『は、ばけものなの? 』
幼い頃、父に尋ねたことがある。
のことを化け物だと言ったのは、たまたま炎一族邸に来ていたうちは一族の男たちだった。彼らは写輪眼でチャクラの色を見抜く。のチャクラは透明であるため彼らの力では見抜けないが、それでも背景が歪むほどの莫大なチャクラを持っていたため、彼らが自分のことを恐れていると知ったのは、後のことだ。
『が?あはは、ばっかだね。』
斎はとそっくりの顔をふにゃっと歪めて笑って、の鼻を引っ張る。
『ちがうの?』
は引っ張られて少し痛む鼻をさすりながら首を傾げる。
『違うよ。は僕と雪の愛が作った大切な大切なものだよ。』
斎はを引き寄せ、抱きしめる。
は幼い頃から外に出たことはなかった。病弱でほとんど屋敷の中で過ごしていたため、ほとんど関わるのは心得た大人ばかりで、に面と向かって化け物だと言う人間は誰もいなかった。自分の力が恐ろしいものだと言うことも、よく分からなかった。
そしては、幼い頃から化け物なんて言われても信じないほど、親や一族からの愛情に包まれていた。
『大好きだよ。。』
斎は外ではサボり癖がある、破天荒な人だったが、にとってはただ娘に甘い、愛情深い父親だった。不安な時は抱きしめてくれて、一緒に眠ってくれる。母も同じで、忙しい人ではあったけれど、いつも優しい人だった。愛情を与えてくれた。
斎は優しく笑って、こつんと小さなの額に自分のそれを合わせる。
そっくりな紺色の顔は自分より少し精悍だけれど、目の前にあって、心から楽しそうに笑っている。それには笑い返した。
『もだいすき、』
も体は弱くて、出来ることは少なかったけれど、沢山の愛情を両親に返したいと思った。化け物だと言う言葉などどうだって良いほどに、自分の子ども時代は、愛だけに満たされていた。それは今も変わっていない。
自分の体は両親の愛情によって作られたもの。
『嬉しいなぁ。』
斎は楽しそうに笑って、をまた抱きしめる。くすぐったかったがは斎の肩に頬を押しつける。は両親からの温もりをいつも得られる場所にいて、任務に出て行く両親に置いて行かれるのは寂しかったが、夜になり、寂しくて泣けば必ず両親は疲れていてもをあやしてくれた。抱きしめてくれた。与えられる愛情を、一度も疑ったことはなかった。
父がいて、母がいて、当たり前のように一族があって。皆が自分に愛情を注いでくれる。
それが当たり前でないことを知ったのは、アカデミーに入って同級生の両親を見たからだった。戦死している人もいる、そもそも両親すら知らない子どももいる。愛情を得られなかった子どもも、他人行儀な親もいる。
その中でただ愛情を向けてくれる自分の両親が、どれだけ恵まれたものなのかを知った。
「、どうした?」
イタチは家へと帰る途中、黙り込んでいて静かなに尋ねる。
「いや、あの人、寂しかったんだろうなって。」
町に人が行き交う、一楽の前の通りを歩きながら、は答えた。
とイタチが捕らえた、自分を化け物という、暁の神の系譜・飃の男。
彼はきっと兄である榊と離れる前も、離れた後もきっと酷く孤独だっただろう。両親もいない、周りはみな自分を利用しようとする敵だらけの中で、名も与えられず、ただただ耐える。世界を憎み、人を憎むにはあまりに足りる境遇だ。
「わたしたちは、なんなんだろう。」
それはだけでなく炎一族の宗主が常に思い続けた疑問だろう。
尾獣並みの莫大なチャクラ、そしてそれぞれが優れたそれぞれの性質に関する血継限界を保有し、少数の直系の人間がそれを継承する。驚くほどに強い力は時に争いを生み、時には国すらも奪ってきた。神の系譜同士ですらも、時には戦いの中にあった。
炎一族のように、こうして里と交わり、ともにある一族は、他にない。
力だけを持ち、里にも国にも属さない神の系譜が、暁にいるのは確かに全くおかしいことではなかった。彼らは常に争いに巻き込まれ、国からの庇護も受けられず、苦しんできた。現状に不満があっても何もおかしくはない。
「俺は、案外おまえたちの成り立ちが好きだがな。」
