デイダラは前にも戦ったこともあり、自身もデータを持っていた。イタチはそのの持つ映像をすべて見た上で、対策を立ててあった。
デイダラは所詮爆発物のみを大方の術とする。その性質から言って遠距離で戦うのが基本であり、近距離を苦手とする。また自分が安全な場所に立って爆弾を飛ばすことで相手を攻撃するというのはカカシからも聞いており、ならば飛ぶなりなんなりするだろうとあらかじめ予想していた。
「…元が手のうちばればれな術だからな。」
ましてや既に能力が分かっているのなら、イタチやでなくても、完璧な対策は立てることが出来る。彼一人ならばイタチとが二人揃ってわざわざ出てこなくても、少し能力を考えた小隊を組めば、どうにでもなっただろう。
イタチはちらりと残りの二人を見やる。
「結局爆死じゃないっすっかーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
あほのように叫んでいる仮面の男と、今は完全に結界の中に閉じ込められている飃の男だ。飃の男は仲間が助けない限り、の多重結界から出ることは出来ないだろう。
「トビうっせぇ!!!」
煙の中から出てきたのは、ぼろぼろの体のデイダラだった。
「えー、まだ生きてる…。」
「…しぶといな。」
は嫌そうな表情を隠しきれず、イタチもイタチで思わず額に手を当てる。
デイダラの乗っていた鳥や地雷の一つ一つの爆発力はそれ程ではなかったと言うことなのだろう。それでもあの爆発の中を生き残るとは厄介なものだ。
「芸術でもなんでも良いが、うるさい奴だな。」
イタチとしては正直、そのハイテンションについて行けないというのが本音だった。
「てめぇ!芸術を侮辱しやがって、」
デイダラはイタチに怒鳴るが、流石に温厚なも理不尽だと思った。
別にイタチにデイダラを馬鹿にする意図はない。ただ、元々うるさいのは苦手だし、イタチ自身が若々しいハイテンションも大嫌いだ。ましてやここは戦いの場で、常に冷静な分析が求められる。その中でぎゃーぎゃー無駄口を叩かれるのを、イタチは正直好んでいなかった。
ただ、それだけの話だ。
「どの辺が…芸術なんだろう。」
もよく分からないのか、首を傾げる。
一瞬見えたあの爆弾の形が芸術なのか、爆弾が芸術なのか、サソリからの洗脳なのか、比較的残るものが芸術だと思っているには、彼の芸術はさっぱり分からなかった。花火なども芸術かと言われれば芸術だとは思うが、ただの爆発になにも美的センスを感じない。
「、真剣に考えるな。どうでも良いことだ。」
「まぁ、そうなんだけど、ね。」
確かに至極どうでも良いことなのは事実なのだが、少し気になっただけだ。
「さて、今度はどうやって落とすか。」
飛んでいるデイダラを落とす方法をもイタチも沢山持っている。
二人ともどちらかというと遠距離忍術は得意な方だ。特には十八番である。イタチが知っている単純な手だけで軽く二桁は思いつくほどだ。手の内を見せないのが基本であるため、先ほどはあぁいう回りくどい方法を使ったが、早くデイダラをやってしまうに越したことはないだろう。
の白紅に打ち落とさせるか、との白炎の蝶をちらりとイタチが見た時、デイダラが白い物体を食べ出した。
「カルラぁ!!」
声と共に、白いものを口から吐き出し、巨大で丸いフォームのデイダラを作り出した。
「な、なに、あれ?」
はどうしたら良いのか分からず、戸惑いと共にイタチを見る。
爆発物を操るデイダラの形態からして、あれが爆発するならば、今から走って逃げられる可能性は低い。道理で巻き込まれない場所に仮面の男が逃げたわけだ。チャクラの流れを写輪眼で見る限り、チャクラが中に練り込まれていることからも、間違いなく爆発物だ。
「、うえ・・」
「喝!」
イタチが言い終わる前にデイダラの声が響き、巨大デイダラが弾ける。
