大蛇丸、カブトが崖の上に立っていた。とサイが戻ったときには少なくとも一悶着あったのか、ナルトは膝をついて項垂れた状態だった。
 はすぐに自分の刀を持ってサスケに襲いかかる。








、それはガード不可だ!」







 ヤマトがに言うが、サスケの刀がガード不可なんてそんなこととっくの昔に予想済みだった。

 同じく自分の刀もガード不可、しかも風の刃を付随させているので、むしろ雷のサスケよりも有利なぐらいだ。

 ばちっと嫌な弾けるような音がして、は自分の刀の背に手を当てて、何とかサスケの刃を受け止める。女のが片手でサスケの刀を受け止めるのは重たい。だがそれは攻撃の手段を減らす行為でもあることをは知っていた。

 じわりとの刀がサスケの刀を切り裂き始める。どうやらの風のチャクラの方がサスケの雷のチャクラより強いらしい。





!」




 サクラの悲鳴が聞こえて、左側からサスケの拳が迫ってくるのを知っていたがには避けることが出来ないし、両手が刀を押さえるのでうまってしまっている。

 だが、途端にサスケの方がの傍から飛び退いた。

 上にいた白炎が作り出していた球体から出たビームが先ほどまでサスケがいた場所を打ち抜く。サスケはいくつか繰り出されたビームを軽やかにすんでの所で避けながら、との間合いを詰める機会を窺ったが、隙がないとわかり一旦 から距離をとった。




「いった、」





 は刀を取り落とし、手をひらひらと振る。

 刀の攻撃は完璧に本気だった。腕力の元々弱いにとってはチャクラを総動員してもなかなか辛い状態だったのだ。手が痺れているので軽く振ってしびれをとってから、目の前のサスケにもう一度向き直った。後ろにはサクラが庇ってはいるが、ナルトとヤマトがいる。

 二人とも何かされたらしい。

 は倒れているナルトとヤマトの前に立ち、代わりとでも言うように炎で大きな鎌を作り出す。白銀の鎌に付随されているのは当然、チャクラを燃やす力を持つ白炎だ。

 白炎の蝶も全体に展開して不測の事態にいつでも対抗できるように構える。





「ふぅん。あの子、」





 の戦いを見ていた大蛇丸が、ぺろりと舌なめずりをした。




「やめなさい。サスケ君。その子、今の貴方じゃ敵わないわ。」

「何?」





 突然の大蛇丸の言葉に、サスケが不快そうにぎろりと大蛇丸を睨む。





「貴方の新術でも、多分ね。」





 防ぎきってくるだろうと、大蛇丸は冷静な目でを見た。





「戦い方は斎そっくり。もう少し単純な子だと思っていたんだけど、長引くと積むわよ。」





 の父親である斎と大蛇丸は一時暗部で一緒だった。任務も一緒に行ったことがある。

 斎は馬鹿なふりをしているが非常に知能が高く、戦術ゲームなども元々得意だ。積み将棋のように戦っている間に戯れに大量の罠や伏線を仕掛けていき、それを順番に積み、崩していく。それが彼のいつもの戦法だ。

 そのため戦いを長引かせ、こちらの手の内がばれればばれるほど、戦いは不利になってく。





「俺の殺したい奴は目の前にいるのにか?」





 写輪眼のまま、サスケは大蛇丸に殺気を放つ。一瞬大蛇丸は黙ったが、クナイを崖の上からサスケに投げつけた。

 それがサスケすれすれを通り抜け、地面に突き刺さった途端に四角い結界が出現する。





「蒼一族お得意の多重結界よ。それが既に2つ。貴方が気づいていない蝶が少なくとも4匹いるわ。」





 大蛇丸はくるくるとクナイを回す。





「ここ数年で蒼一族のお得意まで固めてきたのね。」




 多重結界は繊細なチャクラコントロールが必要とされるため、本来のようにチャクラが莫大な人間には向かない。しかし彼女はそれこそ血が滲むような努力をしたのだろう。

 のチャクラは透明で写輪眼で見抜くことが出来ない。写輪眼で見抜く戦いばかりをいているサスケにとっては実力の前に天敵だ。しかもの実力はここ数年で完全にサスケを越しているだろう。精神性でも迷いがないようだ。

