アスマの葬儀は多くの忍が出席の下、翌日、厳かに行われた。
紅は気丈に泣かず墓の前に花を手向けたが、はイタチに支えられるようにしてずっと泣いていた。それは紅が妊娠していることを、知っていたからだ。葬儀の夕方、とイタチに命じられたのは全く別の任務だった。
「イタチ、。おまえら二人に、暁のデイダラ、そしてもう2人の迎撃に出てもらう。」
綱手はとイタチの二人を交互に見てから、書類を渡す。
「え?別の暁ですか?」
イタチはそれがアスマを殺した角都と飛段とは全く別の奴らだと言うことに気づき、綱手に尋ねる。
「あぁ、木の葉に向かってるらしい。明後日には、」
綱手にとっては暁は手練れ揃いで、アスマの件で分かったとおり、手練れを配置した小隊編成でも全く歯が立たない。おそらく暁は少数精鋭なのだ。こちらもそれ相応の忍を出さなければ迎撃には出られない。カカシ、ヤマトがナルトにつきっきりの現状、イタチに行ってもらわねばならないだろう。
とはいえ、一人でと言うわけにはいかないし、生半可な忍では逆に邪魔になる。
だがならば、イタチの手もよく知っているし、の体は火に強い。イタチの火遁に巻き込まれることはまずなかった。一度も班を共に組ませたことはないが、恋人同士であり、修行を常に共につけていることを考えれば、問題はないだろう。
実力的には、だ。
「、おまえにはイタチ組んでもらう。」
綱手が改めてそう言うと、は俯いてしまった。
イタチがどれほどの実力があるのか、はよく知っている。斎がイタチとしょっちゅう任務に行くのは、何も彼らが師弟関係にあるからだけではない。実力が釣り合っているから、お互いに庇わずとも問題無い強さを持っている。
手練れになると逆に生半可な連携は命取りになる上、実力が釣り合わず、どちらかが劣っていた場合、完全にお荷物だ。
相手もそれ相応の相手となるから、その隙は完全に命取りになる。
「、」
綱手は執務机から立ち上がり、の前に立つ。
の背は綱手よりもまだかなり小さい。これからも多分、追いつくことはないだろう。長身の両親に似ず、は小柄だった。性格もあまり似ておらず、優しい。それを誰よりも知っているのは、師である綱手だ。
同時に綱手は、この2年半のの血が滲むような努力を誰よりも知っている。
「、おまえは同年代の中では一番強い。」
それは世辞でも何でもなく、同期の誰もが感じている評価だった。それでも綱手はの紺色の瞳がいつも戸惑いを浮かべていることを知っている。
は同年代ではシカマルよりも遙かに強く、また指揮系統に関しても有益な能力を保持している。それは彼女の意志とは関係ないが、能力的に透先眼はどうしても指揮を担わざる得ない立場にを立たせることになるのだ。
「それ故に年の割に私たちもおまえに多分なことを望んでいると分かっている。」
彼女の性格からしてそれが辛いことも、綱手は重々承知だ。
このような状況でなければ、にのんびりと成長してもらって、ある程度の時期から指揮に慣れるための任務に出したら良かったのかも知れない。しかし、現在里は多くの問題を抱えており、大きな戦力である彼女を年齢という問題だけで出し惜しみしていられない。
「、おまえは私の自慢の弟子だ。」
綱手は俯いているの頬を撫で、上を向かせて鮮やかに笑う。
「斎なんて若造の弟子のイタチに、負けてたまるか。」
紺色の瞳は丸くなって、驚いたように綱手を見上げている。だが、綱手は心からそう思っていた。
まだは若く、どうしても戦いに対して消極的だ。けれど、自分の弟子の中では誰よりも強くなるだろう。
「うん。がんばる。」
「あぁ、私はおまえに誰よりも期待しているぞ。」
綱手は最後にの肩をぽんぽんと叩いて、イタチに向き直る。
「若造って…。」
