イタチとが連れ帰った神の系譜・飃の男はすぐに尋問部隊に引き渡されたが、珍しく尋問部隊と一緒にやってきたのは、斎だった。




「すっごいね。ほぼ無傷じゃないか。」





 明るく人なつっこい笑顔でまず「おかえりー」とイタチに抱きついた後、娘のにももちろんハグをして頭をなで回す。





「…」





 イビキが何とも言えない視線で斎を見ているのでイタチの方がいたたまれなくなったが、もちろん斎は気にしていない。イタチとの髪の毛がぼさぼさになるまで頭を撫でて、それから結界の中にいる男に向き直った。





「まさか生け捕りに出来るとは、も結界の腕を上げたね。」




 斎が素直に娘を誉めると、は複雑そうな顔で俯いた。




「えっと、…結界の術式の中に、イタチが蹴り飛ばしてくれたの・・。」




 の今の技量では、地面にある一定の条件の下に発動する固定の結界を張るのが限界だ。元々結界術というのは医療忍術張りの繊細なチャクラコントロールが必要になってくる。チャクラ量の多いはまだ咄嗟に結界を戦いの中で張るのは無理だ。

 だから自分に余裕がある時に隠れていくつも固定の結界を張っておき、誰かがそこを踏めば発動するようにしておけば良い。イタチがその作戦にあわせて戦略を練ったという所だろう。





「なるほどね。流石イタチ。」

「いえいえ、先生とよく似た方式で来てくれるので楽でした。」





 どうやらと斎は性格こそまったく違うが、親子だけあってそれなりに戦略のたて方は似ている。また結界に関しても斎がよく使う戦法だった。イタチとしてもその戦法には慣れ親しんでいるし、同じ方法を使うの動きにあわすのはとても楽だった。





「さてさて、滅多に会うことが出来ないはずの神の系譜の直系にこんなにもお目にかかれるとは。」





 斎は薄緑色の髪の男を見て、驚きを隠せずに言う。





「初めまして、僕は蒼斎。この子の父親で、炎一族の婿。要するに神の系譜の伴侶だよ。」




 斎が笑って挨拶をすると、彼は驚愕と言った様子でと斎を交互に見比べた。 

 男はと斎の顔を見比べ、不可解そうな顔をしていた。そりゃそうだろう。斎との顔は誰が見てもそっくりで、血のつながりを感じさせる。だが、それ以上に彼の見解からは当然の疑問だった。





「化け物は、人間から生まれるのか?」




 彼は自分のことを人とは違う、“化け物”だと思っている。彼はおそらく親も知らず、親族も知らない。血のつながりがあったのは、木の葉の里に保護された榊のみだろう。要するに彼はどこから自分が来たのか、誰から生まれたのかすらも知らないから、自分を化け物だと思い込むことが出来た。

 ただその希少な血を搾取され、そこから逃げ出した後も自分を人とは違うものだと思ってきた。





「君は、自分たちは僕らと違うものだと思っているのかい?否、思いたいのか。」





 斎の声は優しかったが、その答えを既に知っている。

 あまりに酷い仕打ちを受けてきたからこそ、自分たちと彼らは違う生物だと思いたかったのだろう。それほど、過酷な環境に育ってきたのだ。

 チャクラを封じられている薄緑色の髪の男は、年の頃は20歳前後。本来ならまだ親がいてもおかしくはない。しかし彼はその過酷な運命と希少な血から自分が何ものであるかも、どこで生まれたのかすらも知らないのだ。






「おまえは、心を読み取る力があるのか。」





 男は警戒の目を斎に向ける。斎は肩を竦め、首を振った。




「心を読むのは簡単なことじゃない。ただの推測と勘だよ。」





 酷い状況故の選民思想は、決して想像できない物では無い。良くある話とまでは言わないが、十分考えられる話だ。斎は勘が良い方で予言も出来るが、それでも心を読み取る能力はない。ただイエスかノーぐらいを判別する力はある。





「まず、炎一族について話そうか?」

「…知っている。木の葉の里と動いている、神の系譜だ。」

「そ。先ほど言ったとおり、僕の妻は神の系譜の直系だ。ちなみに僕も、の婚約者であるイタチも、木の葉の里の忍だよ。」





 聞くと、彼は黙り込んだ。

 彼としては神の系譜は特別な存在であり、何者とも交わっていないと思いたかったのだろう。神の系譜は確かに一系統にしか受け継がれない能力で、莫大なチャクラと特殊な血継限界により、絶対的な力を持つ。しかし、それは所詮人と交わることによって生まれる。

 炎一族の成り立ちは鳳凰が人と子を産んだことに始まるという伝説の通り、所詮彼らも人の子なのだ。





「君の兄も今、木の葉にいる。」

「何?」






 榊が大蛇丸の研究所から木の葉に保護されたのは、既に3年も前のことだ。人に対する憎しみを口にしていた彼は、炎一族の客人としてしばらく炎一族邸に滞在して傷を癒やした後、名を持ち、木の葉で普通の人間として暮らすようになった。

