「がうまくやったな。」
ヤマトは近くに落ちてきた紙切れを見て、小さく息を吐く。
「うまくやったって?」
ナルトが体の痛みを堪えながら、ヤマトに尋ねる。
先ほど九尾を開放した体は、すぐには回復しない。それでもサクラの治癒で、起き上がることが出来るまでにはなっていた。
「大蛇丸はの追跡に気づいたらしいけど、を連れて行くことに決めたらしい。」
「それってが攫われたってことじゃ!?」
サクラはヤマトの落ち着いた言葉に、呆然とする。だがヤマトは首を振った。
「捕らえられてるわけじゃない。こんなものを送ってこれるくらいだからね。」
ヤマトは手に持っている紙切れをぴらぴらさせる。
「なんだそれ。」
ナルトは首を傾げる。
「の式紙よ。」
「式紙?」
「そ。紙を自在に動かせるのよ。もともとは斎様、蒼一族が得意なはずだわ。」
の父である蒼斎お得意の忍術で、蒼一族の十八番でもある。
特別なチャクラを通す紙を使って、一定の指令の下に紙を動かすのだ。例えば紙にチャクラを防ぐ効用をつけたり、今のように情報をヤマトに届けることも可能だ。紙切れなので火に弱いが、相手にばれないように飛ばすことが出来る。
また、火に強くなるように条件をつけることも可能だ。
「でもさ、あれってめっちゃチャクラコントロールが難しいんじゃなかったっけ?」
ナルトも自来也から聞いたことはあったが、紙が破れたりしないようにちょうどのチャクラを通すのが難しくて、ほとんどの人間が出来ないのだ。斎は医療忍術を使うことが出来るほどにチャクラコントロールが得意だ。だからこそ彼は出来る。
他にもナルトは一度イタチが式紙を使っているのを見たことがある。ただそれはイタチが写輪眼を持っており、チャクラの量を見抜けるからだ。もともとナルトばりにチャクラの量の多いがそんな繊細なチャクラコントロールを出来るとは知らなかった。
「作戦行動の継続のために、大蛇丸と取引したんだろう。彼女は上忍だよ。それにあの子の能力は伊達じゃない。」
なら大蛇丸やカブトを前にしても逃げるくらいのことは出来ただろう。だが、逃げなかったのは任務の成功を優先させたからだ。大蛇丸のアジトを突き止め、サスケの情報を得るという任務を最優先にしたからこそ、彼女は大蛇丸について行った。
大蛇丸は絶対にを殺さない。
彼女は血継限界を二つも身に宿す希少な存在であり、彼にとっては絶対に手に入れられない貴重な被献体だ。殺すなどと言うもったいないことは絶対にしない。だから、少なくともアジトに着くまではの身の安全は保証させる。
アジトに着けばも大蛇丸のテリトリーで動くことになり、危険性はあるだろうが、ヤマトはの実力をある程度信用していた。大蛇丸はナルト、サスケの実力と比べて、同い年の子どもであるを見くびっている可能性が高い。
だからこそ、には勝機がある。
「大蛇丸は確か3代目との戦いで消えない傷を負った。だから、本気のなら、問題はないはずだ。」
大蛇丸は3代目との戦いで、腕を持って行かれたはずだ。今も彼が活発に活動しない上、サスケにも転生していないことから、間違いなく今も彼は傷を何らかの形で負い続けているはずだ。確かに大蛇丸の能力はすごいが、全快でないのなら、おそらくが勝てる可能性が高い。
元々大蛇丸は近接戦闘でがんがん押してくるようなタイプではない。
中長距離の戦闘ならば、の右に出るものはこの世界にほとんどいない。相性はそう悪くないはずだ。
「少なくとも、僕たちが来るまでは持ちこたえてみせるよ。」
ヤマトはの実力をそういう点では全く疑っていなかった。
「今のあの子は、誰もが認める忍だよ。」
ヤマトはナルトの傍に膝をついていたが、立ち上がり、腰に手を当てる。サクラはその言葉に目尻を下げ、目を伏せる。
ナルトはここ数年里から離れていたので知らないだろうが、は血が滲むほどの努力をした。