 ならば、現状、サスケが勝つのは非常に難しいだろう。





「…ちっ、」





 サスケは多重結界をちらりと見て、大蛇丸の隣まで飛び退いた。




「おいでよ。あの日の、やり直しをしようよ。」




 は軽く鎌を振って、サスケをまっすぐ見上げて挑発してみせる。




「わたしも本気でやるから。」




 あの時のようにナルトに任せて逃げたりは絶対にしない。イタチのために既に覚悟は決まっているのだ。




「サスケ君、行くわよ。この感じだと増援が来るわ。」




 大蛇丸が宥めると、やっとサスケは納得したのか、カブト、大蛇丸と共に去って行った。

 は鎌を消して、小さく息を吐く。

 おそらくあのまま戦っていれば、後ろに庇っているナルト、ヤマトを巻き込んでしまっていただろう。後ろを庇って戦えるほど、簡単な相手ではなかったし、大蛇丸が参戦してこればでも対処は不可能だ。強がって見せたとは言え、逃げてくれて良かった。

 残念だがここは、仲間を守るためにもサスケを諦めるしかない。




「…大丈夫?」




 は膝をついているナルトに手を伸ばす。




「ちく、しょうっ、俺は、」




 弱い、と俯くナルトは泣いているようだった。




「泣いても仕方がないでしょ。」




 サクラも言いながら、ぼろぼろと泣いている。は二人を眺めながら、小さく息を吐いた。

 彼らがいなければ、自分はサスケを追うことが出来たかも知れない。ただ、大蛇丸がいれば一人で勝つことは難しいだろう。しかし、サスケ一人ならば、一人でも半殺しに出来たかも知れない。逆に二人を庇う方が難しい。





「…」 




 はちらりと自分の白炎の蝶を眺める。

 この炎に耐えられる体を持つのは世界で自分と母だけであり、だからこそこの白炎は常に木の葉やいろいろなものから恐れられ、畏敬の念を持って神の系譜と呼ばれる。同時にこれは仲間を傷つける可能性も持っているのだ。

 イタチは唯一、伴侶の首飾りを持っているので耐えられるが、他の人間は違う。




「一人の方が、」





 良いのかも知れない、と思う心をは止められなかった。




「大丈夫かい、は。」




 ヤマトがぽんとの肩を叩く。





「うん。怪我はないよ。」




 はヤマトに笑顔で答えて、蹲っているナルトへと駆け寄った。




「ほら、そんなことしてちゃ駄目だよ。次、次。」





 今弱いことは気にしても仕方がない。今彼を取り返せなかったことを悔やんでも仕方がない。次に戦うときに、彼より強くあれば良いのだ。




「ね。」




 はそう言ってナルトを支えて起こす。




「そうだよ。それに僕結構強いしね。」




 今までにないほどすっきりした笑顔で、サイは言った。

 彼にもそれなりに考えるところがあり、また、吹っ切れたのだろう。二重スパイもやめたらしい。それだけでも、まとまりを欠いていたこの班にとっては良い結果になったのかも知れない。





「今回は、これで良かったのかもね。」




 ヤマトは小さく皆に聞こえないように呟いて、腰に手を当てる。




「イタチの心配も杞憂だったわけだし。」




 イタチはわざわざヤマトに、忙しいだろうにを頼みますと言いに来たのだ。

 彼は昔からには過保護なところがあると斎からも、綱手からも聞いているから、そういうことなのだろう。確かにヤマトも昔のを思い出せば、今のの強さが心から信じられない。が危うかった昔の印象が強すぎるのだ。


 ヤマトはそんな安易なことを考えていた。
杞憂 ( うれいがただのうれいであること )