サクラはじっとの背中を見つめる。

 彼女の背中はサクラよりも背が低いため小さい。だが、サクラはいつもを庇っているつもりで、の背中に庇われてきた。

 小さな背中に沢山のものを負う彼女を助けるために、サクラは強くなった。

 サスケを助けたいという気持ちは今も変わっていない。けれど、それと同時に、炎一族の東宮として、イタチのためにとうちは一族の残党と相対するを間近で見た時、一緒に戦いたい、支えたいと思った。

 忍同士なので、守りたいとは思わない。

 ただ、一緒に戦って、今度こそ彼女を助けたいと思った。





、何が出来ると思う?」





 サクラは恐れることなく、の隣に立つ。

 白い蝶が炎の分身で、がそれを暴走させるとサクラにも危険が降りかかることは、ここ2年半でよくわかっている。一瞬でサクラを灰にするほどの力を持つ。それを知った時、サクラは恐れないと決めた。

 白炎を恐れることなくの隣に並ぼうと、心に決めたのだ。




「・・・えっと・・・」




 の瞳に冷静さが戻り、サクラを振り返る。





「なんか頭あたりが嫌な感じがするんだよね。と言うか、うーん、近づかない方が良いかも?」

「・・・それって手がないンだけど。」

「わたしが、近づいてみるよ。多分、術の外枠を見つけないといけないけど。」





 は自分の刀を軽く逆手に抱えて息を吐く。

 体を攻撃がすり抜けることを考えれば、何らかの形で術を使っていると言うことだろう。時空間忍術なのか、それともなんなのかは分からないが、の炎でその男のチャクラごと焼いてしまえば良い。

 周りを焼くということになるが、可能なはずだ。

 時空間忍術なら、中央ならばの攻撃も異空間に飛ばすだろうが、周囲のチャクラを焼いてしまえば、対処できる。




「そのあたりの微調整出来る?」

「うーん。ちょっと厳しいかな・・・。」




 には正直自信がなかったが、それしか手はなさそうだし、対する術を持たないサクラやチヨがやるのは無理だ。

 は他人のチャクラを直接焼く白炎のおかげで、基本的にすべての術に対する対処法を持っていると言うことになる。

 がやるしかないだろう。




「OK,じゃあこのあたりで援護すれば良い?」





 サクラが岩を持ち上げて、息を吐く。

 近づかないというとなれば、サクラは有効的手段を持たない。援護は多少の術と、岩を投げるくらいしか能がない。




「うん。やる、かぁ。」





 は少し間抜けな背中の刀を逆手に構えて、声と共に男に肉薄する。刃のように速く飛ぶ蝶が、と共に男に同時に襲いかかった。

 自身は男を翻弄するため、蝶は男の術のチャクラを焼くためだ。




「・・・ちっ、」





 男の目が丸く見開かれ、その次の瞬間、はとんっと肩を叩かれた。





「っ!?」




 速い、と頭の中で言葉を呟く。男は無理矢理にと距離をとり、白炎を順番に処理していく。




「・・・、」




 は渋い顔で自分の肩を手で押さえる。

 何ともなっていない。だが、今のスピードなら十分肩ではなく、の首を落とすことが出来たはずだ。

 白炎に邪魔されたとしても、大けがを負わせることは、可能だったはず。





!!」





 サクラが真っ青な声での名を呼ぶ。





「・・・どういうつもり?」





 は距離を保ったまま、男を睨み付ける。





「別に、おまえを殺す気はない。」





 男はあっさりと言って、を安堵させるためか、警戒を解いてみせた。が今攻撃したところで、間違いなく彼はの攻撃をいなしてくるだろう。

 一瞬のやりとりで見えたのは明らかな力の差だ。

 それを覆すには、にもそれ相応の覚悟がいる。もちろん砂隠れの我愛羅を追いかけるためには時間を食っていられないが、男に仮に戦う気がないというのならば、が命をかける必要はない。





「少し話をしたいだけだ。」

「・・・わたしはあまり貴方と話したくない。」

「随分と素直だな。」




 が口をへの字にして言えば、ふっと男が仮面の下で笑みを零したのが分かった。





「これは忠告だ・・・あまりうちはに関わるのはやめておけ。」





 男はに真剣な声音で言った。






「炎一族のためにもなるまい。」

「・・・何故それを貴方が言うの?」





 は少し目をぱちくりさせて、男に問う。だが、男は答えない。





「おまえの気持ちが、里に利用されるだけだ。」





 その声音は酷く静かさを装っていたが、僅かだが、深い憤りが感じられた。

 気持ちを利用されている。それは炎一族の者にも言われたことがあるので、敵に言われるような話ではない。




「・・・例えそうだったとしても、わたしはそれで良いと思っているよ。」




 は目を細めて、男を見据える。




「うちはイタチのために、か。」




 男が初めて本当に柔らかな声音を出した気がした。

 イタチのため、そう思う人も確かにいるのかも知れない。けれど、それだけは勘違いしないで欲しい。




「うぅん。これは、自分のため。」





 は首を振って、男に答えた。





「わたしが、もらったものを返したいからだよ。」





 イタチのためだなんておこがましいことは言えない。

 自分の心のために、自分が幸せだから、そうしたいと思ったのだ。例えそれが里の上層部や暗部のダンゾウに利用されていたとしても、それで良いと思った。





「蒼は昔から甘い奴が多いな。もったいない限りだ。良い能力を持っているというのに。」





 男はため息をついて、短い髪をかりかりとかく。

 それは酷く呆れた様子でもあった。どんな答えを期待していたのかとは思わず眉を寄せたが、敵を慮る必要はないだろう。




「・・・昔?」




 は彼の言葉に訝しむ。

 蒼一族は現在、と父である斎を残して滅びている。斎の両親は20年前に相次いでこの世を去っているし、斎が幼い頃には既に蒼一族は数人、100年前の時点で既に蒼一族の人数は40人をそれぞれ下回っていたと聞いている。

 男が「蒼は昔から甘い奴が多い」と発言するためには数人は知っている必要がある。

 の祖父母、もしくはそのもっと前の蒼一族を知っていることになる。




「貴方、案外、年なの?」 




 彼の言葉から逆算すれば、彼は父が幼かった30年前には忍をしていた計算になる。とすると少なくとも40代を軽く超している計算になる。




「・・・賢いのか。まぁ大体分かったさ。」




 ふむ、と男は感心したようにの結論を賞賛して、くるりときびす返す




「だが少しゆっくり話をしたい。イタチの姫宮。」




 男は最後にそう言って、姿を消していく。




「なんじゃったのじゃ。」





 意味が分からないとでも言うようにチヨは男の消えていった方を睨み付ける。




「多分・・・わたしを確認しに来たの、かな。」




 は不快感もあらわに言って、大きなため息をついた。




遭遇 ( であう )