サスケの首元から現れたのは、醜悪な体をした白い蛇だった。 

 すごいスピードで襲いかかってくるそれを、は大鎌で切り裂き、時には体に白炎を纏うことによってやり過ごす。もう既にかなりのチャクラを使っているが背に腹は替えられないし、仕方がない。

 蛇は毒を持っている可能性が高く、危険だ。

 確実に対処することが身を守ることに繋がると、はよく分かっていた。





「…なにこれ、」




 サスケから大げさなほど間合いをとり、自分の目の前に白炎で壁を作り、出てくる白蛇たちを待つ。




「ぐっ、あ、」




 サスケが苦しそうに呻く。

 どうやらこの白蛇を出しているのは彼の意図ではないらしい。ならば呪印の中に封じられていたのか、は息を吐いて腹を押さえた。サスケの千鳥を食らった腹はかなり痛む。内臓がやられているのかも知れない。

 次々に出てくる蛇を見ていると、突然巨大な蛇の口がぱかっと開いた。




「やっと、やっと出られたわ。」





 どろりとした粘液を纏ったまま出てきたのは、大蛇丸だった。長い黒髪に青白い顔、そして粘液に思わずは無意識のうちに顔をしかめて、炎の大鎌を構えた。





「サスケの中に、閉じ込められていたのかな。」

「その通りよ。うふふふふ、」




 大蛇丸は唇の端をつり上げて笑い、に目を向ける。




「この子はわたしのもの、これほど弱った状態なら、いつでも食える。」




 サスケの力で、押さえつけられていたのが、彼に余裕がなくなって押さえがなくなり、外に出てきたのだ。は納得し、あまりの大蛇丸の執念深さにため息が出る思いだった。サスケを相手にする気はあったが、まさか大蛇丸を相手にすることになろうとは思わなかったので、用意もない。

 しかしだからといってこのまま引き下がれば、大蛇丸はサスケを取り込むだろう。

 はサスケを連れ帰りたいわけで、そのためにはどうやらサスケを倒す前に、目の前の大蛇丸を倒す必要があるらしい。

 白い蛇が辺りを埋め尽くし、の退路を奪っていく。





「蛇の量が多すぎるなぁ。」




 はそう呟いて、大量の蝶を増殖させる。蝶が放つ鱗粉があっという間に白炎へと代わり、蛇を蛇が灰に変わっていくが、それでも間に合わないほどの数の蛇が次々にに襲いかかっており、は大鎌で目の前にやってきた蛇を何とか切り裂くことで対処した。

 とはいえ、これほど大量の蛇を相手にすることは出来ない。





「貴方といえどわたしには勝てないわよ。」




 大蛇丸が笑い声を上げて、を嘲笑する。サスケは白蛇の向こうで苦しそうにもだえていた。

 三忍の一人に数えられるほどの使い手であり、の父である斎も一目置いていた。斎、イタチですらも警戒する相手に、強くなったとは言え、今のがただで勝てるとは思えない。




「…仕方ない、なぁ。帰ったら、怒られよう。」




 正直気は進まないが、仕方がないだろう。このままではサスケ以前に自分の方が危ない。

 それでなくとも仲間であるサクラとナルトを放置してここに一人で来てしまったのだから、裏切ったと言われても仕方がない。それも覚悟していたが、これでイタチから怒られることも決定である。 
















 は目を閉じて、自分の心を覗く。

 晴れ渡った空と、綺麗な新緑を移す森、美しい水をたたえる清らかな泉。その中央に立つ少女は、とは違って銀色の髪をしているが、容姿はとそっくりだ。髪の色が違うだけの、それは自分そのもの。

 泉の手前に立っている彼女の長い銀色の髪が、自分の長い髪と同じように揺れている。




 ――――――――――大丈夫?




