は角都に向けて、白炎によって生み出された閃光を放つ。




「ちっ!」





 角都がそれを避けたのを確認して、アスマ、そしてシカマルの前に立った。は手に持っていた白炎を付随させた大鎌で、イズモとコテツに繋がっていた黒い神経のようにうごめく紐を切り取り、焼き捨てる。やっと自由になった二人を後ろに庇い、は相手を睨み付けた。





「大丈夫?」





 いのがシカマルを支え、アオバも慌てて倒れ伏しているアスマの元へと駆け寄った。




「アスマさんを後ろへ!」




 はアオバに叫び、ライドウと共に武器を手に構え、角都、飛段を睨み付けて牽制する。

 これほどの手練れを相手にするとなると怪我人は足手まといだ。庇って戦っていては絶対に共倒れになるのは間違いない。





!右の男を描かれた円の中に入れるな!」





 シカマルが必死の形相で叫んだが、透先眼で戦いをリアルタイムで見ていたはそれを理解していたし、それを聞いていたライドウも同じだ。





「…右の男はわたしが遠距離から燃やす。左の男を僅かでも止められる?」





 はライドウに確認する。

 アスマの状況、シカマルの戦い方などを見て間違いなく右の飛段という男は他人の血を舐め、あの円の中に入ることによって自分のダメージを他人のものに出来るのだ。また四肢がばらばらになってもつなぎ合わせれば大丈夫のようで、一定の条件下なら不死だと思われる。

 左の角都という男の方はまだ分からないが動きなどから見てもかなりの手練れだというので間違いないだろう。またあの黒い神経のようにうごめくそれは、手の距離を伸ばすと思って間違いない。しかも土遁で強化してくるようだ。

 どちらも近距離で戦っては不利。

 は幸い遠距離の戦闘は極めて得意で、飛段に関しても自分の血継限界である高温の白炎で体をすべて灰にしてしまうという手がある。仮にそれでも再生できるとしても、再生に時間がかかるはずだし、簡単につなぐことは出来ないだろう。

 ただそのためには少なくとも3分、飛段を援護するであろう角都を止めてもらわねばならなかった。





「きついこと言ってくれる。姫。」





 ライドウはそう答えるしかなかった。

 角都がかなりの実力者であることはその腕力や動きから容易に見て取れる。倒せと言われているわけではないが、時間を稼ぐだけでも非常に難しい。ましてや後ろには大怪我を負ったアスマ、そして自分で何とか動ける程度のイズモやコテツがいる。

 チョウジ、いの、アオバが後ろにいるからと言って、怪我を負った彼らを完全に庇えるとも限らない。ましてや一人でも傷を負ってしまえば、飛段の生け贄にされ、飛段を攻撃することすらも敵わなくなる。首をはねても駄目なのだ。




「どうする?」





 ライドウは砂利をふみながら、に問う。

 アスマが倒れ伏している今、二つの部隊の指揮と判断は小隊長のに委ねられており、判断を下すべきはだ。はアスマ班であり、既に怪我をしているコテツ、イズモが戦えるような状態ではないことを確認し、いのやチョウジの能力、そしてシカマルなどを加味しても、戦えるのはともうひとり、残りは全員後ろのアスマなどを庇わなければならないと判断した。




「チョウジ、いの、怪我人を全員後ろに下げて。」

「わかってる!」

「ライドウさん。アオバさんと交代。」

「なに?」

「距離をとりたい。」





 はライドウをちらりと振り返り、アオバと見比べて言う。




「ライドウさんでは近距離戦闘になってしまう。分が悪い。」




 近距離戦闘になり、角都の黒い紐状のものに捕まっても、飛段の鎌に捕まっても、こちらにとっては庇う部分が増えるだけだ。ならばこちらから近づいて攻撃する近距離戦闘は危険性を考えれば避けて通るべき道だった。ライドウはどちらかというと近距離戦闘向けの人材である。

 アオバの方がどちらかというと遠距離戦闘が得意だ。はそれを知っているために怪我をした仲間を庇うアオバとライドウの交代を言い渡したのだ。

 本当は敵から仲間を庇うのは遠距離戦闘を得意とする要員が好ましい。しかし、今の現状、奴らをまず阻むことが出来なければ全員が助かる道がない。それが出来なければ全滅も避けられそうになかった。そうなればアスマは愚か、後から来る他の増援部隊にも犠牲者は出るだろう。

 また肉弾戦車など、直接的な攻撃をするチョウジはそもそも奴らと戦うこと自体が不利だった。




「白紅、」





 は小さく自分の白炎の蝶の名を呼ぶ。

 すると弾けるように鱗粉をまき散らし、その鱗粉の一つが蝶になってゆく。それを繰り返しているとあっという間に蝶の数が数百になった。蝶が白い球体を自分たちの足で作り出し、圧縮する。




