には基本的に写輪眼の能力はきかない。チャクラを無効化するの白炎にかかれば、術の効果は一瞬しか持たず瓦解する。

 持続的な効果を望むことが出来ないのだ。

 元々は遠距離戦闘に優れ、近距離戦闘が苦手な傾向にあるが、白炎を体の傍で操っても火傷も何もしないため、近距離戦闘に引きつけて自分ごと燃やすという手もある。サスケが不用意に近づくのも危険、かといって遠距離攻撃での防御を破ろうとするのも分が悪い。

 サスケにとっては極めて不利な戦闘である。


 しかし白炎でチャクラを燃やし、術を破るには一定のタイムラグが存在する。最低でも2秒から3秒、術を崩壊させるためには時間がかかるし、大きな術になればそのタイムラグは大きくなるはずだ。


 のチャクラを上回るほどの攻撃を食らわせるか、近距離でを叩くかのどちらかだ。

 先ほどの刀でのやりとりではかなり近距離の対策もしてきているようだが、基本的に決定的な手は持たない。それは彼女が常にサスケの攻撃をやり過ごし、よけ、間合いをとろうとしていたところからも間違いないだろう。

 ならばサスケが狙うべきは近距離戦闘で彼女を捕らえることだ。

 幸い呪印を開放しない状態で、スピードは若干彼女の方が早いくらい。ならば、呪印を開放すれば十分及ぶ程度のスピードだ。





「やるか。」





 サスケはそう言って、またに肉薄する。





「同じ手は、無駄だよ。」




 はサスケの刀を華麗に避けたが、サスケは彼女に向かって蛇を放つ。何匹もの蛇をは大鎌で切り裂いていくが、そんな数ではない。大鎌だけでは対処できず、が体に炎を纏おうとした次の瞬間サスケの方がの体を捕らえた。




「千鳥!」





 薄い腹を捕らえたサスケは、そこに雷遁をたたき込む。




「風伯!」





 が叫んだのは一瞬後だった。しかし遅かったのだろう、彼女の体は紙切れのように吹き飛ばされる。空中では何とか体勢を立て直したが、それでも威力を殺しきれなかったのか、着地した途端に膝をついた。




「いっ、」




 は自分の手で腹を押さえ、血を吐き出す。




「風伯でガードしたか。」




 サスケは舌打ちをした。完全に捕らえたと思ったし、彼女の術は遅かったと思ったが、やはり雷遁は風遁に弱い。があの瞬間、咄嗟に出来た風伯の威力はたかが知れていただろうが、性質変化の問題から致命傷を与えられなかったのだろう。本来なら腹に穴が開いているはずだ。

 風伯はかなり応用の利く術で、身体の防御のために纏うことも出来れば、風の刃として飛ばすことも出来る。どちらかというとは3年前、長距離が得意であるが故に刃を飛ばす方が得意だった。しかし今は、体に纏うという方法も身を守るために会得したようだ。

 またサスケを狙う大鎌の刃にも躊躇いは全くない。




「だが、次は逃がさない。」




 サスケは手に千鳥を纏い、手負いのに追い打ちをかけるべく、襲いかかる。

 呪印状態であれば流石にもサスケの動きについてこれないようだ。ましてや蛇などそう言った術も含めて呪印状態の方が予測不能な動きをすることが出来る。どちらにしてもを近距離で叩かなければならないので、呪印状態の方が断然有利だ。

 はじっとそれを見ていたが、サスケと接触する瞬間に、ふわりと笑った。





「炎遁・火炎壁。」





 途端にの体を白い炎が包み混む。

 あまりの熱風にサスケは危険を感じたが、それでも全速力で突っ込んでいたため止まることも出来ず、熱風をまともに受けた挙げ句の果てに、すぐに白い炎は初めてサスケに襲いかかってきた。

 慌てて雷遁を体に纏い、ダメージを最低限にするべく横に飛ぶ。




「ぐっ!」




 呪印状態、白炎に直接触ったわけでは無いとは言え、熱に煽られたサスケの体はただれる程の火傷に見舞われていた。




「けほっ、」




 先ほどの千鳥での攻撃の負荷か、は膝をついた状態のまま地面に血を吐き出す。苦しそうに咳き込んでから、は腹を押さえたままふらりと立ち上がった。とはいえ、に外傷は全くと言って良いほど見られない。

