は両手でくるっと円を作って笑う。
「なんかサスケはだめでしたけど、なんか全部丸く収まって終わりました。」
「そっかーお疲れ。」
父親の斎はそれ以上何も聞かずに、手を振る。
ぽけーっとした父娘の言葉を遮ったのは、綱手の怒声だった。
「わかるかー!!」
まさにこの部屋にいる全員の代弁である。サクラとイタチは思わず頷いてしまった。そんな簡潔で曖昧な説明で納得出来るのは、斎との二人だけである。
任務が終わり、一応直接報告に訪れたサクラとを迎えた斎と綱手、そしてサスケの兄でもあるイタチは、大体の事情を暗部や報告書から知り、大体は理解していた。ただいくつか気になるところがあり、報告に来たのだ。
「サイも一応、ナルトのおかげで二重スパイになるのはやめたみたいだし、まぁ、確かに丸く収まったんですけど。」
サクラはの言葉に付け加えて、ため息をつく。と斎は何故怒られたのかよく分からないらしく二人揃ってそっくりの顔で同じ方向に首を傾げていた。
まぁ斎のは間違いなくわかっていない“ふり”だろうが。
「サスケは元気そうだったか?」
イタチは少し困ったようにサクラに尋ねる。
彼としても弟が自分やを憎み、抜け忍になったことには心を痛めていることだろう。ただ数ヶ月ほど前に結核に羅漢し、なんと肋骨を数本切り取ることになってしまっていた。先日最後の手術が終わり、何とか肋骨の再生にも成功したが、しばらくはリハビリ状態。無理は禁物である。
「次は俺も行けると良いんだがな。」
リハビリ期間は半年と言われているため、まだ本調子にはほど遠い。
「まだ無理をする任務は駄目だぞ。」
綱手はイタチに釘を刺す。すぐ人のことになると無理をする彼の性格を分かっているからだ。
「分かってます。」
イタチは綱手に殴られたこともあるので唇の端を引きつらせて、ため息をついた。
「それに、おまえは今となっては里有数の忍だ。わたしを除けば、そうだな、実力的にはカカシか、おまえか。」
「買いかぶりすぎです。」
「そんなことはないだろう。まぁ、自来也や、蒼雪と斎には及ばんがな。」
綱手は笑って指折り数えてみせる。
自来也、蒼雪、そして斎はもはや別格だ。彼らは火影になれるほどのトップクラスの実力を持っている。これからも里の中でしばらくあの三巨頭を打ち砕くものは現れないだろう。その後ろに続くのがイタチやカカシだ。
「それは言わないでください。」
半年ほど前に師である斎に勝てるかもと思っていたというのに、完全敗北したイタチは額を押さえて首を振る。
「まぁ、あの馬鹿に負けるとプライドがって言うおまえの気持ちもわからんでもないな。」
綱手はちらりと娘の頭をくしゃくしゃにして笑っている斎を見据える。
ただの童顔の、娘に甘い我が儘な父親そのもので、遅刻はするわ、書類仕事はしてくれないわ、ひとまずそういうタイプだ。呆れるほどに酷いこの男が、今里にいる人間の中で一,二を争う程強いと思うと誰もが頭痛をする気持ちも分かる。
「そういう意味じゃないんですけどね。」
プライドがとか大層な理由はないが、それでもただ悔しいという気持ちがイタチの中では大きい。
もちろん日頃の書類仕事の数々をすべて押しつけられている恨みは、気づかぬうちに多少なりともあるとは思うが。
「まぁでも、どっちにしてもサイが仲間になって良かったよ。なんか強そうだし?」
は明るい顔で言う。
「あれ、、嫌がってたんじゃないの?サイのこと。」
サクラは驚いた顔でを見る。そして斎にぐしゃぐしゃにされた髪を整えてやった。
「うん。だって前は嫌な感じがしてたんだもん。」
「今はないの?」
「ないの。だから良い。」
後腐れなく素直なところが、ナルトと同じくの良い所である。綱手はくつくつと弟子達のやりとりを笑って見つめた。
「さぁ、」
サクラは何かを思い出したのは、じとっとを見る。
「ん?」
は明るいいつもの表情で、不思議そうにサクラを振り返った。
「なんでもない。あ、わたし甘いものが食べたいんだけど、もいかない?」
この後、とサクラは付け加えた。
これで報告が終わりならば、まだ十三時だ。十分におやつの時間で差し支えないだろう。いろいろ自分にたまる鬱憤を何となく食品を貪ることで晴らしたいと思ったのだ。ただ、一人で行くのは流石に気が引ける。
「良いよ?でもどこが良いかな。今度出来た甘味屋?」
最近木の葉の一楽の近くに、新たな甘味屋が出来たと言う情報はも聞いていた。試してみても良いかと思ったが、イタチが横から口を出した。
「あそこはイマイチだったぞ。行くならそうだな…」
やサクラが任務に出ている間、手術で任務もなく、里にいたイタチはもう試し済みらしい。イタチは甘味が大好きで、しょっちゅう食べに行っているから、正直女のやサクラよりも美味しいところを知っていた。
「ってか、イタチさんもついて来てくださいよ。はしごしたいんで。」
ストレス解消のために食べる気のサクラは、イタチに軽く頼む。
「良いのか?」
流石に女同士の食べ歩きに首を突っ込むのはの彼氏でもいかがなものかと思ったイタチは、流石にサクラに尋ねる。だがサクラはひらひらと手を振って、イタチの思案を打ち消す。
「もちろん。わたしやじゃおいしいとこわかんないしね。」
「ね。」
イタチに案内してもらった方が、確かである。
「良いなーイタチ。両手に花じゃん。」
斎はぱちぱちと手を叩いて、心にも無いことを言ってみせる。とはいえ、全く本気でないことは誰もがわかりきっているので、イタチと綱手は冷たい視線を斎に送った。
「じゃあ貴方が行きますか」
「全力で遠慮します−。」
イタチはともかく、大人の斎が行けば驕らされるのは間違いない。しかもサクラは結構我が儘であることを知る斎は全力で拒否の姿勢だ。
「じゃあ言わないでください。」
イタチは冷たく低い声で言って、の頭を撫でる。
「ま。だけど今回は俺が驕るか。」
「え?いいの?」
「あぁ、失敗はしたが、お疲れ様だ。サクラもな。」
イタチとしても、自分の弟のせいでサクラやナルトに心労をかけているという気持ちはなかなかぬぐえるものではない。本当は自分が対峙しなければならないと思っているのだ。
しかしそんなイタチの思いを知らないサクラは明るい。
「やったー!イタチさん本当に好きだわ。」
手放しで喜んでみせる。
「サクラぁ。」
「本当にの彼氏なのが残念だわぁ。」
がふくれっ面をして抗議するので、ぺろっとサクラは舌を出して笑って見せた。
もちろん流石にサクラといえど、親友の彼氏を略奪する気など無い。それに二人が誰も入る余地がないほどラブラブなのはサクラが一番知っていた。
「確かにイタチはもてそうだな。顔は美形だし、性格も悪くない。」
綱手はいつも比較的仏頂面のイタチをからかうように言う。
「5代目までやめてください。」
イタチはあからさまに嫌そうな顔をして反論した。
「えーでも綱手様、こないだだってラブレターもらってたんですよ。」
「もらったっけ?」
はんーと顎に指を当てて真面目に考え出す。
恥ずかしがるそぶりどころか、覚えてすらいないらしい。イタチ以上にからかいがいのない奴だと、綱手は半目でを見るしかなかった。
戯曲
( たわむれ )