「ここはっ、」
仮面の男から刀を使って離れ、着地すると、そこは森の中だった。
先ほど仮面の男と会った森。
おそらく我愛羅達を見た洞窟からは1キロ強と言ったところだろう。はあたりを確認して、舌打ちをする。
ナルトやカカシ、サクラたちと引き離されたらしい。
「なんの、つもり?」
明らかに仮面の男は、を殺す時間があったはずだ。もちろんの能力は希少であるため、生け捕りにしたいのもわかるが、戦闘不能にも出来るだろう。
は警戒もそのままに仮面の男を睨み付ける。
「少しゆっくり話がしたくてな。」
「わたしは話したくないって、言った。・・・仲間の所にすぐに戻りたい。」
「そう焦るな。」
仮面の男は落ち着いた様子で、そのあたりの幹へと腰を下ろす。
は男の動きをじっと見つめた。自分の周りを白炎で囲んで術をきかなくして、逃げ出すという方法もなくはない。
だがそうしてしまうと、この男も一緒にサクラたちの所に戻ってしまうことになる。
この仮面の男がかなりの手練れで、暁の衣を纏った敵であることを考えれば、カカシ達も暁の他の男二人で手一杯だろう。
結果的にがこの男の処理を請け負わなければならないことは当然であり、結局現状は変わらない。
「・・・」
ちらりとは自分の肩にいる白炎の蝶をちらりと見る。鱗粉をまき散らす蝶は幻術を跳ね返しているようだ。
「安心しろ。そうだな。20分つきあってくれたら、俺はあいつらと合流せず、ここを去ろう。」
「貴方のお話に?」
「不満そうだな。」
不満に決まっている。は言葉にしなかったが、視線を男から背ける。
「本当に蒼一族は素直な奴が多いな。」
仮面の男は、仮面の下で笑った。は男を信用することも出来ないので、口寄せの犬神を隣に置き、犬神に身を守られるようにしてふせをした犬神の腹あたりに座る。
こうしておけば、仮面の男が近づいても犬神が盾になり、隙が出来るからだ。
「安心しろ。別におまえを殺す気はない。」
「・・・信用できない。」
「俺はうちは、だ。」
「なおさら信用できない。」
の主張は当然のものだった。
現在達炎一族は3年前のクーデターの時に里を抜けたうちは一族を率先して狩っている。うちは一族ならなおさら、炎一族の東宮であるを憎む理由がある。
は確かに憎むという気持ちは良くわからないし、憎まれてとても悲しいが、そういう感情を抱かれても仕方がないと、理解も覚悟もしていた。
「俺はおまえに敵意はない。おまえがやっていることの意味も理解しているつもりだ。」
仮面の男は冷静な声音で話を聞くように求めてくる。
「だからこそ言っている。うちは一族を守るために、里の思い通りになるようなまねはやめろ。」
「・・・それはさっきもわかっているって、言った。」
「何もわかっていない。里はおまえの感情を利用しているだけだ。」
「わかってる。でも、そうしたいの。」
は男に前に話したのと同じ内容を話す。
里に利用されていることは納得している。そしてもまた、だからこそうちは一族を自分たちが狩ると言ったのだ。
「それが里にのせられていると言っている。炎一族とうちは一族との関係悪化を狙っているだけだ。」
「それも知ってる。それも納得してるの。」
いちいち言われなくとも、は馬鹿ではない。
分からないことは沢山あるが、元々人の感情には聡い性質をしている。上層部が炎一族にどうして欲しいのか、そう言ったこともは納得出来ないし、自分にはそういう感情がないながらも、理解はしていた。
「おまえら炎一族は、里に頼らずとも生きていける。里に何かを求める必要もないはずだ。」
男が言う言葉は、確かに一理あった。
炎一族の宗家は確かに火の国内に多くの土地を持つ大名的な部分があり、確かに木の葉の里の少し郊外にある森に居を構えているが、そこが先祖代々の居であるだけの話で、いくらでも行くところはある。
人数も多いので、そう言った土地に移住し、村を作ることも十分可能だ。
だが、炎一族が里の忍としての職を得るようになったのは、優れた血継限界を持つため、忍として働く方が給金も良く、普通の農作業などの肉体労働よりも楽だという面もある。
特にの母蒼雪が里の忍となったのと同時期に作物が育たぬ時期があり、また忍界大戦後すぐで里自体も忍が足りなかったため、炎一族の流入を歓迎したという裏もある。
「わたしは、上層部に利用されるのは嫌だけど、みんなのことは大切に思っているもの。」
かつて病弱だったの元に3代目火影がやってきて、言ったことがある。
――――――――姫宮、おまえも、里の一員だ
アカデミーの友達達はに優しい。サクラ、ナルト、シカマルやヒナタ、いの、ほかのみんな。そして今はいないサスケ。
随分仲が良く、助け合う、結束力の強い期だと皆から言われている。
は今でも任務のたびに皆に助けてもらったり、お互いに叱り合ったり、一緒に修行をしたり、良い仲間であり、友人であり、ライバルである。
「それに、炎一族を巻き込むのは申し訳ないけど、うちはから恨まれるのは良いの。」
これも本来ならばが背負って然るべきことだ。も納得している。
「・・・頑固な所は結と同じか。」
ふと男は思い出すように目を細めて言った。
男の出した名前に、は思わず眉を寄せる。そんな名前の同族を聞いたことが無かった。宮号でなく名であることを考えれば、蒼一族だろう。
の祖父母の名は、聖と梢だ。蒼一族ならではの風習で、1文字、また訓読みの名をつけることが多い。の知らない、けれど響きから言って蒼一族の誰かだ。
「おまえに死んでもらっては困るんだがな。」
困ったと言った響きだった。
まるでの事情もの決意もすべてを知っているようで、は眉を寄せて思案を頭の中で巡らせる。
イタチでもまだ気づいていない。
これにはの決意と、能力的な限界、そしてそれを引っ張り出す方法があることを知っているか、その三つがなければ理解できないはずだ。
の父・斎ならばの決意を知れば、察するかも知れない。だが、イタチにすらも話していない事実が、ある。それは未だに彼も知らないはずだ。
それをこの男が知っているとでも言うのだろうか。
「これは忠告だ。おまえは完全ではない。」
男の言葉が、に突き刺さる。
「だからこそ、己のために、うちはイタチのために、炎一族のために、自分を大切にすることだ。」
両親にとって、イタチにとって、炎一族にとって、自分の命は誰よりも重いものだと言うことを知っている。知っていても、には譲れない願い事があって、命をかけてでも取り返したい人がいて、取り返したいものがある。
「・・・知ってるけど、でも、」
は完全ではない。
完全ではなかったからこそ、他人から奪ったものがある。そうしなければ生きていけないものがあった。
だから、
「取り戻したいの。」
同じものを与えることは出来ない。けれどそれ以上のものを、より元の形に近い状態に戻すことは出来る。
は自分の命をかけて、それを願っている。
願望
( ねがい のぞむ )