まだ暗い明朝に木の葉隠れの里の入り口までやってきたイタチとは、後ろを一度振り返る。

 大きな門の所に見送りに来ていたのは綱手と斎だった。




「調子はどうだ?」




 綱手はイタチの体調を一番に心配する。

 一応彼は手術を終えたばかりの身だ。比較的体は強い方ではあるが、もう少し医者としては休ませる時間をとらせたかったというのが本音である。




「大丈夫です。」




 イタチは短く答えて、伸びを軽くし、手足を伸ばす。

 今日は長袖ながらも暗部の服を着ている。装備も背中に刀を持つ典型的な暗部のものだが、その刀は長刀で等身は水色で見えないが、蒼一族が持っていたチャクラ刀である。ガード不可の刀を持つ敵が多いため、その対策だ。




「うん。」





 も視線をイタチに返して、改めて綱手を見ると、彼女も大きく頷いて見せた。

 はいつも通りの白地の着物で、手ぶらだが、長い袖には色々入っている。鮮やかな赤い帯がひらひらと朝の風に揺れていた。





「二人とも一応先に確認しておくよ。生死は問わないから、迎撃だと思ってね。」




 斎は人差し指を二人に突きつけ、確認する。

 とイタチが奴らに敗れた場合、次に迎撃に出るのはヤマトとカカシだが、彼らは既にアスマをやった角都と飛段を倒すために派遣することが決まっている。既にカカシの方は10班の面々を連れて迎撃に向かっている。簡単に奴らを倒すことはできないだろうから、次は里において遠目の能力で防衛を担っている斎と言うことになる。それは防衛の問題の上で何としても避けたい。





「おまえらが無事に帰って来ないと、私らは困るんだからな。おまえらほどの手練れは何人もいないんだ。勘弁してくれよ。」




 綱手はイタチの背中を叩いて、笑う。



「父上、綱手様、いってきます。」




 は真剣な顔で綱手に言う。




「あぁ、行ってこい。」

「気をつけてね。」





 綱手と斎は二人とも笑って言うと、斎の方はイタチの肩を軽く叩いて送り出した。





















 

 とイタチはまず綱手に指定された暗部が暁を確認した場所へと向かう。そこから五十キロ圏内をの目は捕らえることが出来るから、そこからまず探査を始めるのが妥当だ。

 綱手にとっては暁に対して自分のコマを4つも放出しているわけで、これで失敗すれば取り返しがつかない事態になるのは目に見えていた。正直二人で三人もの暁を相手にするのは流石に辛いが、自分たちがやらなければ誰も出来ない。





「見つけた、なんか、十キロ先、平地を通ってこっちに向かってる。」

「そっちの方が、俺達にとっては好都合だな。」






 イタチは言って、遠くを見る。 

 平地を通っているのは奇襲を恐れているからかも知れない。ならば警戒されているのだ。見渡しが良ければそれだけ尾行も難しいわけだが、幸いなことにの能力があれば尾行も奇襲もたやすい。自分たちが襲いやすい場所で攻撃することが出来る。

 そういう点では透先眼を持つが作戦の要となり、指揮系統を任されるのは当然だ。が望むにしろ、望まないにしろ。





「平地と森の間を抜けるところで、襲うぞ。」





 イタチはの情報から一番撤退もしやすく、攻撃もしやすい場所を選んだ。




「…わかった。」




 はイタチの判断に小さく頷いて、ぐっと拳を握る。




「念のため、おまえと俺の片目を入れ替える。」




 イタチは左目を瞬く。

 何度かイタチは斎と任務に出た時、この方法を使ったことがあった。要するに簡単に言えば、片目を透先眼、片目を写輪眼の視界にすると言うことだ。お互いにお互いの目を借りるこの方法は非常に有益だ。

