ナルトが風の性質変化の修行を始めたのは、帰ってきてからすぐだったが、その頃になると暁の動きも活発化し、暁を捕らえるための特別に二十の小隊が組まれるようになった。




、おまえは今回特別に編成した第一小隊の小隊長に命じる。」




 綱手はに厳かな声音で告げる。




「ついでにおまえは二十小隊の動きを見て、配置しろ。良いな。」




 アスマの班のフォローに向かうべく構成された五人の小隊は中忍であるいのとチョウジ、そして上忍であるライドウ、アオバ、を含んで五人だ。は若いが、感知、遠目を血継限界とするを一人多く組み込むことによって、他の十九の隊との連絡、および連携、指令を戦場で行うことが期待できる。

 彼女の前は五十キロ圏内ならば、すべて見通すことが出来る。

 一つの小隊が敵と接触したと分かれば、それに応じて他の隊に指令を出す。そして交戦した隊の相互援護を円滑にする。それが彼女の役目でもあった。




「え、ここはアオバさんか、ライドウさんじゃないんですか。」




 だが当のは他の班員である大人の男二人を見て、困惑しきった顔をした。

 自信を持て、と綱手が何度言っても、には相変わらず自信がない。もちろんはここ数年で本当に成長し、上忍にもなったが、彼女にいつも通り足りないのは自信だった。目を伏せて綱手の次の言葉を待つは、確かに成長したが、まだ小隊に指示を出す立場には早かったと、綱手に疑いを持たせる。

 既にアスマ班は出てしまっているし、そういうつもりで組んでしまっている。今更変えることは出来ない。




「大丈夫よ。なら出来るわよ。」




 いのが明るい声での背中を叩く。




「・・う、うん。」

「そうだよー。は強いし。」




 チョウジもそう言って、ばりばりと自分の手にあったポテトチップスを口の中に掻き込んでから、ふと気づいたようににポテトチップスを一枚差し出した。

 いのもチョウジもとアカデミーで同期だ。の自信のなさは知っているが、実力も一番知っている。




「大丈夫、俺はを頼りにしてるよ。」




 チョウジの疑いのない信頼に背中を押されてか、は顔を上げて綱手を見る。

 良い友人たちのおかげで、覚悟は決まったようだ。は戦う覚悟を決めるまでに時間がかかるが、戦うと決めてからは非常に強い。仲間がいる限り彼女は仲間がやられているのを黙ってみていることなんて出来ないから、大丈夫だろう。





「良いか。いざとなれば生死は問わない。斎がいるからな。」




 綱手はに人差し指を突きつけ、確認する。

 死体さえ持って帰ってこれば、斎が情報を透先眼で“視る”ことが出来る。の透先眼はまだ完成状態ではないため出来ないが、の父であれば十分にそれは可能である。要するに死体さえ連れ帰ってしまえば良い。




「うん。頑張る。」




 の紺色の瞳が目的を定め、後ろのアオバとライドウを振り返った。




「協力お願いします。」




 ぺこりとは頭を下げる。

 年下のが小隊長になると言うことは簡単なことではない。彼らとしても決して良い心地はしないだろう。そう思っては深々頭を下げたが、アオバとライドウは手を振って笑った。




「そんな。」

「そうだ。俺たちも協力出来る部分はめいっぱいする。もちろんだ。」





 礼儀正しい少女に不快感はないし、彼女が優秀だという噂は聞いている。ましてやライドウとアオバもの父親である斎と何度も共に任務に出たことがあるから、彼には恩があった。娘でもそれを返すことができるならば、光栄の極みである。





「まず、5つある換金所に向かえ。少なくともこの換金所なら、4つはおまえの目の範囲に入るはずだ。一つも途中で。」





 綱手はに地図を渡す




「現地での采配は、すべておまえに任す。良いな。」





 の透先眼であれば、間違いなく戦場のすべてを見通すことが出来る。

 その上で、どこにどう何を配置するか、それを決めるのはだ。彼女しか知り得ない情報を、彼女は知っているのだから、判断は彼女が人に伝えて判断してもらうよりは、彼女自身が判断する方が早く、問題も少ない。




「はい。」




 はまっすぐ綱手の目を見て頷いた。




「すぐに出発しろ。アスマの班は既に出発してる。」

「わかりました。」




 と他の班員は頭を下げて、部屋を出ようとする。その時、綱手がふっとの方を見た。




「気をつけろよ。」

「はい。言ってきます。」

「あぁ、行って来い。早く帰って来いよ。」




 全員で、と綱手は言うことの出来ない言葉を口の中だけで呟いた。



願望