、白炎使いはチャクラの色が透明らしい。

 のチャクラは半分イタチに肩代わりされており、暴走させた時はその封印術を引っ張るため、僅かに色がつくが、基本的には写輪眼では視認できないのだ。




、おまえ・・・」




 ナルトはを振り向く。は目を伏せて表情を曇らせていた。

 彼女は同期で誰よりも早く上忍になった。

 それはおそらく、うちは一族の残党の捕縛での功が大きかったという裏もあったのだろう。術を分解するため、簡単に結界を無効化することは、ナルトも知っていた。

 だが、うちは一族と炎一族は、うちは一族の反乱の直前まで仲が良く、顔見知りも多数いたはずだ。




「うん。でもわたしが、お願いしたの。」




 は悲しそうに笑って、ナルトの方へと向いた。




「本当は、イタチが志願したんだけど、わたしがやりたいって綱手先生に、おねがいしたの。」

「なんで・・・」

「だって、そんなの、悲しすぎるよ。」




 うちは一族のことを密告したイタチの罪悪感は重たいものだった。それが病の原因ではないかと誰もが思うほどに、重い。

 それなのにまた、うちは一族の残党を捕まえろなんて、酷すぎる。




「一族のみんなは、優しいから。」




 本当は一人で残党狩りをしようと思った。けれど気づいた時には一人、二人と炎一族のものが志願していた。

 誰も裏切り者とはいえ顔見知りを、わざわざ志願して好んで捕らえたいと思うまい。

 それでも東宮であるの心をくみ取って、炎一族のものは協力した。術返しがきかないとはいえ、簡単な任務ではない。だが、それでも率先して志願した。




「イタチのために頑張るって、決めたんだ。」




 だから、とは悲しみを振り払うように笑う。

 ナルトは彼女の紺色の瞳を呆然と見つめるしかなかった。はいつも控えめで、戦いが苦手で、襲われるまでそこでとどまっているような少女だった。攻撃されれば相手を倒すが、自分から率先して戦いに出向くことはなかった。


 悲しい笑顔から、彼女の心持ちが変わったようには思えない。


 ただ、その悲しみを凌駕するほどの決意が、そこにあった。






覚悟 ( 強く思うこと )