が家に戻ると、いつも通りイタチが待っていて、狭い玄関の前にある台所で料理をしていた。
「お帰り。」
イタチはを見るなり酷く安堵した顔をして、言う。
「うん。ただいま。」
も久方ぶりのイタチにほっとしながら、イタチに抱きついた。
サクラが綱手への報告を請け負ってくれたおかげで、はすぐに家に帰ることが出来た。サソリが出していた大蛇丸へのスパイが天地橋に来るという情報をサソリからもらったため、それの話し合いもあるのだろう。
難しい話は分からないし、数日以内に出発となるだろうが、カカシは倒れたままだ。
他の忍の選任のためにも、綱手への報告は早いほうが良かったため、サクラが請け負ってくれたのはありがたいことだった。
「どうした?」
イタチはを抱き留めながら、優しく背中を撫でる。
「うぅん。何でもない。」
天地橋に行けば、大蛇丸に会うかも知れない。そして大蛇丸と共にいるサスケにも。
そう思えば少しは不安になった。だが、イタチのためにも行くしかないのは間違いないので、覚悟を決めるしかない。
「相変わらず、甘えただな。は。」
突然、イタチより少し高い、楽しげな声音が聞こえて、は顔を上げる。
声は台所の奥にある居間の方から聞こえてくる。そちらに目を向けると、そこにいたのは自分と同じ顔をした自分の父だった。
「ち、父上!?なんで?」
「君が帰ってくるって知らなかったから、泊めてもらう予定だったんだよ。」
斎も娘がこんなに早く帰ってくると知っていたら、相手が自分の弟子だとは言え、娘の同棲先に泊まろうなどとは思わなかった。
だが、がいないと聞いていたから、今日泊まる予定だったのだ。
「駄目だったか?」
イタチはのあまりの呆然とした顔に、困惑したように尋ねる。
だが、悪いのは絶対にイタチではない。
ましてやの親である。
「駄目じゃないけど、ちょっとびっくりしちゃった。結構泊まってるの?」
一週間は砂の里にいたのだ。それまでも何度かが家を空けることはあったので、これが初めてではないのかと尋ねると、斎はころりと笑って見せた。
「ってば同棲し始めてから帰ってこないから、僕も寂しくてね。雪も長期任務だし。寂しいもの同士仲良くしてたの。」
同棲してからはあまり実家に寄りつかなくなった。
一人娘のが家を出て、妻の雪も長期任務となると、斎も寂しい時がある。イタチは斎の副官であり、その話をすると、イタチもイタチでが長期任務で家にいなかったのだ。イタチが今と借りている家は火影岩に近く、仕事場にも近いため、イタチの家に斎が泊まることになったのだ。
「本当にイタチと父上って仲良しだよね。」
普通彼女の父親は出来れば会いたくないだろうが、師と弟子という枠組みを超えて、斎とイタチは仲良しだ。
確執は全くなく、むしろイタチは率先して斎に相談しに行っているところがある。
自分の父親が反逆罪でつかまっている上、もともと折り合いが悪かったせいもあるのだろう。昔から何かと相談は師である斎頼みだ。
「最近は結構飲みに連れて行ってもらったりもしてるからな。」
イタチも今年で二十歳になった。
それまでも酒を口にしたことは無いとは言わないが、それでも公に飲みに行ったり出来るようになった。父と折り合いが悪く、友人が少ないこともあり、最近では斎と飲みに行くことが多い。
「え、そうだったんだ。ちょっとそこまで頻繁に飲みに行ってたとは、びっくり。」
が長期任務の間の話だろう。
もちろんと父も仲が良いが、男同士腹を割ってはなせることもあるらしく、二人でよく話しているのは知っていた。だが、まさか自分が長期任務の時にわざわざ出かける程仲が良かったのはびっくりだ。
イタチは淡泊で、そう言う人との関わりは苦手だと思っていたが、おそらく仲が良い人が少ないだけだったのだろう。