 もうひとりのが、躊躇いがちに尋ねる。声音もと全く同じだ。

 彼女はだ。紺色の髪をした蒼一族としてのではなくて、銀色の髪をした炎一族としてのは銀色の自分と同じくらい巨大な白炎の蝶を従えてに手をさしのべる。が手を伸ばすと、そこには透明な壁がある。

 壁にある文様は、写輪眼の三つ巴だ。





 ――――――――――怒られちゃうよ。




 銀色の髪に灰青色の瞳のが、肩を竦めて笑う。きっと自分も同じような顔をして笑っているのだろう。




「うん、知ってる。」




 はそう返事をして、その壁を白炎の蝶で押し割る。途端に目の前にいた少女の姿が微笑みを浮かべたままかき消える。は小さく息を吐いて、自分の長い銀色になった髪を掻き上げてから、泉の方へと歩く。

 泉の水面にも同じように透明な壁が作られており、そこにある文様は、緋色のイタチの万華鏡写輪眼のものだ。その泉の中にいるのは、と同じくらいの年頃の少年。彼は目を閉じて静かに眠っている。起きるのはイタチに呼び出された時だけだ。

 この小さな少年を縛り付けているのはイタチの力。そしてそれこそが、がイタチを縛っている鎖でもある。





「やっぱり、わたしは、ね。」





 はそう言って、目の前の現実をその透先眼に映す。




「イタチに、サスケを返してあげたいんだよ。」




 ふわりと長い髪が風に舞って、翻る。自分の視界に映るそれの色合いはいつの間にか銀色になっていた。

 大蛇丸は驚いたようにの変化に目を丸くしている。





「白紅、」





 は自分の白炎の媒介である炎の蝶の名を呼ぶ。

 それに答えるように出現した蝶はいつもの手のひらサイズとはまった比べものにならない大きさで、の体より明らかに巨大だった。それが鱗粉を散らしての周りの蛇をすべて一瞬にして焼き払う。

 先ほどよりも明らかに使えるチャクラの量は莫大に増えており、白炎の強さも全く違う。

 は天に自分の手を掲げる。するとそこに下りて来た白炎の蝶が、周辺に巨大な白い球体を作り出し、それを一つにまとめ、恐ろしい密度に圧縮していく。




「炎遁・白隼!」





 は圧縮した白炎の球体の壁面の一部分だけに穴を開ける。

 途端にきゅぃっと不気味な音共に、一気に圧縮されていた力が大蛇丸に向けて放射される。今まで圧縮されていた力が外へと出ようとするその圧力は、尾獣玉にも引けをとらない。威力は確かに尾獣玉に劣るが、チャクラを燃やす白炎で出来ている。




「ちっ、そう来るのね。」




 九尾であるナルトに同じ攻撃をされたことのある大蛇丸は舌打ちをして蛇の口から出てきて、かりっと親指を噛んで口寄せの印を作り出す。




「三重羅生門!!」




 巨大な門がと大蛇丸の前に出現し、の攻撃を遮る。

 しかしそれを三枚とも蹴破って、白炎の砲弾はまっすぐと突き抜けた。やはりチャクラを使った羅生門では全くの攻撃を防ぐには値しない。威力を僅かに落とした程度で、まっすぐ大蛇丸の体を吹き飛ばし、ほとんどの蛇を灰にした。

 森を半分吹き飛ばすほどの勢いと土煙に手を前にして身を守りながらサスケは呆然とする。

 だが次の瞬間、地面から伸びてきた刀がの腹を貫いた。





「い、」





 草薙剣、ガード負荷のそれは刃であるためチャクラを防ぐ白炎でも燃やすことは出来ない。は先ほど千鳥にやられたのも腹であったことから目を丸くしてから痛みに顔を歪めたが、ぎゅっと刃を動かないように固定した。

 草薙剣をまるで導火線をたどるように白炎が一瞬にして伝っていく。




「ちっ、」




 大蛇丸がそれを見て慌てて草薙剣から手を離すとの炎から逃れようと後ろに飛んだ。だが、その首を後ろにいたが大鎌で切り取る。草薙剣に刺し貫かれていたがにっと笑う。





「じ、自分を犠牲に、」




 本体を囮に、は大蛇丸を殺そうとしたのだ。しかしそれに今更気づいたとて、遅い。大蛇丸の首も胴体も、大鎌から移った白炎が一瞬にして焼き尽くす。

 血がぽたぽたと唇の端からこぼれ落ちたが、は当たり前のように草薙剣を腹から抜いて、サスケに向き直った。


断腸