「…、流石にそれは無いってばよ。」
ナルトは襖を開けて、思わずそう言ってしまった。
風呂に入ってきたのか、濡れた髪の毛のままがうつぶせに布団の上に転がっている。きちんと浴衣も着ているためだらしないとは言えないが、忍としてはあり得ないほどくてっと寝そべっているため、ナルトも驚かざる得なかった。
襲われたらいったいどうするのだ。
「大丈夫。それにサクラが助けてくれるよね」
はそう言って顔だけ上げて、サクラの方を見る。
「仕方ないわね。」
サクラはため息をつきながらも、そんなの言葉を受け止めた。
実力としては、は上忍だし、血継限界の力もあっての方が遙かにサクラより上だが、サクラはどうしても日頃の鈍くさくて、ぼんやりしたを見ているため、世話の焼ける妹のようにを思っていた。
「斎様とそっくりでびっくりするよこっちは。」
ヤマトはお膳に頬杖をついて、少し愚痴るような口調で言った。
は顔が元々斎そっくりだが、年々無自覚ながら行動や言動が似てきている気がして、ヤマトは恐ろしくてならない。
暗部においてはヤマトの直属の上司であるの父・斎は恐るべきだらしない、サボり癖のある男で、誰もが驚くほどに書類仕事をしない。は宿で警戒心なく寝そべっているだけでそれ以外の時の任務態度は至って真面目だが、斎はそれに輪をかけて酷く、次の日は絶対に起きてこないだろうし、書類はすべてヤマトに押しつけるだろう。
そんな思いばかりしてきたヤマトは、の姿が少し憎らしかった。だが、やらなければやらないことは山積みだ。
「さて、ここからが本題だ。」
ヤマトはお膳に巻物を広げて、説明を始める。
「今回任務をもう少し具体的に言うとだね。目標はあくまで逮捕であってターゲットを死傷させてはならない。デリケートな任務だからね、特に姫、君は気をつけてね。」
名指しで釘を刺されたは、にへらっと笑って誤魔化した。
白炎という恐ろしい温度のチャクラを焼く炎を直接操るは確かに恐ろしい力を持っているし、おそらく大蛇丸相手でも大いに頼りになるが、それ大きな力故に、目標を殺してしまう可能性も十分に高い。
しかもチャクラがあまりにも多いため、細かいコントロールが苦手である。せっかく捕獲しようとしているスパイを殺してしまっては何の意味も無い。無駄足だ。スパイから情報を得てサスケを奪還することが、今回の任務の目的なのだ。
はぱたぱたと足で布団を叩いて返事の代わりにした。
「まず、作戦は簡単。第一僕がターゲットを拘束する。第二にもし僕がターゲットを拘束し損ねて戦闘になった場合、君たちも戦闘行動へ移行しろ。そのタイミングは僕が合図する。」
ヤマトは確認するように人差し指を振る。
「そして第二の場合においては常に相互支援が原則だ。まずはナルト、サイ。そして後方援護の。そして僕とサクラのチームだ。」
「でも、」
サクラがナルトとサイを見比べて、戸惑いの声を上げる。
は基本的に長距離戦闘を得意としており、ナルトとサイの後方支援には最適な人材だろう。だが、そうなれば自然と同じ近距離戦闘を得意とするナルトとサイは緊密な連携を余儀なくされる。
とナルトは離れていたとはいえ元チームメイトで、付け焼き刃でもそこそこ連携できるだろうが、ナルトとサイと言われると、どう考えても厳しそうだった。
「サクラ、君はこのチームで唯一の医療忍者だ、負傷させるわけにはいかないから、僕がつくんだ。」
唯一の医療忍者に何かあれば、それは死活問題だ。だからこそ、戦闘になった場合、一番安定性のあるヤマトがサクラの援護につくというのは至極妥当な話だった。
「なんで俺がこいつとっ!?」
ナルトは当然不満の声を上げて、サイを睨み付ける。
