便宜上、飃と呼ばれているが、男には名前がなかった。

 生まれた時から両親はおらず、兄は一人いたが、人間達は自分たちのことを“化け物”と呼んでいた。なぶって自分たちの血を得ようとする“人間”と人の体を治癒させる血を持つ“化け 物”の自分たち。兄と自分。俺と、おまえ。“化け物”と“人間”。この四つのものしか知らなかった飃はある日兄と一緒に“人間”を皆殺しにして、逃げた。

 兄が大蛇丸−人間に殺され、死んだ後、飃は暁にスカウトされ、そこで戦うようになった。

 世界を変革すると言った人間の言葉にひかれた。彼が何をしようとしているのかよく分からなかったが、彼が争いごとを生んでくれるのならば、飃はなんでも良かった。



 化け物の自分と、人間は違う生き物だ。



 醜く、ただ権力や特別な力に弱く、ただそれだけのために自分たちを傷つけた人間同士が争い、勝手に死んでくれることが、飃はただ素直に嬉しかった。

 人は猿を殺しても嘆かない。それと同じで飃も人間が死んでも嘆かない。 

 だから飃にとって、目の前にいる自分の同じ神の系譜の少女−化け物が、人間の男と見事な連携を仕掛けてくることも、人間の男が彼女を庇いながら呼吸を合わせて戦っていることも、全くと言って良いほど理解できない。理解したくない。





「おまえらは、なんなんだ。」








 着物姿の長い紺色の髪の少女と、暗部の制服を着た黒髪の男。片方の少女は間違いなく白炎を連れている、神の系譜の直系−化け物であり、男は写輪眼のうちは一族−人間である。

 飃は手を前に差し出し、すっと振る。

 風の刃で男の喉元を狙ったつもりだったが、その攻撃はすぐに少女によって作り出された白い炎の壁によってはじき返された。





「うぉお!返ってきたぞ!・・うん。」





 慌ててデイダラが炎の刃になって返ってきた攻撃を避ける。もともと風は炎に弱いのが性質変化の常識である。そのため神の系譜の中でも飃の天敵は炎、まさにあの小柄な少女であると言えた。




、大丈夫か?」

「うん。まだまだ全然いけるよ。」




 男の気遣いに、少女は首を縦に振って答え、笑って見せる。

 写輪眼のうちはイタチと言うからには、あの男は写輪眼を、そしてあの少女の方が透先眼を持っているのだろうが、どちらもかし合っているのか、どちらも片目が緋、片目が水色だ。目という機能は慣れが大きく、実戦で使ってくるくらいだ。彼らはお互いの視界になれている。それ程に、二人には強い絆があるのだ。

 少女は化け物、男は人間であるにもかかわらず。




「トビ、おまえこいつを埋め込め。あいつらの足を止めねぇとな、…うん。」





 デイダラは大量の地雷粘土を生み出し、トビに言う。

 確かに、男も少女も速い。デイダラは特に近接戦闘が苦手だと言うことを考えれば、地雷で男たちの足を止めることは大いに意味があった。




「わかりました!」




 トビは大きすぎるかけ声と共に、敬礼をして土の中に潜る。




「おまえも巻き込まれねえように、どっか行け。」




 デイダラは飃を睨んで言うので、少し飃は考える。

 生半可な連携などある程度の忍になれば逆に失敗になりかねない。特にデイダラの爆発に巻き込まれるのははっきり言って、飃としても迷惑だった。傍観を決め込もうかと首を傾げていると、デイダラが先に動く。




「芸術は爆発だぁ!おまえらに俺の」

「うるさい。」





 冷えた声だった。酷く冷淡で、心底興味がないと分かる声だ。

 黒髪の男が刀を持ったまま一気にデイダラとの間合いを詰めてきた。デイダラは間一髪のところで後ろに飛びのき、そのまま自分が作り出した鳥の形をした爆発物で上へと飛び上がる。

 しかしそれを予想していたのだろう。

 少女の方がすぐにデイダラを攻撃し、暁のコートの一部を切り落とす。飃は風の刃を放って追撃を阻もうとしたが、彼女はそれも紙一重のところで避けた、その場所を、男の方の足が通り抜け、飃を後方へと蹴り飛ばす。




「ぐっ、」




 少女の体が死角になって全く見えていなかった不意打ちに、飃なすすべもなく後ろ向けに吹っ飛ばされた。飃はどうにか止まろうとしたが、勢いを殺しきれず、木にぶつかる。すると、その場所に術式が発動した。