 要するに片目でチャクラの動きを、片目で全方方位の視界を手に入れることが出来る。

 もちろんお互いに離れすぎれば機能しなくなるが、500メートル範囲から互いが出なければ問題無い。連携して戦うことを考えれば、それ程離れることはないだろう。





「おまえも両目は別々に使えていたな?」




 イタチはに確認する。

 何度か修行でもイタチとこの方法を試してみたことはある。そのため写輪眼の視界にもある程度は慣れているはずだ。





「…うん。多分。」





 は酷く曖昧な答えをイタチに返した。イタチの方がその答えに眉を寄せる。




「難しいのか?」

「え、いや、多分出来ると思うけど」

?」




 イタチは俯いているの頬に手を入れて、上を向かせる。目じりを下げたの表情は、困惑しているような怯えているような、途方に暮れた感じだった。




「どうした。不安か?」




 問えば、はやはり俯いた。 

 正直イタチとがこれほど決定的な連携を求められる任務に出るのは初めてだ。大抵イタチはの護衛であり、はその能力だけ使っていれば良かった。しかし今回はお互いに戦闘要員であり、連携して敵を倒さなければならない。

 お互いにお互いの能力はよく知っているし、連携の術もよく知っている。

 それでも実戦経験はほとんどないという意味で、の不安は当然だとも言えた。




「俺は、おまえを信頼してる。誰よりもな。」





 イタチはの頭を抱き寄せ、額に口づける。

 恋人としてももちろん信頼しているが、おそらくの可能性や力を誰よりも信頼しているのはイタチだ。一緒に修行もしてきた、いつも隣で見守ってきた。そのを信頼する気持ちは、が自分に自信がなかったとしても、変わらない。




「わ、わたしも、イタチを信頼してるよ。」

「でも、自分は信じられないのか?」





 イタチは小さく笑う。

 人間とはそんなものなのかも知れない。自分の心しか分からないくせに、自分を一番信頼できない。他人の心は慮れるくせに、自分の心がどう考えているのかに思い当たらない。他人が何者であるか理解できるのに、自分が何者なのか分からない。

 総じて、そんなものなのかも知れない、でも、




「俺は、おまえがおまえを信じられなくても、信じてる。だから俺の信頼に応えてくれ。」




 に自信はないかも知れない。けれどイタチの信頼に応えようと懸命に戦えば、彼女はどこまでも強くなれるはずだ。

 今は自分を振り返れば彼女は失敗してしまうだろう。だから、前だけ見れば良い。




「うん。わかった。」




 はそう言って、じっとイタチの緋色になった瞳を、その水色の瞳で見上げた。途端にの左側の目の色が緋色に変わる。逆にイタチの左の目は水色に変わった。




「瞳術を使う時は俺は両目がいる。合図する。良いな。」




 切り替えは別にそれ程難しいことではないが、突然視界が切り替われば隙が出来るかも知れない。お互いの作戦にも影響が出るかも知れないので確認するのが原則だった。特に万華鏡写輪眼を使う時、両目がないと厳しい。だがそれ以外は基本的に透先眼と写輪眼、片目ずつ持っていた方が戦うのには有利だ。





「先に能力の想像できない仮面の男と飃の男に奇襲を仕掛ける。分かっている方は後だ。」




 手が分かっているため対処の方法も考えている。 

 ましてやデイダラは遠距離型だが、こちらは同じく遠距離型のがおり、の遠距離攻撃は基本的にガード不可だ。は透先眼の瞳術の性質上、返しと盾には絶大な力を持つ。デイダラの攻撃がに当たることは絶対にないが、の攻撃はデイダラに100%当たる。


 正直一人でデイダラをほぼ瞬殺できるだろう。





「わかった。どっちが、どっちをする?」

「仮面の男は俺がやる。飃の男はおまえだ。」

「神の系譜には神の系譜?」

「そんなところだ。」





 その男が予想通り神の系譜の飃で榊の弟ならば、チャクラの量は莫大だ。ここはが対応するのが妥当だろう。





「やるか。」

「うん。」




 イタチとはお互いに意思の確認をしてから、顔を上げた。








対等