「斎なんて私にとっては若造だ。なんと言っても所詮自来也の弟子だからな。」
自来也と綱手は同期だ。イタチの師である斎は自来也の弟子だった。綱手から見てみれば所詮斎も友人の弟子だった小童で、その弟子のイタチとなればなおさらである。まぁそのろくでなしの小童が今では里で1,2を争う程強いのだから、人生残念なものだ。
そういう点では必然なのかも知れない。
自来也もまた、火影になれる実力がありながら火影になることを拒んでいた。その弟子である斎も同じだし、イタチもまた全くと言って良いほど火影になることを望んでいないだろう。も同じくである。何やら似たような系譜を感じてしまうのは、何も綱手だけではあるまい。
それでも、彼らは強く、もちろん木の葉を思う心とて、同じなのだが。
「ひとまずデイダラはおまえも見てるな。」
綱手はに確認する。砂隠れの里の砂影を助ける任務の際、はデイダラ、サソリと交戦していたはずだ。
「はい。全部では、ないですけど。」
「その映像をイタチにも見せておけ、対策は必要だ。」
「サソリも、ですか?」
「否、暗部の情報では別の奴らしいぞ。」
綱手にもまだよく分からないが、情報ではデイダラと組んでいるのは別の男だという。
「どんな人、ですか?」
「…仮面の男と、緑っぽい髪の男だったか。」
「仮面の男も交戦はしたことはありませんが、前に見たことがあります。もう一人のは…緑っぽい髪?」
は小首を傾げたが、自分の記憶の中に一人だけ該当者がいた。
「それって、榊ですか?」
先に気づいたイタチが、訝しげな顔で問う。
緑なんて言う髪の色の忍というのはなかなかいる物では無いが、とイタチは一人だけ知っている。かつて大蛇丸の研究所のような場所を襲撃した際に、結界の媒介として捕らえられていた男だ。彼は風の国の神の系譜・飃の血筋で、大怪我をしてしばらくは行き場所がなく、の家である炎一族邸に居候していた。
掃除などをして、何やら楽しんだ後、彼は今、木の葉の甘味屋で修行をしながら生活していたはずだ。もちろん神の系譜であるためその力は恐ろしいほど特殊で、大きく、彼もまた忍としても強いが、何分その性格故か普通に現在は甘味屋の職人として修行をしながら暮らしており、忍としても働いていない。
「私もその線を疑ったんだが、奴は普通に木の葉で暮らしとる。」
榊は本当に心から普通の一般人として暮らしている。綱手も確認に行かせたが、間違いはなさそうだった。
「じゃあ別の一族で、緑の髪の人がいるってことか。」
は目をぱちくりさせて言った。
例えば赤は渦巻き一族の血筋、紺色は蒼一族の血筋など、髪の色は結構一族の特徴を示す場合が多い。黒髪の人間は多いので判別はつかないが、それでもうちは一族は全員黒髪で例外はいない。緑なんて特殊な色なのだ、一族の特徴だとしてもおかしくはないはずだと思ったのだが、他国なら知らない一族があってもおかしくはないだろう。
「もしくは、榊の親族、かだ。」
イタチは冷静に言う。
神の系譜は五大国に一つずつ存在し、多くの一族は里に関わっていない。榊は風の国に存在した神の系譜・飃の出身で、砂隠れの里にその存在を恐れられる形で大蛇丸に引き渡され、結界の媒介にされていた。そのため、風の国にも帰りたがっていなかったのだ。榊は自分を飃だと言っていたが、姉弟なり親族がいる可能性はある。
「わたしと他の神の系譜に、会ってみたいな。」
が会ったことのあるのは土の国の神の系譜・堰の要と風の国・飃の榊だけだ。あと二つ、水の国の翠と、雷の国の麟がある。翠は滅びたと言われているが、実際にはも知らない。それに相手が同じ神の系譜ならば、会ってみたいと思った。
「だが、ひとまず榊の話を聞かないことに話にならない。」
イタチは小さく息を吐いて、目を輝かせているを見た。
同系