「なに!?」




 対処する暇もなく、多重結界が展開する。

 飃はそれで今さらながら、これがデイダラを捕らえるための攻撃ではなく、自分を捕らえるためのものだったと知る。もともと男も、少女もこの場所へ飃を吹き飛ばすことに全力を注いでいたのだ。飃が多重結界を風の刃で叩くが、どうやら再生結界ではなく、炎のチャクラを付随させた、反響結界のようだった。

 要するに中の攻撃は中で反射する。

 外から破るのはたやすいだろうが、中から破ることはほぼ出来ないと言うことだ。また少女自身も神の系譜で莫大なチャクラを保持しているため、飃がチャクラを爆発させたところで問題無いほどの精度を持っているようだ。




「…」




 やられた、この一言につきる。飃は地中を掘ってみたが、地中にもきちんと結界が張られており破るのは壁面と同じく難しそうだった。




「デイダラ先輩!用意出来ました!!」




 トビが地中から出てきて、デイダラに言う。




「おっしゃ、トビ、巻き込まれねぇように下がっとけよ…うん!」




 デイダラは改めてトビにそう言って、自分の作り出した鳥で空へと上がる。今度は少女がデイダラの動きを止めにかかろうとしたが、男の方がそれを止め、目配せをする。どうやら彼らにも手があるらしい。

 飃は結界の中で、冷静に三人と化け物一匹の戦いを眺める。





「食らえ!」




 デイダラは空という安全な場所から、丸い爆弾を落とす。それを少女と男は次々と簡単な足取りで避けたが、次の瞬間に地雷を踏んだのか、少女は慌てた様子で別の場所に飛んだ。幸いそこには地雷はなかったらしい、少女は安堵した。




「見たか、俺の芸術!」




 デイダラは男を指さして高らかに宣言する。




「本当によくしゃべる暁だな。うるさい。」




 男は疎ましそうと言うよりは、もうそれを通り越して呆れたと言った表情で息を吐く。




「大丈夫か、。」

「うん。ちょっと失敗したよ。」

「気をつけろ。」





 男と少女の早さならば、上から飛んでくるデイダラの爆弾を避けることはたやすい。しかし、地雷に当たればアウトだ。地雷は見えないため、足場を考えなければならない。この周辺から離れるか、もしくはデイダラを落とすか。




「いけたか?」

「うん。もうちょっと離れてくると良いなぁ。巻き込まれたら嫌だし。」

「わかった。」




 男は頷いてから、印を結ぶ。




「風遁、風伯一式。」





 自分の身の丈はありそうな、円形の風刃だった。男はそれを軽くブーメランでも投げるように遠心力をつけて、デイダラへと投げつける。投げた瞬間、それは四つに分裂し、別々にデイダラを狙う。

 しかしデイダラも警戒していなかったわけではない。




「はっ、当たらねぇぞ!うん!!」




 デイダラは速い隼のような鳥へと乗り換え、風の刃から逃げる。形状から一枚の刃が二度攻撃してくる。それをデイダラは見事に避けて、得意げに眼下にいる男と少女を指さして高らかに宣言した。




「…馬鹿だな。」




 男は小さく呟いて、「あんなものか?」と少女に確認する。




「うん。あそこなら、巻き込まれないと思うんだ。」




 少女は満面の笑みで言って、印を結ぶ。




「多重結界・蒼二式。」




 途端、デイダラが乗っていた鳥を中心として、四角形の結界が出現する。




「何!?」




 閉じ込められたデイダラは目を丸くして逃れようとするが、もう遅い。





「喝、かなぁ。」




 デイダラのまねをして少女が言って見せた途端、結界の中で小さく何かが弾けた。

 それで気づく。先ほどの男と少女の攻撃の目的は二つだ。一つは飃を特定の場所に男が蹴り飛ばすこと。そして少女がデイダラに触れ、結界と、引火するための白炎の蝶を近くに気づかれぬように仕掛けることだ。

 鳥も所詮は起爆粘土であり、結界内で引火したため、酷い爆発が結界の中で起こり、真っ逆さまに結界ごと落ちていく。下は地雷だらけの地上だ。

 デイダラの鳥と結界が落ちた轟音の次の瞬間、共に地雷が盛大に爆発した。





爆発