「まぁ、でも帰って来ちゃったから、帰ろうかな。」
斎は流石に悪いと思ったのだろう。そう言ったが、が首を振った。
「え?帰っちゃうの?わたしすぐにまた次の任務があるから、明後日辺り出なくちゃいけないのに。」
父親と久々にあったというのに、一目見るだけで帰ったのでは寂しい。そう言うと、斎は困ったような顔をしてからイタチを見ていた。
わざわざ父がイタチに目配せをするのに首を傾げていると、イタチはくすくすと笑っていた。
「良いですよ。泊まっていって。もこう言ってますし。」
イタチは師の遠慮の原因が十分に分かっていたが、そう返した。
いつもは空気を読めないふりをしているが、彼は基本的に全部分かっている。だから、久々にイタチとが一緒にいられるのだから、と家に帰ろうとしたのだ。
二人でゆっくり過ごせる時間をと、思ってくれたのだろう。
だが、が良いと言っているし、イタチとしても別に斎が家にいること自体は別に良かった。なんと言っても昨日もその前の日も泊まっていたのだ。今更嫌がる理由もあるまい。
「・・・そう?じゃあお邪魔しておこうかな。」
少し訝しげな顔をした斎だったが、の表情を見てから納得して、またぐてぇっと今に転がる。人の家にいるとは思えないだらけっぷりだが、家と同じである。
「それにしても良かった。今日のご飯はホワイトシチューで、たくさんあるからな。」
「わー豪華だね。」
イタチももお互い料理が出来ないため、ホワイトシチューを作るとなれば半日仕事だ。が言うと、イタチは肩を竦めた。
「作ったのは斎先生だけどな。」
イタチは鍋の底が焦げないようにかき混ぜていただけだ。
斎は両親を12歳の時に亡くしており、それから一人で家事全般をやってきたため、かなり料理上手だ。大きな一族のお嬢ちゃんお坊ちゃんのイタチととは全く違う。
「へー、父上が作ったのか。料理上手だよね。それも結構一杯。」
「イタチから一杯作って冷凍させて欲しいってお願いされたんだよ。」
斎はさらりと言う。
イタチもも料理はお世辞にもうまくないから、当然の話だ。忙しい時などは冷凍しておいた物を解凍するのが普通だが、何分料理が下手すぎて、まともに作れる物の方が少ない。
「まぁ。でも、イタチは要領が良いから、料理はすぐうまくなるよ。」
イタチはどちらかというと器用な方だから、きちんと勉強すれば出来るようになるだろう。
「それまでにどれだけ時間がかかるんですかね。」
「2年くらい?僕が家事をまともに出来るようになるには、2年くらいかかったよ。」
「長いですね・・・・それまでまずい飯なのはちょっと。」
もともとうちはの家では母親が食事を作っており、居候していた炎一族邸では食事は基本的に女中か斎が作っているため、基本的に料理が非常に美味しい。
イタチが二人暮らしを初めて気づいたのは、美味しい食事を作るのは存外に難しいと言うことだった。
「ちょくちょく食事作りに来てあげるし、持って行っても良いから、二人ともちゃんとご飯だけは食べるんだよ。ヨーグルトばっかりでは駄目だよ。」
冷蔵庫の中身を覗いたらしい。
二人のうちどちらかが休みなら問題ないが、もイタチも任務の時、食事は大抵果物かヨーグルトか、冷凍保存しておいた作り置きだ。
不健康きわまりない。
「もう少し手抜き料理覚えた方が良いと思うよ。」
「でも時間がかかるんだよ。」
「慣れてないからね。後で手抜き料理を教えてあげるから、まねしてみなさい。」
斎は娘の額を軽くこづいて、息を吐く。
だが、おそらく娘に言う前に、イタチに言った方が器用にやるだろうなと、確信めいた予感があったことは言うまでも無い。
料理
( りょうり )