「でも、わたし近接戦闘苦手だから、後方援護専門だもん。人、いないよ。どうするの?」
は心から不思議そうな顔でナルトを見て、首を傾げた。
「う、で、でもさ!」
「誰が交代するの?」
なんの嫌みも無く、ただただどうするのだと尋ねられれば、ナルトとて言葉はない。確かにヤマトがナルトと交代することは出来ないだろうし、信用できないサイにサクラを託すなどもってのほかだ。
「姫、君は戦闘になるまでは基本的に手は出さない。戦闘になったとしても、直接的に目標を狙うことはやめてくれ。」
もしもということがある。の攻撃は長距離でありながら威力は絶大で、十分に相手を瞬殺することが出来る。情報を持っているスパイを戦闘中に殺しては意味が無いが、の能力はそれを簡単にやってしまうだろう。
気をつけておくにこしたことは無い。
「今の話を踏まえて普通はあまりやらないんだが、明日半日をチームプレイのシュミレーションに当てる。僕らは君らをファイル上の情報でしか知らない。君たちの戦い方や戦闘スキル。術の系統なども把握しておきたい。」
天地橋まで行くのにそれ程時間はかからない。
シュミレーションにかける時間は十分にあった。ましてやとサクラはともかくも、それ以外は帰ってきたばかりのナルトと、全く知らないサイを入れての任務だ。付け焼き刃の連携は非常に危険で、シュミレーションなしに行うなど、狂気の沙汰である。
「それに互いをよく知っておくことで、チームの連携もスムーズになる。慎重すぎると思うかも知れないが、これが僕のやり方なんで、つきあってもらうよ。」
ヤマトはどちらかというと慎重に任務をこなすタイプらしい。
サクラは神妙な顔で頷き、は返事の代わりとでも言うようにまたぱたぱたと寝転がった体勢のまま足を振った。
「特に姫、君は一度相手の姿を捉えたら追えるんだ。しっかりしてくれよ。」
の姿にヤマトはもう一度念を押すように言う。
の持つ血継限界の透先眼は千里眼の役目も含めており、相手を一度視認すれば一定範囲からで無い限り、追い続けることが出来る。今回の任務に、は非常に重要だった。そしてもう一つ、意味がある。
「あと、大蛇丸が出てきたら、僕と、君が前線に出る。基本的に僕はサクラも守らないといけないけど、君は相手を追うことに専念する。良いね。」
大蛇丸は火影並に強い。手負いの獣である可能性も否めないが、それでも油断ならない相手であり、遠距離に絶対的な力を持つの白炎を盾に、相手の隙を窺うというのが基本的な戦略だった。それ以外に勝ち目は無い。
とナルトは莫大なチャクラを身に宿すという点では同じで、ナルトを大蛇丸にぶつけるというのも手かも知れないが、ナルトの九尾は安定性に欠ける。その点は半分のチャクラをイタチに封印しており、現状大蛇丸に匹敵する手としては一番安定性があった。
また、さえ敵を透先眼で追えていれば、逃げられてもまだまだ挽回のチャンスはある。
だからはサクラを気にする前に、相手を追い、任務を遂行することを優先してもらわなければならなかった。
「あいー。」
顔すら上げず、は気のない返事をヤマトに返したが、自分でも自分の与えられている役目はしっかり理解できている。そうヤマトは信じるしか無かった。
「俺だって、追うってばよ。」
ナルトはぐっと拳を握りしめる。
サスケに続くかも知れないと聞けば、今回のせっかくのチャンスをむげにするわけにはいかない。なんとしてもスパイを捕らえ、サスケにたどり着きたいと思う気持ちは、サクラも、も一緒だ。
「うん。」
はナルトの言葉に頷いて、にっこりと笑う。
「大丈夫。出来るよ。」
そのために、この3年間努力してきたのだ。心の底から大きな息を吐いて、覚悟を決めた。
切望
( ねがう )