一時間後に正門に集合と言うことになり、とナルト、サクラはせわしなくいったん家に帰ることになった。
病み上がりでまだ任務が週に数日しかないイタチは、二人暮らしのアパートにいた。
「うーん。ちょっと長期の任務になりそうだよ。」
は荷物をショルダーバッグへと詰めていく。
基本的に重いものは苦手なので、忍具のほとんどは口寄せ方式だ。そうしないとは持ち運びが出来ない。時間とチャクラはかかるが、チャクラが豊富なのでまかなうことが出来る。
「あぁ、斎先生には俺から言っておくぞ。」
イタチはの用意を手伝いながら、そう言った。
「うん。父上、まだ帰ってきてないの?」
「あぁ、少し難しい任務だからな。」
「そっか。」
暁とやらの偵察の任務に、暗部と共についているという話は、既に聞いていた。暗部の任務なので詳しくは知らないし、帰還もいつになるか分からないが、心配だ。
「母上は?」
「雪さんも、別件で出払ってる。」
「そう。大変だね。」
両親共に今は里に不在らしい。まぁ一昨日父とは会っているので、仕方ないかとは立ち上がる。
「砂から帰ったばかりなのに、忙しいな。」
イタチはそう言っての頭をそっと撫でた。その目には明らかな焦燥が見えて、はイタチの頬に手で触れた。
「駄目だよ。無理しちゃ。」
イタチの病がかなり酷かったことを、は知っている。
忍びとして彼が非常に優れていることに間違いは無いが、それでもあの病が彼の体に残した影響は大きいものだ。完全復帰するためには、またもう一つ手術がいると、綱手からも言われている。忙しい時こそ、任務に出ることもあるが、それまでは、彼が動くべきではないのだ。
「俺も、行きたいのにな。」
イタチはをそっと抱きしめる。
それは、サスケと会える可能性が欠片でもあるかも知れないと、わかっているからだ。大蛇丸のスパイ。彼は大蛇丸と繋がっている。そしてそれは自動的にサスケと繋がっていることでもある。
「イタチ。」
はそっとイタチの痩せた背中を撫でる。
うちは一族を裏切ったことに、イタチが酷い心の痛みを負っていることは知っている。そしてイタチを恨み、里を抜けたサスケのことも。
「イタチのせいじゃないよ。」
はイタチからすべてを聞かされている。
イタチは自分が決断したと言うけれど、そうするしかなかったというのが、当時の里の状況、うちは一族の止まれない状況、そしてその他の上層部の思惑を考えれば窺えることだ。正直、が同じ立場でも同じようにしただろう。
そのことに関して、斎は非常に憤っていたし、は理解していた。
「わたしがいなくてもちゃんとご飯食べなきゃだけだからね。」
は念を押すように、イタチの背中を叩く。
「わかってるさ。」
「そんなこと言って、いつも食べないこと知ってるんだからね。綱手様に、言いつけるよ。」
「それは、怖いな。」
イタチが体調が悪いことを黙っていたため、病気の進行に誰もが気づかなかった。
そのことが発覚した時の綱手は、イタチが病人であることもお構いなしにイタチを殴り、怒鳴りつけた。
――――――――おまえは一人で生きてんじゃないんだ!ふざけんな!!
斎も少し怒っていたようだったが、綱手の無茶で吹っ飛んだらしい。逆にまだもう一発殴りそうになる綱手を止める側にまわっていた。
イタチもイタチで忍としてはともかく、人に殴られたのは初めてだったらしい。彼も彼で呆然とした面持ちで綱手を見ていたものだった。
「それに、わたしも一応上忍なんだからね。」
はイタチを抱きしめたまま、イタチの瞳をのぞき込む。
緋色の瞳も綺麗だと思うが、漆黒の瞳もは好きだった。彼は真っ黒で色が無くて、あまり好きではないと言うけれど、優しい夜の色をした瞳を嫌いになれるはずもない。
言うとイタチは少し驚いたような顔をした。
「はここ数年で本当に大人になったな。」
納得するように彼は言ったが、その瞳はどこか寂しそうでもあった。
「・・・イタチは、線が細くなったよ。」
病をしたというのもあるが、酷く儚くなった。
痩せたとかではなく、雰囲気が消え入りそうなほど、年不相応な危うさがある。はうまく表現できないがそれを強く感じていた。
だが、にはそれが病から来るものなのか、別のものから来るものなのか、わからない。
「そうだな。俺はもしっかりしないとな。」
苦笑混じりにイタチはそう言って、の背中をぽんぽんと二つ叩いて身を離す。
「大丈夫だよ。心配しないで。」
は努めて柔らかな笑顔で彼に言って、イタチの手を握った。
「、あまり白炎を使いすぎるんじゃないぞ。」
「わかってるよー。」
イタチの注意にも笑って返して、は肩掛け鞄の中に大量の巻物を適当に詰める。もうすぐ1時間になってしまうので、木の葉隠れの城壁の門まで行かねばならない。
「そういえば、サイって、知ってる?」
は気になっていたことをイタチに尋ねる。
イタチは暗部の中でも、基本的にの父斎が作った養成部門兼統率機関“樹”の出身であるが、“根”にもいた時期がある。
「なんかねぇ、中途半端な黒髪で、顔色青白くて、なんか卵型の頭?」
基本的に暗部はコードネームがつけられ、本名は多くの場合公にされない。サイもおそらくコードネームだろう。下手をすれば暗部の中には本来の自分の名を知らないものもいるという。
だから、容姿を説明してみたが、全く分からなかったのだろう。
「・・・、それは結構な人間が当てはまると思うんだが。」
イタチも当てはまることになってしまう。
「なんか、ナルト曰く絵を描く?それを飛ばすとか言ってたよ。」
「・・・分からないな・・・」
正直自分の能力も秘匿にしている忍が暗部には多い。
ましてや“根”と“樹”は根本的に任務でも交わらないことが多いから、イタチも正直お手上げだった。一時根に入り込んでいたとは言え、所詮、偵察だ。イタチはあくまで斎の教え子である。
「だが、俺が知らない奴ってことは“根”なんだろうな。」
“根”を取り仕切っているのは武闘派のダンゾウだ。
3代目火影の流れをくむ穏健派で、自来也の弟子である斎とはそもそも相容れないものがある。そのため汚いもの仕事は“根”、綺麗な仕事は“樹”と言った枠組みが密かに出来ていた。
今では“樹”の方が明らかに勢力が大きいが、それでも“根”は今でも存在している。
「どんな感じだった。」
「うん。無表情な人だったよ。」
「・・・笑わないのか、」
生粋の“根”の忍ならあり得なくない話だ。そう思ったが、は違うよと首を振った。
「いつでも笑ってるよ。」
「・・・?無表情なんだろう?」
「うん。無表情だよ。」
の言っていることの意味が分からず、イタチは首を傾げる。ただの中では納得出来ている表現らしく、は逆にイタチの方を不思議そうに見上げてくる。
「そう、か。」
イタチはそう返すしかなく、に床に転がっていた巻物を渡した。
は確かに成長した。だが、なんだか、年々常識からずれてきた気がする、と懸念せずにはいられなかった。
憂慮
( しんぱい )