「あれは、連携に慣れてるな。」





 トビは冷静な目でイタチとを見る。 

 トビの予想ではは能力的に実力不足で、イタチの足を引っ張るだろうと思っていた。彼女は強いが前回の見た限りでは近接戦闘に大きな難点があるように見えたため、イタチの動きについてフォローできないだろうと思っていたが、それは見せかけだったようだ。

 戦いの本質も非常に分かっており、イタチの指示も忠実に守っている。





「デイダラでは、全く駄目だな。」




 イタチとの能力をほとんど解明することなく死んだと言っても良い。

 分かったのはイタチとはうちは、蒼一族それぞれの忍術、血継限界を問題無く会得、使用していると言うこと、基礎能力が非常に高い、それだけだ。彼らはそれ以上に特殊な術を未だに使っていないし、トビとしてもここまで手を隠しながら戦う術を持っているとは驚きだった。

 特にイタチの方は血継限界だよりの戦略を全く組んでいない。彼の戦闘スタイルは分析の元に成り立っており、自身もイタチの方針に合わせて策を練る賢さがある。

 才能だけの忍では無いと言うことだ。




「形勢逆転、だな。」




 イタチは持っていた刀をもう一度構え、トビへと向ける。

 飃はすでにの張っている結界の中で、自力で抜け出すことは出来ない。少なくともこれで2対2。事実上は2対1だ。しかしイタチ自身トビに先ほどの攻撃をすり抜けられたこともあり、攻撃の仕方を決めかねているようだ。

 刀を構えてはいるが、刀で襲ってくる気がないことは間違いない。





「道理迎撃に出てきたわけだ!」




 トビは木の上から飛び降り、イタチとを改めて見る。

 3代目火影の息子、猿飛アスマを殺した角都、飛段も同じように木の葉に向かっている。そちらの迎撃に出ているのはおそらく、はたけカカシだろう。デイダラはともかく、トビと飃の情報は流石に木の葉の里も持っていない。だからこそ、手数が多く連携にも慣れているイタチとを出してきたのだ。しかしの年齢や経験を考えればある程度無茶をしていることは間違いない。

 要するに防衛を視野に入れるなら、以外にイタチと組ませるほどの実力者がいなかったと言うことだ。





「うちは一族の嫡男、うちはイタチ。蒼一族の最終血統にして、炎一族の東宮蒼。」





 改めてトビは目の前にいる二人を眺める。




「ボクとお話ししません?」

「俺たちはおまえと話すことなど何もない。」

「そう言わないでくださいよ。別に時間あるでしょ。」




 邪魔になるため、援護部隊も絶対に来ないだろうし、イタチとの任務はトビたち暁の撃退だ。トビは小さく息を吐き、ちらりと飃の様子を確認する。やはり一人で結界から出ることは出来ないようで、トビの方をじっと見ている。




「話など必要ない。俺たちはおまえらを許すことはない。」




 イタチとがそう言うと同時に、身をかがめる。

 イタチの背後のトビの死角で大量に作られていた白炎の蝶と白い球体の一つ一つが閃光を放ち、すべてトビへと向かう。それを、不可能とも思われるスピードで見切り、トビは綺麗にすべて避けた。




「まったく、人の話ぐらいききましょーよ。」

「イタチ、どうする?」

「…仕方ない。」





 天照か、白炎か、イタチはをちらりと見ると、は小さく頷いた。

 男はイタチの攻撃は避けずにやりすごした。その時イタチの火遁は全く通じていなかった上、前の戦いでも同じだった。物理攻撃は通じない。にもかかわらず、の攻撃を避けて見せた。の攻撃はチャクラそのものを燃やす白炎を元に作られている。

 要するに彼が物理攻撃をすり抜けているそれは、チャクラを使った何らかの術と言うことになる。

 イタチの万華鏡写輪眼は片目が天照の炎自体を作りだし、片目が天照の炎を形態変化させるために存在する。片目を今が使っている状態では完全とは言えないため、一度から写輪眼を引き上げるのが原則だ。だが、イタチの負担も大きい。