「なんだあのチビ、」

「これはまずいな。」




 角都が、飛段が戸惑っている間に、間合いを詰めようとの方へと走り寄る。しかしそれをアオバがカラスで遮った次の瞬間、圧縮していた白い球体が、まっすぐ飛ぶビームのような閃光を角都へと打ち込む。




「なんだこりゃ!!」

「ガード不可だな。これは。」




 飛段は叫びながらも、何とかそれを避ける。角都は舌打ちをしながらも、同じように軽やかに閃光を紙一重で避けた。





「…時間を稼ぐ、しかないな。」




 はぴっと人差し指をたて、自分の前に線を引くように動かすと、飛段や角都と自分たちの間合いの中心線に白炎の壁が作り出される。





「うわっ!なんだよこりゃ!!」




 飛段は声を上げて熱風に手を盾にして後ろへと下がる。

 白炎は数万度、もっとと言われる高温の炎の塊であり、少なくともその壁があるため、ここを直接的に通り抜けることは不可能だ。例え体にチャクラを纏っていたとしても、この炎の最大の特徴はチャクラを直接焼き、他人の術を破ることであり、壁を突破することは不可能だ。

 とてもちろんこんなもので彼らの攻撃をすべて止められるとは思っていない。

 また地中から来ることは可能だ。そのためには自分の周囲に白い球体と大量の蝶を作り出した。もしもそう言った行動に出られた場合にピンポイントでそれらを打ち抜き、破壊するためだ。また、仲間達への援護のためでもある。





「時間稼ぎ、だな。」




 角都は冷静にの手を分析した。

 後ろに怪我をしている仲間を庇っている限り、何人かは絶対にそちらに手を取られ、本気で全員でかかってくることは出来ない。戦闘が出来るのは二人、その状態では勝ち目はないとは判断したのだ。

 壁でこうして時間稼ぎをすればその間に怪我人を後方へと下げることが出来る。 





「…後方部隊が来ているのか。」





 の水色の瞳を睨みながら、角都は小さく息を吐いた。

 どうやら時間をかけすぎたらしい。もうすぐ来るからこそ、彼女は一か八かこちらへと攻撃するという賭に出ることなく、仲間の身柄の安全の確保を優先したのだ。攻撃すれば後ろの怪我人は手薄になり、へたをすればこれ以上の死傷者が出る。

 増援部隊が来ることを加味して、彼女は非常に賢い決断をしたとも言えた。




「餓鬼なのになかなか賢い。」




 しかも驚くほどに冷静だ。また仲間と自分の実力も正確に把握している。

 しかしながら、本当はの考えは違った。確かに増援部隊を来させるのは可能だが、はその指示を絶対に出さなかった。今回組まれた部隊で近距離戦闘において一番の手練れはアスマだった。そしておそらく、長距離戦闘においてはが一番良く出来るだろう。アスマがやられてしまった今、後続部隊にもおそらくこいつらに対抗できるものはいない。

 ならばもし増援に来てもらうなら、能力別編成で別のものを組み直さなければ勝てない。

 また手負いのものたちを庇いながらの戦闘など、不利にも程がある。後続部隊が来ると見せかけて帰ってもらうしかないと踏んでいた。





「だが、もうそろそろ時間だな。」



 角都は息を吐き、きびすを返した。頭の中に響くリーダーであるペインの声が、冷淡にふたりに帰れと言っていた。




「げっ、もうちょっとまってくれねぇかなぁ。」




 飛段は不満の声を上げる。





「命令は絶対だ。」 




 角都は言って、ちらりとを見た。




「ま、」 




 待てと言おうとしたアオバを、が視線で止める。

 今、現状で怪我人を庇っている自分たちには勝ち目がない。不利であることを、は冷静に理解しているのだ。




「残念だな。あの餓鬼は実に面白そうだったのに。」




 角都はそう言って、去って行った。達に出来る最善の策は奴らを見送ることでしかない。今は悔しかったとしても、それしか道はないのだ。

 は角都、飛段の気配が消えるのを待って自分の白炎の壁と大鎌を消し、息を吐く。

 いつの間にか晴れ渡っていたはずの空は曇天になっていて、今にも雨が降り出してきそうな灰色がすべてを支配している。後ろを振り向くといのが泣きそうな顔で必死に医療忍術を用いてアスマを治そうとしている。




「雨、がくる。」




 は小さく呟いて、自分の着物についているフードで髪を覆った。





雨天