がイタチの快気祝いが買いたいと言い出したのは、アスマの一件が終わった一週間後のことだった。
「イタチの兄ちゃんがまさか結核なんて、びっくりしたってばよ。」
2年半も里に帰っていなかったナルトは、最初信じられなかった。
は確かに元々体が弱いが、イタチは比較的体が強く、サスケからも兄が風邪を引いたなんて話は全く聞いたことが無かった。なのに、ナルトが里に帰ったとき彼は結核で肋骨を切り取り、再生手術の前だったため、絶対安静だった。
ナルトからするとイタチはサスケの兄だと言うだけではなく非常に強い人だという印象があったので、その彼が病なんて言われた時は驚いたものだった。これがなら納得出来るのだが。
「イタチさんと同じ年頃の人たちは、小さい頃、大戦のまっただ中で予防注射を受けてなかったのよ。なくなった人までいるんだから。」
里にいなかったナルトは知らないのだろうが、医療忍者としてその一件に関わったサクラはため息をつく。
最初に暗部でイタチの部下だった女性が吐血して倒れたのだ。
すぐに結核だと分かったが彼女は既に手遅れで、伝染病の結核が発覚したことで暗部だけではなく一般人を含め、里のすべての人間がツベルクリン反応という結核の抗体を持っているのかの検査を行うことになった。
結果は羅漢者が20人程度、重篤者がイタチを含め8人、また4人亡くなった。
本来ツベルクリン反応と判子注射は里の全員が幼い頃に義務づけられているため、全員が結核の抗体を持っているはずだった。しかし里で記録を確認したところ、ちょうど現在19歳から22歳くらいまでの年代は幼い頃にちょうど大戦中で、ツベルクリン反応を受けていないことが発覚したのだ。
ある意味で戦争の犠牲者とも言える。
「イタチは幸い肋骨も元に戻ったし、もう大丈夫だけど、亡くなった人がいるのは悲しいね。」
は目じりを下げた。
今回の結核騒ぎで、4人が亡くなっている。イタチの部下だった女性もそのなくなった人のひとりだ。数年前に恋人のハヤテが亡くなってから随分気を落としていたが、腕の良い人だった。も何度かあったことがあり、葬儀にも出席した。
「そういえば、最初に吐血したのは、イタチさんの隊の人だったって僕も聞いたよ。」
サイも一応所属は違っても同じ暗部であるため、聞いていた。また亡くなった四人のうち3人は、“根”の所属だった。
“根”はダンゾウ監視の部隊であり、簡単な話健康診断などもきちんと受けてはいなかったし、結核が判明してからもやはり健康診断は特殊な身体能力が割れる可能性があり、火影命令が出てからもかなり抵抗した。
ちなみに同じ暗部でも“樹”はあっさりとしたもので、面倒臭いと検査を免れようとしたものは斎命令で即任務停止にされたため、全員すぐに健康診断を受け、羅漢者も判明した。
「そうだね。みんな無理してるから、暗部の人は。サイも気をつけてね。」
「え、うん。」
サイはの心からの心配に少し戸惑ったような表情をしたが、押されたように頷いた。
「イタチの兄ちゃん。結構仕事人間だもんな。」
「うん。そうなんだよね…まぁ、父上がうまく仕事振らないようにしてるみたいだけど、みつけてやっちゃうって言ってたよ。」
「っていうか、斎さん、もう少し働かないと。」
「斎様って、サボり癖で有名だよね。」
「やっぱり、暗部でもそうなんだ…。」
が自分の父親のことに少ししょんぼりとする。
もちろんだって認識はあったが、暗部の中でも言ってしまえば違う所属のサイまで知っていると言うことは、有名なのだろう。少し恥ずかしいと言うのが本音である。
「ちょっとサイ、」
「え、いや、ご、ごめん。」
サクラがの様子を見てサイにすごんだので、慌ててサイは謝るしかない。
「でも、斎さん、今里で一番強いって言われてるしな。俺も模擬戦の許可ほしいって言ったら、許可してくれるかな…。」
ナルトは前を見据えてぽつりと零すように言う。
「え、ナルトも父上と戦いたいの?」
「いや、ってか、本気で修行、見てもらいたいなって。」
斎の戦い方が特殊であると言うことは、自来也から聞いている。
