サスケが大蛇丸の元を抜けたという連絡をが受けたのは、シカマル、サクラ、ナルト、そしてのフォーマンセルで機密の巻物を国境近くで受け渡すという任務を行った帰りだった。

 何故分かったかというと、サスケがある小隊を襲撃したからだった。





「炎の班が全滅…。」






 鷹にくくりつけられていた手紙を見て、は眉を寄せる。

 里を抜けたうちは一族を捕獲するために編成されていた炎一族の2小隊が全滅したらしい。全員が酷い怪我らしい。炎一族の数代前の宗主の血筋に連なる揺月宮家の息子で、暗部の所属だった疾風だ。

 どうやらサスケに襲われたらしく、しかも彼は仲間を別に3人連れているのだという。

 疾風は若くして暗部に引き抜かれたほどの才能の持ち主で、蒼炎自体の能力も面白く、宮家の中でもかなり頼りにされている。




「そっか。」




 は手紙をすぐに自分の白炎の蝶で燃やした。

 サスケが大蛇丸の元を出奔したということは、大蛇丸を倒したのか、もしくは逃げ出したと言うことだろう。これはサスケを取り戻したいと願っているナルト達にとっては朗報である。流石に音の里におり、大蛇丸付きのサスケは探すことも難しい。

 しかし、大蛇丸の元を出奔したのならば、話は別だ。





「綱手先生から連絡だけど、どうしようか。」





 たちは既に任務を終えているため、未だ火の国と不知火の国境近くにいるが、この後どうするかは個人の自由だ。綱手はにナルトが勝手な行動をしないようにできる限り目を離すなと言われていたが、行動を拘束されてはいない。





「おっしゃ!サスケを追うってばよ!!」





 ナルトは岩の上に座っていたが、立ち上がって手を振り上げて見せる。

 彼はどうやらサスケを追いかける気満々のようだが、正直そんな簡単な問題では無いと言うことを、はよく分かっていた。既に炎一族が襲われてから丸一日以上は立っているし、痕跡を探すのは簡単ではない。ましてや上忍とは言えは同期である。経験不足も否めない。

 もともと機密の巻物を国境近くで相手に受け渡すという任務のために組まれた班であり、戦闘になった時のことは考えてはあるが、バランスも決して良くない。ましてやサスケを相手にするとなると荷が重かった。

 隣に座っていたサクラ、シカマルは少し頭痛がしたらしく、困ったような顔をしている。





「ただ、どうやって捜索するか、だろ。」





 シカマルは冷静にに言って、ざっとこの辺りの地図を広げた。





「襲われたのは昨日ってことだから、そう遠くまでは行ってないと思うけど。」




 綱手からの手紙を思い出しても地図を同じように並んで見つめる。

 ここは火の国と商業都市不知火近くの丘陵地帯で、炎の班が襲われたのは近くの山の中になる。透先眼で視る限り、数日前の戦いの痕は既にない。また、おそらくサスケが痕跡を残していると言うことはないだろうから、探すのは非常に難しいだろう





「…サスケは単独なのか?」




 シカマルは冷静にに状況を確認する。は首を横に振った。




「3人、仲間がいるみたい。要するに相手もフォーマンセルってことだよ。」





 生き残った班員の話では、サスケは一人ではなかったと言う。

 本来炎一族はほどでないにしろ、チャクラを焼く炎を持っている。サスケ一人ならば何とか自分の身を守ることは出来ただろう。しかしながら、仲間がいるならば非常に厳しかったはずだ。また、そのサスケの仲間の実力もあったかも知れない。

 サスケを捕獲するのは、簡単ではないだろう。それは綱手も分かっており、増援としてサイ、カカシなどを入れた班を向かわせると言っていた。なんと言ってもサスケは写輪眼の使い手であり、生半可な編成の班では炎の2小隊と同じ道を歩む羽目になるだろう。





「ならなおさら、一度里に戻って班の編制を組み直した方が良いんじゃ無いか?」




 前回、サイ、、ナルト、サクラ、そして新たな隊長であるヤマト共にサスケ奪還任務に向かい、ナルト達が失敗したという話をシカマルと聞いている。今はシカマルをくわえているとは言え前回よりも人数が少ない。

