森から見渡しの良い荒野へと出た途端に、の犬神が一番に敵の存在を感知し、ふっと鼻先を上げる。
「来た。」
は小さく呟いて、犬神が横に飛んだと同時に、爆音が響き渡る。
「!!」
ナルトが驚いて叫ぶ。
犬神の動きは速く、近くの岩に着地し、をおろす。の動きも速く、すぐに自分の白炎の蝶から球体を作り出す。白炎の表面をチャクラで覆い、圧縮し、表面の一部を薄くすることによってビームのように圧縮された白炎が一直線に相手に襲いかかる。得意の“白隼”だ。
「大丈夫?」
サクラが落ち着いた様子での隣に立つ。
「うん。怪我はない。」
は短く答えて、水色の瞳で煙が渦巻くあたりを凝視する。
「避けられちゃいましたよー。」
黒い服と白い仮面をつけた男が、笑いながらかりかりと頭を掻いていた。あまりに気の抜けるような声音だったが、は容赦がない。
すぐに白隼で彼を攻撃する。ガードなど一瞬で打ち抜く白炎の圧縮ビームだ。
4本の光の筋が男の体を貫いた。
だが男は笑いながら、相変わらず立っている。
「え?」
サクラはぽかんと口を開いて、男を凝視した。は黙ったまま眉を寄せる。
「すごいなー。チャクラを直接焼く白炎のビームか。これはなかなかやばいな・・・」
男は楽しそうに笑いながら、へと顔を向けた。軽い調子の男だが、サクラは一瞬背筋にぞっと悪寒が走ったのを感じた。
自分でも何が怖いのか、わからない。
だが、悪寒を感じ、思わず拳をぎゅっと握りしめると、がすっと一歩前に出た。
「カカシさん、後ろにもいる。」
「あぁ、わかってる。そっちはうちはだな。」
が男から目をそらさぬまま、カカシに教えれば、カカシは分かっていたのか頷いて、確認するように言った。
もう一人、森の木の陰から男が現れた。
それはも数度見たことがあるうちはイナビという、長い黒髪の若い男だった。
「そっちの方が、やばそうだが・・・」
カカシはイナビを確認して、ちらりととサクラの前にいる男を見据えた。
仮面をしているため年齢も、能力も分からない。だが、の透先眼に感知されずにに近づいたと言うことは、かなりの手練れだ。イナビの方は木の葉に所属していた今は抜け忍で、カカシも能力を十分承知しているが、仮面の男はわからない。
確かに2年半で強くはなかったし、経験も積んだが、それでもとサクラで相手をするのには、荷が重い。
「実体がないということかの。」
チヨがすたりとサクラとの傍に降り立つ。チヨは歴戦の英雄でもあり、彼女の助けはサクラとには必要そうだった。
「ご老人には興味ないんですけどー。僕が知りたいのはそっちの子だよ。」
不満そうに仮面の男がを指さした。がますます表情を険しくして、むっとした顔をする。
少なくともを逃がしてくれる気はないらしい。
「・・・チヨばあさまは、中距離か近距離、得意?」
はちらりとチヨを窺う。
「中距離は得意というか、それしか出来ん。もう年じゃさかい。」
チヨは答えて、巻物を取り出す。はそれを見て、彼女もサソリと同じ傀儡使いであったことを思いだし、中距離という言葉に納得した。
「良かった。それが足りなかったの。サクラ、援護、してくれる?」
は握りしめているサクラの拳の上に、自分の白い手を置く。サクラは強く拳を握りしめた。
「もちろんよ。」
そのためにここにいるのだ。2年半そのために修行をしてきた。
「わかっとろうな。あいつが何か分からん限り、サクラ、近づくでないぞ。」
チヨがサクラに釘を刺す。
今の時点で分かっているのは、チャクラを無効化するはずのの白隼が聞かなかったと言うことだ。実態がそこにない可能性が高い。近距離を得意とするサクラが近づけば、無用な怪我をして終わる可能性が高かった。
そのため、どうしても仕方がなくなった時のみ、だ。
「カカシさん。」
は自分たちの体制を確認してから、カカシに目配せをする。すると納得してカカシも頷いた。
「俺たちは、こいつってことだな。」
ナルトも理解したのか、イナビの方を睨み付ける。
「すぐ戻るってばよ。」
「うん。出来れば嫌な予感がするから早く戻ってきてね。」
はあっさりと助力を求めた。
「不吉だね。の予感って大抵当たるからさ。」
カカシは渋い顔をしながらも、ひとつ頷き、イナビの方へと向き直る。はカカシ達に振り向きはせず、仮面の男を睨む。
「はじめ、ますか。」
の肩にいた蝶がふわりと増殖を始める。沢山の蝶と球体が宙をさまよう。次の瞬間だった。
「っ!?」
サクラやチヨが声を上げる暇もない。仮面の男は、の目前にまで迫っていた。明らかにサクラとチヨの回避は遅れており、長い刀が二人の首を一閃する寸前、がそれを止めた。
きん、と嫌な刀の擦れ合う音がする。
見ればが短剣で相手の刀を受け流した所だった。我に返ったサクラとチヨはほぼ同時に後ろへと回避する。
それは本当に一瞬の攻防だったが、刀を仮面の男が突き出し、短剣でがそれを斜めに受け流す。それが何度も繰り返された。は基本的に力がないため、男の刀を受け止めて隙を作ることは出来ない。
だが、狙いを定めた白隼が、仮面の男との僅かな間を一閃した。
「おぉっと、」
間の抜けた声を放ち、仮面の男は後ろへと飛ぶ。その動作は驚くほど速かったが、焦りの色はない。むしろ余裕が窺えた。
「流れるような、綺麗な動きだ。体術も基本軸を押さえていて、隙がない。血継限界に慢心せず、よく修行したらしいな。」
それは子供を誉めるような言葉だった。
「いやぁそんな怖い顔しないでくださいよ。お会いしてみたかったんっすよね。炎一族のお姫様なんて、なかなか会えないでしょ。」
「何故?」
「決まってるじゃないっすか。神の系譜の中でも一際大きな能力を持つ、炎一族の先祖返り。」
「・・・よく知ってるね。」
は平静を装いながら淡々と言って、腰にある刀に手を伸ばす。
「貴方すごく嫌な感じがする。」
「・・・、」
「すごく嫌な感じ。」
の勘はよくあたる。自覚もあった。
この男からはとても嫌な予感がする。予感と言うよりは既に確信に近く、の勘が最大限の警鐘を鳴らしている。
「相変わらず蒼の一族は、勘が鋭いな。」
ふむ、と男は一つ頷く。
おそらくの父斎か、もしくは他の蒼一族のものにあったことがあるのだろう。彼の年齢は窺えないが、彼らと同年代となるとなかなかの年齢と言うことになる。
は警戒をしながら、慎重に間合いをとる。
そしてチヨとサクラに目配せをした。
戦闘
( 戦うこと )