は天地橋の位置を確認して、小さくため息をつく。

 遠距離援護が基本のはスパイにばれないようにかなり離れたところから状況を見て、参戦すると言うことになった。元々フォーマンセルが基本であり、スパイの方もそう思っているだろうから、が遠くから見ている意味はある。

 そして何かあった場合、透先眼を持つがスパイを追い、後からヤマト達と合流するというのが、基本的なに知らされた戦術だった。だがまさか、スパイがカブトであり、大蛇丸自身が出てくるとは思わなかった。その上、ナルトが九尾を暴走させるなど、なおさらだ。




「…行く、かな。」




 ヤマトがいる限り、ナルトとサクラをどうにかしてくれるだろう。

 ここでが大蛇丸を追いさえすれば、後から合流する方法はいくらでもある。ならば、大蛇丸を追うのがの義務だ。

 問題は裏切ったサイだ。

 サイはがフォーマンセルから離れており、が最終的には大蛇丸を補足し、追うという作戦を知っている。ダンゾウがサイに内通者としての役割を命じたのならば、サイから大蛇丸にたちの作戦はばれている可能性が高い。




「補足は、出来た。」




 透先眼とはいえ、まったく情報のない人物を追うことは出来ない。しかしは大蛇丸を今目視した。一定の距離からでない限り、が透先眼で大蛇丸を追うことは簡単だ。

 は慎重に大蛇丸の後をつける。

 サイがこの作戦をばらしていたとしても、サスケへ繋がる道だ。迂闊に立ち回るべきではないが、時には大胆さも必要で、すごいスピードで動いている大蛇丸達を、追う。

 犬神を口寄せすればばれるため、少し辛いが、も走っていたが、はっと顔を上げた。




「蛇か、」




 前方を見やった瞬間、透先眼で映す視界に出てきたのは、何匹ものの背丈の2倍はある蛇だった。は小さく舌打ちをして、走る速度は緩めず、目の前を見据える。

 蛇の数は問題ではないが、大きすぎていつもが使っている長距離戦闘用のビームである“白光”で打ち抜いても駄目だろう。蛇の体は長い。牙に毒もしこんであるだろうから、切り裂いたり、ビームで動きを止めてもその間に頭にかみつかれれば一緒だ。

 が追っていると言うことは、もうとっくにばれていたらしい。




「…仕方ないな。」




 は肩にいた自らの白炎の蝶を分身させ、蝶に自分の前を先行させることによって炎の膜を出現させ、目の前のものをすべて燃やしていく。

 の体は全く火遁がきかないほど、熱に強い。チャクラを焼く特殊な炎を纏っている限り、どんな敵も、術もを傷つけることは出来ないし。蝶を先行させておけば、目の前にある対象物はすべて燃やしておいてくれる。行き先にある障害物はどうせ透先眼で、自分が通る前に見つけられる。





「多い、なぁ、ばれてる。」




 大蛇丸は本気でを止める気だったのか、いくつもトラップや蛇を仕掛けていた。かなり念入りだと言える。また対策なのか、いくつもチャクラを押さえる術式なども組まれているようだった。とはいえ、も3年前のような子どもではない。

 こんなものに引っかかるぐらいならば、は上忍になれていない。




「強くなったわね、」




 突然声が降って来たのは、真上からだった。は咄嗟の判断で斜め横へと飛び退き、木の影へと隠れる。が先ほどまでいた場所を、巨大すぎるほど巨大な蛇が真上から噛みちぎった。