 経験豊富な上忍もいない状態でサスケを相手にするのは、シカマルには危険にすら思えた。





「なんでだってばよ!もたもたしてたら、サスケに逃げられちまう。」





 焦っているナルトは、シカマルの言葉に首を振る。

 ナルトにとっては再び訪れたチャンスなのだろうが、シカマルはそう簡単な物では無いのでは無いかと危惧していた。またサスケが大蛇丸の所を出て炎一族の班を襲ったのには、必ず意図がある。




「サスケは何を目的に炎の班を襲ったんだ?」





 シカマルはちらりとを見る。





「イタチを探してるんじゃ、ないかな。」





 は大きなため息をつくしかなかった。

 うちは一族の反逆を密告したのはイタチだ。うちは一族の反逆がイタチの密告がなければ成功したかどうかは知らないが、どちらにしてもうちは一族であるサスケにとってイタチは裏切り者だ。と師のために、一族を売った。そう思っているのだろう。

 激しい憎しみは、イタチに向いている。





「ただ、イタチさんは基本的に里から出てこないでしょ。師匠、心配してたから。」




 サクラもイタチが手術明けだと言うことを承知している。また綱手は医療忍者であり、イタチの術後を非常に心配していた。この間暁からの襲撃故にどうしても迎撃に出てもらっていたが、そういった有事にならない限り、綱手は絶対にイタチを里の外に出そうとしないだろう。

 もちろん、炎一族の者が襲われた限り、綱手は“有事”と判断してイタチを向かわせるかも知れないが。





「イタチが気づく前に、早く捕獲しないと。」




 はそう言って透先眼を開く。水色の瞳が周辺50キロ圏内に手がかりがないかを急いで探す。




「確かにな。冷静なイタチさんでも、サスケのことになるとわかんねぇからな。面倒くせぇな。」





 シカマルもに同意して、立ち上がった。





「おまえも危ないんじゃないのか?」

「え?そうかな?」





 シカマルの問いには小首を傾げる。

 サスケがイタチを苦しめることを考えるなら間違いなく、を捕らえるか、最悪殺しにかかるだろう。自分が傷つけられるよりも、イタチはおそらくが傷つくことを何よりも恐れているはずだ。

 また、実力的にもはイタチに劣る。おそらく現在里有数の忍であるイタチを狙うよりも、を狙う方が効率的だろう。




「ま、なるようになるよ。それにわたしは、サスケを取り戻したいし。」




 はそう言って、小さく笑う。

 紺色の瞳はまっすぐと前だけを向いていたが、それにシカマルは少し違和感を覚えた。そこに存在する覚悟が、酷く頼りなく、それでいて確固としたものに見えたからだ。





、おまえはどうする気だ。」





 今回の隊長はである。決定権はにあるのだ。シカマルはを見上げる。






「…うーん、どっちでも良いよ。判断はそれぞれに任すことにする。」






 はいつもと変わらない紺色の髪をふわりと揺らして遠くを見つめ、言う。

 既に任務は終わっているので、この後どうするかはの采配ではなく、個人の自由だ。危険を顧みずサスケを追うというならば、それもそれ。綱手はもちろんこのまま帰ってくることを望んでいるだろうが、ナルトが納得しないことを綱手も承知だろう。

 だから、自由にすれば良い。




「おまえは、どうする?」





 シカマルはの帯がひらひら揺れるのを見ながら、問うた。





「ん?追うけど、」





 は皆を振り返りもせずにそういう。

 さらさらとまっすぐの紺色の髪が帯と共にの背中で揺れていて、シカマルは不安な思いで眺めた。





「当たり前だろ!」





 ナルトもの言葉に賛同する。せっかくのチャンスを不意にしたくないというナルトの気持ちはシカマルだって理解しているつもりだ。

 しかしそれよりも、シカマルはの方が気になった。





「行くんだな?」

「うん。行くよ。」





 はもう一度確認するシカマルに、なんでも無いことのように言う。

 彼女の目は前を見ていて、いつになくまっすぐで、覚悟を決めている。もしかすると彼女はサスケを傷つけて、半殺しにして取り戻すことすらも容認しているのかも知れない。だが、ナルトとサクラは少なくともサスケを傷つけることに踏ん切りがつかないだろう。

 そんなナルトとサクラ、そしての間にある溝に、シカマルは気づいていた。


狭間