カカシの欠員を埋めるという理由で急遽新たな班長となったヤマトと、そしてサイを紹介された時の、サクラ、ナルト、の気分は、頗る微妙だった。




「初めましてサイと申します。」





 礼儀正しく、サイは全員に微笑む。





「あーー!!おまえこの間の!!」





 ナルトは喧嘩をふっかけられた記憶があるため、憤ってサイを指さす。数日前シカマルといる時にナルトは変な男に喧嘩をふっかけられ、取り逃がしたと言っていた。その件だろう。





「さ、い?」





 は初めて見る顔色悪く微笑むサイに、少し嫌そうな顔を見せた。はあまり他人の好き嫌いがないが、嫌な雰囲気がするらしい。サクラはそれをちらりと確認して、サイに改めて向き直る。の勘はよくあたるのだ。気をつけるに越したことはないだろう。





「ナルト、やめなさい。」





 サクラはナルトの腹を思いっきり殴って止めて息を吐く。




「そいつはシカマル達といる時に襲ってきた奴だってばよ!!」





 ナルトが叫んで、クナイを構えて敵意をむき出しにする。





「ちょっと、喧嘩はよしてくれよ。」





 止めたのは、横からやってきた20代半ばの男だった。





「おっさん、誰?」





 ナルトはなんの遠慮もない言葉で乱入者に問う。彼は呆れた様子でナルトに言った。





「カカシさんの入院中、この班の隊長を代表するものだ。」

「え?てん・・」





 が彼の名前を呼ぼうとすると、彼はすぐにの口を塞いだ。





姫・・・お願いだから黙って頂戴。俺はまだ一応暗部所属なんだよ。ヤマトと呼んでくれ。」




 暗部では自分の本名は使われず、一般任務に入る時はコードネームをつけるのが普通だ。そんなことはすっかり忘れていた。




「あ、そうなんだ。ごめんなさい。」




 もそれは知っていたので、自分の非を認めてあっさり謝る。

 は父が暗部の親玉なだけあって、上忍や暗部に知り合いが多い。そのためぽろっと本名を言いそうになるのだ。ヤマトもまたが病弱時代に何度か屋敷を訪れ、と遊んだことがある人物の一人だった。

 特にヤマトは真面目なので、父の斎に書類を押しつけられているのもしょっちゅう見た。




「君たちは同じ班の仲間と言うことになるから、仲良くしてくれないと困る。」

「仲間って、こいつとぉ!?」




 ヤマトが言うと、ナルトはあからさまにサイを否定した。だが、それはナルトに限ったことではなかった。




「これから同じ班になる人の実力が知っておきたかったんだ。」




 サイは悪びれもなくそう言った。




「わざわざあんなことしなくてもいいだろ!!」

「まぁ、おかげで、ちんちんついているかも疑わしい、へなちょこだってわかったし。」

「なんだとぉおおおおおお!!」




 サイの暴言に、ナルトが怒り狂ってサイに襲いかかる。




「いきなり喧嘩しないでしよ!!」




 サクラはナルトを手荒な方法で止めつつ、サイにも目を向ける。




「でも、ちょっとあんた、感じ悪いわよね。」




 敵意と言うほどではないが、悪意は十分感じる。するとサイは困ったように笑ってサクラに言った。




「そんなことはないですよ。僕は好きですよ。貴方のような、感じの良いぶす!!」





 彼の言葉を聞いた途端、サクラの目の色が変わった。






「も一回言ってみろやこら!!しゃーーんなろーーー!!」




 今度はサクラがサイに殴りかかる。それに慌てたのはヤマトだ。




「君、今ナルト君になんて言ったか覚えてる!?」




 言いながらナルトとヤマトは二人がかりでサクラを止めることに相成った。




「はい。まず、自己紹介から。」




 ヤマトが眉間を押さえながら仕切り直す頃には、完全にサクラとナルトは不機嫌な顔をしていた。はと言うと、あまり気にしていないのか、目で自分の白炎の蝶を追っている。




「・・・初めまして、わたしは春野サクラよ。」

「よろしく。」





 表面上は礼儀正しく、サイは手をさしのべ握手を交わす。





「うずまきナルトだってばよ。」





 ナルトは手をさしのべることもせず、ぶっと不機嫌な顔のまま次のを見た。




「こんにちは。わたしは蒼。」





 ナルトに促されるように、はサイの笑顔を気味悪そうに見据えて、自己紹介をした。

 だが、手をさしのべようとはしない。サクラへと同じようにサイがに握手を求めたが、はその手を不思議そうに凝視しただけだった。





「残念ですね。話は聞いていますよ。炎一族のお姫様。うちはイタチの婚約者。そして、」





 サイはの態度にも笑顔を絶やすことなく言った。




「斎様のご息女であられる。お会いできて光栄です。」

「・・・貴方、暗部の人?」




 は感情のこもらぬ《光栄》に少し嫌そうな顔を見せた。




「貴方、根の人でしょ。樹の人じゃない。」





 根は元々暗部にあった教育機関だ。樹は斎が作った監査機関で、現在は教育機関の役割も担っているが、元々根と樹は対立関係にあった。四代目火影の時代に、樹が根の役割の大部分を奪ったのだ。

 現在暗部は火影直属の部隊と言うことになっている。事実上大部分を支配しているのは火影の命を受けたの父、斎である。だがそれでも、根は存在するし、完全に解体されたわけではなく、イタチもまた一時偵察も含めてそこに所属していた時期があった。





「でも仲間って突然言われてもなぁ・・・?」




 一番に不満を示したのが、意外なことにだった。少し眉を寄せて、ぽつりと呟く。




「あれ?も嫌なの?」




 サクラが、がサイに表す不快感に気づいて、不思議そうに尋ねる。

 があからさまに人を嫌いだと思うのは、敵か、もしくはろくでもない人物である時だけだ。もちろん変人というのも含まれるし、危険人物も含まれる。はそういう所の勘が鋭いので、サクラも当てにしていた。





「だって、笑顔嘘だもん。」





 の言葉に、サイが少し目を見張る。





「・・・斎様にお会いした時も、そう言われたね。確かに。」




 サイは笑顔を作り直してにそう返した。だが斎の言葉はと違ってもっと直接的だった。




 ―――――――嘘の笑顔は気色悪くて印象悪いから、僕の前ではやめてくれないかな。





 サイとは違って、斎は無邪気に笑う男だった。

 サイの直属の上司であるダンゾウからも気をつけろと言われていたが、風伯というあだ名が似合う、風のように自由な男で、本当に自由奔放に笑って見せた。むかつくぐらいの清々しさを持つ彼とは、似ているようで似ていない。




「斎様と君は、全然違うね。」





 サイが言えば、は小首を傾げた。




「同じで、あって欲しかったの?」 




 ふっと、が問うた。その言葉に、サイは今度こそ呆然と目を丸くして、表情をなくした。ヤマトもを凝視している。




「え?」




 サクラとナルトはいまいち話を聞いていなかったのか、に振り返る。




「・・・姫、君だんだん斎様に似てきたよ。」




 しばし沈黙が落ちていたが、ヤマトが大きなため息をついて、自分の頭をわしゃわしゃとかき回す。




「・・・?」




 自覚はないらしい。斎は自覚があって見抜いているが、は自覚はないらしい。そこが大きく違うところだ。

 ただ、本心を見抜かれるというのは気分が良いものではない。

 早く自覚してくれれば良いがと、ヤマトはまた何度目とも知れないため息をついた。







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