 腹の傷も穴が開くほどではなかったようだ。

 対してサスケは炎に煽られ、焼けただれた左半身は痛む。倒れたい気分になったが、それでもサスケは足を踏ん張った。流石に呪印を纏っていたし、一瞬とはいえ、の炎は十分にサスケのガードを破ってきた。





「蛇か、それも一杯出て来るって言うのは、ちょっと反則だったかな。」





 一匹や二匹ならも十分に想定内だったのだろうが、数十匹となると切り裂くにも燃やすにも時間がかかる。また、毒がある可能性もあり、がサスケの千鳥を食らうほどに一瞬怯むのは当然のことだった。

 だが、やはり二度目となればも馬鹿ではない。

 同じ手を食う気は無いだろう。は白炎の蝶を自分の周りに大量に配置しながら、サスケの出方を受け取っている。直接白炎に触れていたら、サスケは間違いなく灰になっていたはずだ。それ程にの白炎は厄介で、チャクラを燃やす効果を伴って非常に忍を倒すのに特化されている。

 サスケは火傷に痛む体を押さえながら、首を押さえた。呪印がうずく。





「…近距離は、」





 無理か、とサスケは結論づける。 

 確かにに近距離で勝つというのは難しくはないが、呪印の状態ですら、白炎に煽られただけでこのざまだ。は血継限界から体も火に強く、体に白炎を纏うことも出来る。近づいて白炎に触れたら、サスケは死活問題だ。




「火遁、鳳仙火の術!」



 サスケはに向けて火の玉を放つ。

 はその火の球を避けようともしなかったが、飛んできたものを見て慌ててそれを大鎌の刃ではじき飛ばした。




「手裏剣、か。」




 中に仕込んだ手裏剣がに襲いかかる。確かにの体は火に強く、火遁は全く聞かないが、手裏剣や葉に関しては別の話だ。は火遁に入っていた手裏剣をすべてたたき落とすか、避けるが、ブーメラン型の手裏剣が戻ってきたことに、サスケの方を向いたまま目を見開いて気がついた。

 の透先眼はすべての方向を死角なく見ることが出来る。存外気づかれるのが早かったとサスケは心中で毒づきながら、に肉薄する。

 が手裏剣を弾くその瞬間に、攻撃する。今度は本気の千鳥を纏ってサスケはの方へとかけていく。は地を蹴った。




「なっ!」





 彼女の細い手がサスケの手首を上から押し、それを支えに一瞬にしては体を地面と平行にし、ブーメランとサスケの間に体を滑り込ませる形で二つをやり過ごした。サスケの千鳥に触れないように手には風を纏っている。




「鎌鼬、」



 の手が纏っていた風を一気に弾けさせる。

 それがサスケの腕を中心に、体のすべてを切り裂くように、包み込んだ。はすぐに後ろに飛んで自分のダメージを最小限にする。




「がっ、」





 風の刃に切り裂かれ、息が詰まり、空気がうまく吸えず、受け身もとれず、されるがままに重力にしたがって地面に叩きつけられた。

 サスケは地面で手を握りしめ、起き上がろうとするが、力が入らない。

 この風遁を、サスケは痛いほど、憎々しいほどに知っていた。




 ――――――――――思い上がりも甚だしい




 3年前、サスケはと戦おうとして、間に入ってきたイタチに敗北した。その時にイタチが使った術だ。相手を包み込み、体を切り裂くこの術に、3年前サスケは何も出来ずに敗北した。今も同じで、何とか雷を纏うことで防御しようとしたが、酷い状態だ。





「ちくしょうっ、」





 三年も必死に修行してきて、まさか、自分はごときよりも弱いのだろうか。

 頭の中を恐ろしい疑問が過ぎり、サスケは顔を上げてを睨み付けた。は酷く寂しそうな顔でサスケを眺めていた。

 その目を見た途端、呪印がうごめき、酷い痛みを放った。

憎悪