怒ると言うよりは混乱しているナルトとサクラも、遠目の力を持つがいなければ、当然は愚かサスケを探すことも出来ない。元々シカマルも追尾は全くの守備範囲外であり、どうすることも出来なかった。
ましてや隊長で上忍のは不在である。
綱手にが一人でサスケと相対しに行ったらしいことをシカマルが報告すると、すぐに近くにいるイタチと合流しろと命じられた。イタチの口寄せ動物は、そして師である斎と同じ犬神であり、イタチの写輪眼で痕跡を探しながらならば、やサスケを追尾できる可能性が高かった。
「…何故、一人で。」
戸惑いながらサクラが事情をイタチに話すと、彼はぐっと拳を握りしめて、絞り出すような声で言った。
「は多分、サクラとナルトの覚悟のなさを、見抜いてた。」
シカマルはを擁護するように口を開く。
殺す気で行かなければ、サスケを取り戻すことなど出来ないだろう。影分身のはあの瞬間、完全にサスケを半殺し、殺す気でやり合って取り戻すことを視野に入れていた。にもかかわらずナルトとサクラはサスケを傷つけるだけの覚悟がなかった。
その覚悟の差が、にとっては邪魔だったのだろう。
「もしくは、前にサスケに会った時、二人は力不足と感じたか。」
日頃のぼんやりしたでは考えられないほど、彼女は戦いの中においては非常に冷静で、容赦ない判断を下すことも多い。シカマルの目から見ても彼女の戦略は納得出来るものが多く、だからこそシカマルがいたとしても隊長はになるのだ。それをシカマルも十分に認めている。
しかし、今回のはあまりに勝手すぎた。
「まさか、単独で行くとはな。」
シカマルも納得出来ない部分が今回は多いのだ。
サクラとナルトを邪魔だと思ったとしても、少なくともサクラは医療忍者で、巻き込まれないように隠れて手を出すなと言っておけば、ナルトと違って大人しくチャンスを待ったはずだ。またシカマルだって言ってくれれば、に基本的な戦線は任せたと思う。
話し合い一つせず、彼女は実力だけで仲間を切り捨てたわけだ。
「何を、考えているんだ。」
イタチは状況を聞けば聞くほど、が分からなくなった。
昔から共にあり続け、正直自分が一番のことを理解していると自負していた。しかし、今がどうしようとしているのか、何を覚悟し、何を思ってサスケとの戦いに出向いたのかは、イタチにもわからない。
何故3年前あれほどにサスケと戦いたくないと逃げ続けたが、何故今はサスケと戦うことを望んでいるのか。
「ひとまず、を追うしかない。の匂いなら、簡単に探査できるはずだ。」
イタチは犬神を口寄せし、匂いを探すように命じる。
「すいません。俺ら、追尾能力ゼロで。」
シカマルはイタチに頭を下げた。
もし一人でも追尾能力がある人間がいればをすぐに終えたのだが、今回のフォーマンセルで追尾を担当していたのは本人だったため、それも出来なかった。
「謝るのはこっちだ。もっと俺が見張っておくべきだったんだ。」
イタチにとっては自分の恋人でもある。
またが辛かったり悲しいことをうまく自分で表現できず、ため込む傾向にあることを誰よりも知っていたのはイタチだ。無理をしているのは分かっていたし、片鱗には気づいていたというのに、それをきちんと追求しなかったのは、イタチの甘さだ。
「…なんで、は、言ってくれなかったんですかね。」
サクラは俯いて、今にも泣きそうなやりきれない表情で呟く。
きちんと話してくれれば、サクラだって納得した。自分の力不足だって分かっている。でも少なくとも医療忍術でならばサクラはの役に立てたはずだ。サクラもそれを理解して、今まで努力してきた。
サクラにとっては姉妹弟子であり、この三年間、サスケを助けるという目標もと共に修行をし、苦楽を共にしてきた強い親友だった。少なくともサクラはになんでも話してきたつもりだし、頼りにしてきた。心から信頼もしている。
にとっては、違ったのだろうか。
「は元々、ため込み型で、よっぽどためて、泣かさないと滅多に弱音を吐かないんだ。」
イタチはを弁護するしかなかった。
おそらくサクラを信頼している、いないの問題ではないのだと思う。
イタチにもは自分の辛いところをあまり話さない。昔から、病に苦しんでいた頃から、の口から病についてどう思っているのか、悲しいのか辛いのか、苦しいのかすらも、彼女の口から出たことはなかった。
だからイタチは時々に辛らつな言葉をかけて泣かす時がある。
そこまでしないと彼女の本音や弱音はほとんど出てこないのだ。確かに最近泣かしたことはないが、楽しそうに笑っているから、平気そうにしているから、イタチも彼女は大丈夫なのだと思い込んでいた。
「さぁ、もしかしてイタチ兄ちゃんと、サスケが戦うのを、避けたかったのかもしんねぇ。」
ナルトはぽつりと言葉を零す。
「、見えてたかも。イタチ兄ちゃんが近くにいるの。」
ナルトの言葉に、シカマルははっとする。
イタチは炎一族のものが襲われたと言う連絡が里に入ったと同時に、その後処理のために炎一族が襲われた現場に派遣された。最初にたちがいた場所とここはそれ程離れておらず、おそらくの透先眼ならば問題無く確認できたはずだ。
「俺たちの覚悟のなさも、分かってたかもしれねぇけど、一番は多分。」
ナルトは目を伏せて、の言葉を思い出す。
―――――――――――――――イタチが気づく前に、早く捕獲しないと。
は確かそう言っていた。
ぐずぐずして、仲間を連れてイタチとサスケが交戦することを恐れたのだろう。また、はナルトやサクラ、シカマルをサスケと自分の戦いに巻き込むのを敬遠したのだ。憎しみを受けているのは自分だから。
イタチを大切に思うが故に、はイタチとサスケを会わせたくなかったのだ。
「ぁ、」
イタチはか細い声を出して、目を見開く。
「どうしたんっすか?」
シカマルが心配そうにイタチの顔をのぞき込む。
イタチは確か結核の最後の手術をしたばかりだと聞いている。何か不具合かと心配したが、イタチが声を上げたのは全く別のことだった。
「…扉を開けたな。」
イタチは自分の腹に触れる。そこにあるのはの鳳凰を封じる術式だ。
イタチの中にはの鳳凰と、のチャクラの一部が封印されている。の体が弱く、莫大な自分のチャクラを支えられなかったからだ。もちろんはそれを引きずって引っ張り出すことは可能だが、大きな危険が伴う。
一つ目の扉は、のチャクラの一部。二つ目の扉が鳳凰だ。
少年の姿をした鳳凰は泉の中−イタチの中でイタチがした封印と共にイタチが起こさない限りは眠っている。しかし、その鍵はイタチも、そしても持っている状態だ。
「急がないと。」
イタチは犬神に告げて、探索を急がせる。
が一つ目の扉を開けたと言うことは、間違いなくサスケと交戦中なのだろう。勝っても負けても、チャクラを引っ張り出せばは無事では済まない。まさか二つ目の扉まで開けると言うことはないと信じたいが、今のではそれすらも分からない。イタチもが二つ目の扉を開けないと信じることが出来なかった。
今、イタチはただ、願うしかなかった。
開門