今までに教えてきた忍の中で、生まれ持った才能だけを加味するならば彼以上の人間はいないと言っていた。滑らかで無駄のない体術、写輪眼を用いずにチャクラの量を正確に見抜き、1から10まで一片の狂いもなく計算し尽くした整った罠を張る頭脳。
あのイタチですら“パーフェクト”と称する計算し尽くされた斎の戦い方は、まさにナルトとは対極にあるという。
何度か術などは見てもらったことがあるが、本気で模擬戦などをしたことはない。
「でも、父上、強いよ…。」
ここ数年父親にも修行をつけてもらっていたは父親の実力を恐ろしいほどによく知っている。いつも優しく娘にべた甘の父親しか知らなかっただったが、今では彼が火影候補にされるだけの理由が痛いほどに分かる。
彼は半端なく強い。
「知ってるってばよ、エロ仙人も俺が逆立ちしたって勝てないタイプだって言ってた。」
ナルトも苦手なタイプであると言う自覚はあるらしい。
「どんな戦い方、すんのかなって。」
ナルトは今まで斎が本気で戦ったところを見たことがないし、任務で一緒になったこともない。彼が今里で最高の忍であり、有事の際は防衛のためにも里にいることが求められているため、ほとんど里を出ることはないので、これからも任務で一緒になることはないだろう。
だが、ナルトは自分とは違うと言われるからこそ、斎の戦いを見てみたかった。
「私さぁ、去年、と一緒に修行、つけてもらったことあるのよね。」
サクラは苦虫をかみつぶしたような渋い顔で、口を開く。
「全然駄目だって言うか、」
「手のひらで踊ってる、感じだったよね。」
もちらりとサクラを窺いながら、小さく息を吐いた。
去年、とサクラは初めて二人で斎に本気で挑んだ。ちょうどイタチと斎が模擬戦をする少し前だったかも知れない。お互いにかなり強くなっていたし、も上忍に昇進が決まって結構のりのりだったし、二人でなら一発ぐらい当てられるのではないかと思ったが、浅はかだったと思い知らされる結果になった。
正直、1から10まで斎の思い通りに動かされていた気がする。
とサクラがどう考え、どちらに飛ぶか、どの術を使うかすらも見抜かれていたような気すらした程に、圧倒的な力の差だった。
あの斎を相手に互角に戦うイタチが信じられない。
「斎様って結構破天荒なイメージがあるけど、戦い方は正反対に計算し尽くされてるって、聞いたことがある。」
サイも噂ではもちろん斎のことを聞いている。
木の葉の忍の中には斎を神のように崇めている人間もいるが、その原因がすばらしいその戦闘センスと、完璧な動き、そして計算し尽くされた戦術だ。彼の日頃のだらしなさや破天荒な行動からは予想も出来ない。
「父上、変だもんね。ちょっと。」
「うん。ダンゾウ様をはめた時も、誰も斎様だって思わなかったらしいね。最初。」
「日頃の斎さん見てっと、あくどい策略ではめる感じには見えねーもんな。」
むしろ穴があったら罠が分かっていても入ってみたい、紐があったら引っ張ってみるタイプである。ただ、確かに言われて見れば、罠を張って楽しそうに上から見ている姿も想像できなくはない。
ただその姿がいつもの人の良い彼からはなかなかぴんと来ないだけで。
「よねぇ。なーんか、娘にべたぼれのわがままなお兄さんって感じなのに。」
日頃の斎からは殺気なんて全く感じないし、むしろ彼が忍でなく、その辺の保育園のお兄さんだと言われた方が信じられるくらいである。
「僕も実は、最近どうしてこの人なんだろうって、思うんだよね。」
サイの上司であるダンゾウは鮮烈に斎のことを嫌っている。
確かに彼は見抜く力に優れており、非常に鋭い人だ。しかし最近彼を観察する限り、非常にだらしなく、イタチに書類をしろと追い回されている。なつっこくて、子どもっぽくて、彼が今の暗部の最高権力者とは誰も思わないだろう。威厳なんて言葉はどこにもない。
「…イタチの兄ちゃんの方がまだなんかわかるよなぁ」
ナルトもサイの言葉に苦笑する。
暗部という恐ろしい場所の執務室でお菓子で口をいっぱいにしている斎を思い出しながら、も噴き出してしまった。
強者