 彼はこの間、、イタチと話した後、榊は斎を訪ねて来て、自分も任務に出たいと言い出した。





「彼は木の葉に保護され、今は木の葉で暮らしている、連絡しておいたから、おそらくしばらくすれば来るだろう。」





 斎は榊の口から、自分が大蛇丸に捕まった時に逃がした弟がいること、そして弟がもし暁にいるなら、自分も戦いたいと言っていた。何故そうしたいのか、問うた斎に、彼ははっきりと言って見せた。





 ―――――――――――守りたい人がいる、から。




 この3年間、彼は木の葉の甘味屋でアルバイトをしながら普通の人として生活してきた。甘味屋の店主は炎一族の遠縁で、働いてみたいという榊のために斎が口利きをしたのだ。榊は無口だが黙々と仕事をする。それが固い店主に気に入られ、職人として修行していると聞いている。

 人を憎んでいた彼は、この数年で大きく考え方を変えたのだろう。






「話すと良い。名前も身分もこれから得られるものだ。求めれば、与えられる。」




 斎は彼に対して、無理矢理情報を聞き出す気は、今はなかった。


 榊は弟である彼と話したいと言っていた。それがもしかすると、目の前にいる彼に心境の変化をもたらすかも知れない。暁を撃退し、またシカマルの班が角都、飛段を倒すことに成功したとの報告が入った今、焦る必要はない。





「イタチとはしばらく体を休めて良いらしいよ。綱手様から。」






 斎は不安げにやりとりを見守っていたイタチとに言う。





「え、良いの?」

「うん。綱手様はイタチの体調を心配してるから、明日は病院に来いってさ。」

のおかげで今回は万華鏡も使わずに済みましたし、大丈夫ですよ。」





 イタチは軽く肩を回して、斎に言う。

 病院で検査を受けるほどのことはしていないので大丈夫だと思うが、綱手の命令ならば避けられないだろう。面倒だなと思ったが、今回は斎も助けてくれる気はないようだ。





「念のため、ね。」





 斎はイタチの背中を軽く叩いて、肩を竦めた。

 イタチはどうしても他人のことになると無理をしがちになるため、綱手は心配しているのだ。病気のことだけではなく、真面目すぎるのも問題で、イタチはいつも働き過ぎだ。少しはサボり癖のある斎を見習うべきだ。





「それにしてもはよく頑張ったね。イタチ、連携はうまくいった?」




 斎はに抱きついて頭を撫でながら尋ねる。

 イタチとが実戦で連携をしたのは今回が初めてだったはずだ。もちろん修行の時に何度も練習はしていたし、斎相手に連携をしたことはあったが、実戦経験はないので斎も心配をしていた。ましてや小さな失敗すらも許されない暁の手練れとの戦いだ。






「すごく楽でしたよ。も俺の指示をよく守ってくれました。」 

「イタチの指示すっごい詳しいの。だってどこに行くのか分からないんだもん。」





 はイタチの指示通り動いていたが、どこにその作戦が行き着くのか分からないものも多かった。イタチは斎と同じでかなり緻密に作戦を立て、積んでいくタイプだ。もどちらかというとそういう戦いが得意だが、チャクラが多いので罠をばらまき、状況に応じてそれを使う傾向にある。それに対してイタチは罠の数は少ないが、確実性の高い作戦を立てる。





「目の方はうまくいった?」






 斎とイタチもそうだが、お互いにお互いの目を片方繋げて貸すことがある。これは写輪眼、透先眼両方の視界を持つことによって、片目は写輪眼でチャクラを色ですべて見抜くと同時に、片方の透先眼で死角のない全方包囲を見ると言うことだ。透先眼は短期の未来予測もするため、不意打ちにも対応できる。

 ただし、お互いに視界になれていなければマイナスにすらなる。




「うん。なんとか、ちょっと一回間違えて地雷踏んじゃったけど。」

「まぁそのおかげで俺たちが地雷に気づいていないと見せかけられたから、問題無い。」





 が小さくぼやいたのをフォローして、イタチは笑う。




「そっか。ならこれからも大丈夫だね。僕は待機で世代交代だ。」





 斎は娘の成長を聞いて安堵した。

 が上手に能力を使えるようになれば、今まで斎がしていた任務もがこなせるようになるだろう。これから暁を相手にするとなれば、人数は多ければ多い方が良い。




「イビキも良かったね。これから拷問せずに楽できるよ。」

「…貴方がちゃんとしてくれれば俺の仕事も減ると思うんですが…。」





 イビキは厳つい顔ながらも斎に強く出ることが出来ず、ため息と共に愚痴を吐き出す。

 心を読むことは出来ないが、斎は他人の過去を見ることが出来る。しかしその力を彼はそれ程好んではいなかった。

 人の過去にこそ、その人がある、そして自分を自分で語ることこそが重要だと言うのが、斎の考え方だ。

 だから彼は多くの場合他人の過去をみることはない。話すまで待つ、もしくは話してくれるように持っていくのが彼のやり方だった。今回捕らえた神の系譜の男に対しても、斎はその心情を崩していないのだ。だからこそ、榊と再会させてから結果を待つという方法を提案した。





「…」




 結界の中にいる男は、笑い会って話をするイタチや、そして斎を見ながら複雑そうな表情をしていた。









無知