爆発と言うべき爆発は何も起こらなかったが、イタチの指示は遅く、何故かなんの傷も受けていないというのに、ちりぢりに砕けていく。どうやら目に見えないほど小さな爆弾だからだの中に入り込んで、体を中から壊すという術だったようだ。
「おっしゃーー!!見たか!俺の芸術!…うん。」
デイダラは小さな塵となって砕けたとイタチを見て、満足げに手を振り上げる。だが、次の瞬間、デイダラが乗っている鳥を閃光が撃ち抜いた。
「何!?」
それが前にが放っていたビーム上の閃光と同じだと気づいたデイダラは戸惑いに呆然とする。
「馬鹿め。」
低い声が響き、鳥に乗り込んできたイタチがデイダラの腕に巨大な手裏剣を突き刺し、紐とともに鳥にデイダラを固定すると、離脱した。後は慣性の法則に従ってデイダラは落下するしかない。イタチはも乗っている鳳凰の背中へと乗り移り、上空で待機する。
デイダラが落ちていく。しかし今度はただ地面に落ちていくだけではない。の白炎も一緒で、地面に激突した途端に爆発と共に、白炎が燃え上がり、デイダラを包み込む。
「今度こそ、終わりだな。」
イタチは冷たくデイダラを見下ろして言った。
とイタチがちりぢりになって砕ける映像は、偽物だ。
写輪眼で作り出した幻術である。イタチの写輪眼はチャクラを色で見分けるため、実は地中の地雷はすべて見えていた。が間違えて踏んだのは驚いたが、おそらく別のことに気をとられて失敗しただけだ。しかし、おかげでデイダラはイタチたちが地雷をすべて見えているとは感づかなかったらしい。
また、最期まで爆発に対しても対処法がないと思っていたようだ。しかし、色をチャクラで把握する限り、カルラの迫ってくる爆弾は色として見えていたし、性質から考えてデイダラは巻き込まれない安全な場所に常にいる。
ある意味でデイダラと同じ場所にいるのが一番安全だと言うことだ。
だからイタチは自分に封じられているのチャクラを使って小さな鳳凰を作りだし、上空に上がった。は遠距離攻撃が得意だが、それ故に上空に上がる必要が今までなかった。口寄せは得意だが、の契約しているのは生憎犬神で飛行能力は無い。だから鳳凰を使った。
「びっくりした。間に合わないかと思ったよ。」
は小さく息を吐く。
流石にカルラを見た時、も心臓が凍る思いがした。あれが単純に爆発すれば、に防ぐ術はなさそうだったからだ。ましてや小さな爆弾となって細胞レベルから破壊されるとなると、物理的な盾などは無意味。
には咄嗟に浮かぶ手が全くなかったため、絶望的だった。とはいえいざとなればおそらく、自動防御の白炎が周囲を一掃しただろう。
「それに、結界を張って耐えるという方法もあった。」
要するに空気を吸わなければ良いと言うことで、周囲ごと結界を張って爆発が終わるのを待つという手がある。の結界ならばチャクラを一切通さないものも十分に作りさせるだろう。
「そ、っか。」
手持ちの中で使えるものをいかにして思い出せるかが勝負の鍵だ。
は今、カルラの特別な力にばかり目がいってしまい、防げないと思い込んでしまったのだ。それは自分の限界を自分で決めてしまうことになりかねない。簡単なことにも気づけなかったは、まだまだ経験不足だ。
「気にするな。俺にももう一つ手があったしな。」
イタチはの背中を強く撫でて安心させる。
経験が足りないのはまだ実戦を重ねていないことを考えれば仕方がない。これから慣れてこれば考えられるようにもなるだろうし、今回指示を出すのはイタチだ。は独断で勝手な判断をすることは少なく、の経験不足を補うことはそれ程難しいことではない。
少なくとも戦いが始まってからのはイタチの意図を良く読み取り、あうんの呼吸で動いている。
イタチとしてもと組むには不安要素がいくつかあったが、今のところそれを感じさせないほど、は良くやっている。
イタチはの背中を元気づけるように撫でて、眼下に残る二人を見やった。
一憂