「わぉ、」




 は少し唇の端が引きつりそうになったが、一応安堵した。あのまま走っていれば、間違いなく今頃蛇の口の中だ。

 前ばかり気にしていたが、上から来るとは思わなかった。




「隠れてないで、出ていらっしゃい、」




 大蛇丸の笑みを含んだ楽しそうな声音が響く。それは酷く不快だったが、居場所が割れている限り、不意打ちしても無駄だろう。

 息を吐いて、は木の陰から大蛇丸の姿が見える幹まで飛んだ。




「…」




 はちらりと後ろを見て、息を吐く。

 どうやらカブトとサイまでいるらしい。カブトはなかなかの使い手、サイは知らないがダンゾウに信頼されるほどなので特殊な忍術を持っているのだろう。

 追わされていたのは、影分身だったのかも知れないと今更ながら気づく。

 の目はチャクラを見ることは出来ないので、見た目で計ることしか出来ない。要するに影分身なのか、本体なのかを見抜くにはわざわざ過去を見る必要があり、この短時間で過去を見るために今の追尾している視界を消すことは、任務の性質上出来なかった。

 の父である斎ながら右目と左目別のものを見るという器用なことをやってみせるが、はまだその域ではない。




「ねぇ、わたしはね、私のサスケ君と綱手の貴方を戦わせてみたいの。」






 大蛇丸は楽しそうにに笑う。その笑みは酷く歪んだ興味と好奇心を孕んでいた。




「もちろん、自来也のナルト君でも良いけど。」




 三忍の弟子。

 大蛇丸は天才とうたわれたうちはサスケを弟子に持っている。自分の器とするために。チャクラコントロールと医療で有名な綱手はとサクラを、そして自来也は九尾であるナルトを弟子に持っている。

 大蛇丸は興味で綱手の弟子であると、サスケを戦わせてみたいのだ。





「悪い話じゃないと思うわ。そうでしょう?」




 貴方はサスケ君に会えるのだから、と言外に言う。

 確かに今の状況はには極めて不利だ。もちろん逃げるだけならばこの場を制する方法をは既に知っている。しかし今回の任務は追尾であり、この場でが逃げればヤマト達が追いつける可能性はなくなる。

 はヤマトの追尾するための種を飲み込んでいるのだ。要するにここで大蛇丸たちから離れるわけにはいかない。





「わたしたちが、サスケを取り戻したいとわかってるの?」





 は大蛇丸を牽制するように問う。




「えぇ、もちろん。サスケ君が納得するなら、良いわよ。」




 大蛇丸はサスケの思いを知っているからこそ、はっきりと言えるのだ。

 彼は間違いなく半殺しにでもしない限り、木の葉に戻ろうとはしないだろう。ましてや今、やイタチに鮮烈な憎しみを持っているのだ。サスケとが出会えば、戦闘になるのは間違いない。本気で殺しに来るだろう。

 要するに大蛇丸はこのままでは絶対に捕らえられないをアジトに引き込むことで、捕らえようとしている。サスケを餌に使って。




「…」




 敵の元に危険承知で飛び込むか、それとも任務失敗覚悟で逃げるか。

 後からナルトやヤマト達が助けに来てくれるとしても、分の良い賭ではない。自分の身を完全におとりに使うようなやり方だ。

 はすっと目を伏せる。

 瞼の裏に浮かぶのは自分を大切にしてくれる両親だ。捕まれば彼らはどれほどに嘆くだろう。イタチだってそうだ。

 でも。




「良いでしょう。でも、わたしはそう簡単に捕まらないと思うよ。」




 の弱点はチャクラが使えなければ何も出来なくなるところだ。

 今も昔もその欠点は変わっておらず、大蛇丸にも明らかに分かっていること。だからこそ、彼はのチャクラを封じるために、絶対に術式のある場所に誘いこむか、チャクラの使えない呪をにつけようとするはずだ。

 弱点を明白にしておくのは、悪いことではない。

 なぜなら敵はそこにばかり目がいき、それ以外の弱点を見ようとしない。そして仕掛けてくる方法が分かっていれば交わす方法はいくつでもある。




「…うん。」




 は頷き、帯締めを確認する。

 前で結ばれた帯締めの先は帯の中に入っており、見えない。だがそこには本来あっては邪魔のはずの丸い玉がつけられていた。







策謀 ( さくやはかりごと )