イタチはを振り返り、ふっと笑う。
不知火という実在の現在の商業都市の高台に住んでいた鳳凰がいた。白炎を操り、チャクラを焼く鳳凰は六道仙人の時代からそこに住んで、戦乱の世で逃げ惑う人々を自分の庇護する村に招き、暮らさせていたという。
そしてある時、戦乱から逃れ、そこにやってきたひとりの少女を妻にし、子どもをなした。
鳳凰は不知火と自らの子どもを守り続けていたが、自分の長い寿命を終えるその時、子孫たちにチャクラを残すと同時に、常に自分が共にあり、自分が子どもたちを永遠に守り続けると約束し、己の力でもあった白炎を与えたのだという。そしてその子どもたちが炎一族の宗家となり、一族を、そして今現在の商業都市、不知火を作り出したと言われている。
「それのどこが好きなの?」
「それだけ、子どもたちを愛していたと言うことだろ?」
イタチは自分の肩にも乗っている白炎の蝶を眺め、笑う。
「白炎は危なくなればおまえを自動で守ろうとする。それこそきっと、鳳凰の心根だったんだろう。」
白炎は主が殺されそうになると自動的にその炎で主を守ろうとし、敵を攻撃する。
彼は死んでも死にきれないほどに、子供を愛していたからこそ、白炎を子どもたちに授けたのだ。彼は死んでも子どもたちを守る炎として、子どもの元に残ろうとした。その子どもを守りたいという自分の意志と共に。
「おまえのそれは、愛情の塊だよ。」
イタチは笑っての手を握る。
確かにその力は化け物のように強いのかも知れない。チャクラを操る忍にとっては何よりも恐ろしい存在だ。でもそれは、の先祖が子どもを守りたいがために与えた力なのだと思えば、イタチはその力が恐ろしいとは思わない。
イタチも自分が命つきるとしても、子どもや自分の大切なものを守り続けたいと思うだろう
鳳凰はそれを形にする力を持っていたからこそ、今のや炎一族が存在する。その力は子どもたちへの愛情の印なのだ。
「雪さんも、斎先生もをめいっぱい愛してるだろ?」
「うん。」
はイタチに満面の笑みを返す。
それまでの炎一族の宗家がどうだったのかは知らないが、の両親はを心から愛してくれているし、その愛情をが疑ったことはない。
「わたしは父上と母上の愛のかたちなんだって昔言ってた。」
「確かに、斎先生はを溺愛してるしな。疑えないだろ。」
「ね。」
自他共に認めるほどに、斎は娘のに甘い。誰もが知っていることで、誰も疑わない。元々子どもを諦めていたという彼にとって、偶然とは言え出来た娘は心からかけがえのない存在なのだ。
「あの人、どうするのかな…。」
は目を伏せて、イタチの手を握り返す。
同じ神の系譜である薄緑の髪の男。おそらく年齢はイタチとそれ程変わらない。しかし彼は自分のルーツも、名もない。ただ彼の周りにいたのは兄であった榊と、それを奪い、自分を傷つけた周りの人間だけだった。
「どうだろうな。榊と話して気が変わってくれれば良いが。」
彼が協力しているのならば、暁の情報を得るのはたやすい。ましてや彼は暁に所属しているのだ。
だが、協力してくれないならば、斎も彼の過去を見なければならないだろうし、尋問部隊もへたをすれば機会があるかも知れない。逃げる可能性もあるので外に結界も貼っているし警戒はしているが、大丈夫だろうとは思うが、厄介になるのは間違いない。
「逃がしたかも知れないって言ってた方の、仮面の男。奴の対策を立てないとな。」
ひとまず、当座イタチが出来るのは体を休めることと、対策を立てるくらいしかない。
「そうだね。でも、アスマさんの敵も討てたらしいから、わたしはシカマルとナルトに会いたいかな。」
アスマが亡くなった時、も傍にいた。
だからやりきれない気持ちは、もちろんシカマルたちの方が強いのは間違いないだろうが、同じだ。シカマルが悲願を果たしたことも、は自分のことのように嬉しく思う。
「そうか。確かに、ナルトなら怪我はしたが戻ってきているらしいしな。」
次の任務が入る前に、会っても良いだろうと、イタチも小さく頷いた。
愛情