サスケが出て行った後のは病的なほどで、誰もが心配するほど修行に明け暮れていたのだ。幸いにも彼女は実力のある両親や恋人にも恵まれている。忙しい綱手がいなくても、休みを申しつけても、彼女は毎日修行し続けていた。
特にここ数年、暗部から引き抜きの提案が出るほどに、彼女の成長は著しい。
「僕はあの子とうちはイタチの模擬戦を見たことがある。」
ヤマトは既にナルトが帰ってくる前から、何かあればナルトの班に配属される予定だった。
そのためナルトと同じ班となるサクラ、の実力も把握しておかなければならないため、無理を言ってその模擬戦の観戦の許可を得たのだ。
万華鏡写輪眼相手に圧巻の戦いぶりだった。
相手がの能力を誰よりも知っているイタチでなければ、彼女は勝つことが出来ただろう。
もちろん、彼女もイタチの手を知っていただろうから、そういう点ではイタチとの条件は同じであり、やはりイタチの実力は彼女より上なのだが。
ヤマトでもに勝てないかも知れないと思うほどに、彼女の力はすばらしかった。
「火影候補に挙げられる斎様の娘だけあって、センスも良い。あの子は十分力だけなら、火影を狙える人材だよ。」
血継限界にも恵まれ、チャクラにも恵まれている。の性格があれほどに優しくなければ、もしくはもっと上に上りたいなどと言う願いがあれば、あっという間に上へと上っていけるだけの才能がある。
ただ、本人に全くその気が無いのが、彼女の父親である斎、また彼の弟子であるうちはイタチも含めて玉の傷だった。
「…ま、でも、イタチから気をつけてみてくれって言われてるから、早く行こう。」
ヤマトは立ち上がり、ナルトの肩を叩く。
「え、そんだけ強いだろ?」
ナルトは意味が分からず、首を傾げた。
ヤマトが言う程に彼女が力をつけたのなら、何故イタチは彼にそんなことを言うのだろうか。彼は少なくともの実力を一番知っているはずだ。
「…精神的な問題だろう。は元々そちらの方が危ないんだろう?」
ヤマトはサクラとナルトを見下ろす。それで、サクラもナルトもはっと気づいた。
確かに彼女は戦えばいつも勝利をもぎ取ってくる。ただし、滅多に戦わない。戦うのに最後まで抵抗を覚えるタイプだ。
「そっか、、戦い嫌いだもんな。」
「違うの。最近は、」
ナルトの言葉に、サクラが首を振る。
「最近はね、あの子、喧嘩っ早いの。」
「はぁああああああ!?」
まったくナルトのイメージにないに、ナルトは呆然と叫び声を上げた。
帰ってきてからもはぽけーっとしていて、前以上にぼけが酷くなったと思っていた。確かに砂の一件の時に実力的にも頼りがいが出たとは思ったが、前とかわりがあるようには見えなかった。
「どこが!?」
「…ナルト、綱手様の前で聞いたでしょ?」
綱手が尾獣の説明などを綱手にしたとき、は綱手に言ったのだ。
――――――――でも、襲ってきてくれても良いのになぁ
そしたら捕まえて情報を聞き出せると、恐ろしいことを言っていたのだ。あの発言は確かに今までのであれば絶対に出てこなかった発言だった。聞き流していたが、その時綱手はこう注意していたはずだ。
――――――――ひとまず、おまえらはふたりは慎重になれと言うことだ。
ナルトだけではなく、冷静でぼけーっとしたも含めて、“ふたり”に慎重になれと求めたのだ。要するに綱手ものこの傾向を知っていると言うことになる。
「なんで、だってばよ。は、何かに焦ってんのか?」
「わかんない。、あんまりそういうこと話さないし。」
サクラは目を伏せて、首を横に振るしかなかった。
元々はそう言った自分の弱音を吐き出すことが苦手だ。特にここ数年、彼女の修行に関する弱みを聞いたことは無い。彼女は他にも沢山の任務に関わっているから、そう言った愚痴があっても仕方がなかったはずだ。なのに、一言の愚痴も出てきたことはない。
突然出てきた好戦的な性質と、彼女の実力。
ナルトの全く知らないがそこにいるような気がした。
既知
( 既に知っていること )