 白炎ならばその心配はないし、のチャクラがつきない限りいくらでも出せる上に、負担もない。

 ただの白炎にも欠点があり、蝶という媒介の形質上ビーム上の攻撃以外は鱗粉を降らし、弾けさせて白炎を展開するまでに時間がかかる。イタチが持っているの鳳凰ならば高速で羽を飛ばすことも、一瞬にしてあの男を焼き出すことも可能だが、手術を終えたばかりのイタチには万華鏡写輪眼と共に負担が大きい。




「俺が、やる、か。」




 イタチはに目配せをして、指示を出す。




、おまえはそっちの男の確保に全力を注げ、」




 斎は殺しても構わないと言っていたが、生きているにこしたことはない。透先眼で情報を有利に読み取るためには、やはり生きていた方が読み取りやすいのだ。また、飃の男の兄である榊が木の葉にいることを考えれば説得だって可能かも知れない。




 ―――――――――――― 殺しても構わん、だが、顔だけは見たい。




 榊はそう言っていた。ならば、連れ帰るとするならば、飃だろう。





「わかったよ。」





 は飃の周りの結界を強化すると同時に、自分の周囲にも結界を張る。

 結界と盾は蒼一族の十八番である。にとってイタチとトビの戦いの余波を防ぐぐらいはなんてことはない。




「行くか。」




 イタチが今使えるのはただの写輪眼とそして自分が今まで培ってきた術だけだ。万華鏡写輪眼やの鳳凰は今のイタチにとって体の負担が大きすぎる。だが、既にが手はずを整えている。自分たちは、ただ歩いたことはない。




「悪くはない。」




 イタチの片目は今、の透先眼だ。

 透先眼はいくつもの術を片目でも起動可能だ。もちろん一定の制限はかかるが、それでもが自分の周囲1キロ圏内にいる限りは、自分の目と変わらず使うことが出来る。そういう点でも、が側から離れては困るので、結界で榊の守りに入ってもらうのには意味があった。

 結界の中にいても、は白炎を操ることが出来る。




「さて、行くか。」





 イタチはチャクラ刀を構え、トビへと肉薄する。イタチの刃は間違えなくトビの体を捉え、切り裂いたはずだが、やはりなんの手応えもない。

 トビは何をしているのかと首を傾げる。

 イタチとの動きから、二人は無駄なことは全くと言って良いほどしないタイプだ。先ほどデイダラを倒した時も、最初から最後まで罠を完璧に張ってきていた。


 トビは考えながら、一歩後ろに下がった途端、銀色の鱗粉が光る。





「捕らえた…」






 抑揚の欠けた、テンションの低い声が響く。





「そういうことか!」




 トビが初めてあの高い声ではなく、低い声で驚き、逃れようとする。だが、既に遅い。トビの左足には気づかぬうちに白炎の蝶の鱗粉がついていた。トビの足下には白炎の蝶で描かれた鱗粉が術式を描いている。

 はデイダラの援護のためにトビがの背後からけりを入れた時、それをは背中を反らせ、反転してトビの足に手をついて後ろに飛んだ。そんなリスクの高いことをしなくてもの透先眼は後ろからのトビの蹴りを見切っていたはずだ。

 それをしたのは、自分の白炎の鱗粉をトビの足につけてマークするためだったのだ。




「もう遅い。」




 イタチが感情のない声で、トビに言う。




「白炎・紅蓮1式」




 が結界の中で印を組む。それと同時に結界がトビを包みこんだ。結界の中では白炎がトビのチャクラを無効化し、そしてその高温の炎で中のものを焼き尽くす。チャクラなしに炎をどうにかすると同時に、結界を壊すことを求められる。

 結界の中を白炎が包み込むのを見て、は小さく息を吐いた。

終点