「一応状況の整理をしようと思う。」
シカマルが全員に、ある程度の経緯を語った後、もう一度内容を確認するためにぱんと手を叩く。
同期であるヒナタ、キバ、シノ、いの、チョウジ、サクラ、そして新たな班員のサイ。一つ年上だが中忍試験で一緒になって以来仲の良いテンテン、ガイ、そしてネジ。全員が神妙な顔つきでシカマルの話を聞いている。
「がサスケを一人で追い、サスケはを殺したが、利用するために蘇らせたらしい。今のには記憶がない。そして、本人ではその状況ではどうしようもない。」
だから、を探して取り返さなければならない。結論としてはそういうことだが、それだけではないことを、シカマルは知っていた。
「なんで、そんな、一人でなんて。ちゃん。」
ヒナタはの所業に俯く。
サスケはアカデミーの時も天才と言われた男で、実力も折り紙付き。今となっては大蛇丸の術も知っており、3年たてば恐ろしい実力を持っているだろう。は同期の中で一番早く上忍になった上、確かに同期の中でも実力はサスケのいない今、トップなのは間違いないだろうが、一人で行くなど無謀にも程がある。
ましてや近くに仲間がいたにもかかわらずだ。
今となってはがどうしてそんな行動に出たのか、
「サスケが、を手にかけたのは間違いないのか?」
ネジは驚いたようにシカマルに言う。
前回の時ですらも、サスケは結果的にナルトを手にかけることはなかった。だからこそ同期もサスケを取り返すという目的を信じることが出来たのだ。なのに、既にを殺したと言うことは、仲間を手にかけるという可能性も視野に入れなければならない。
「それは、イタチさんが持ってる鳳凰が言ってた。よそからの茶々入れはあったらしいが、それでもサスケがを殺したのは、間違いなさそうだ。」
イタチの中にいる鳳凰をは引っ張り出しており、鳳凰は最期の戦いのすべてを見ていた。
が少なくとも一度サスケの手にかかったことは間違いない。は希少能力の保持者であり、暁にとってもまたサスケにとっても有益な能力者だ。記憶がなく、元が素直なを頭の回るサスケが操るのはそれ程難しいことではない。
幻術にかかることはないが、それでも言うことを聞かせる方法はいくらでもあるのだ。
サスケは要するに憎しみとそのの能力を欲するがあまり、を殺し、都合良く操れるように記憶もないを作ったとも考えられる。
「この場にナルトがいなくて、良かったな。」
キバはため息をついて、自分を落ち着かせるために、自分の犬である赤丸の頭を撫でる。
今、ナルトは修行のために自来也につれて、蛙の里だかどこかへ行っている。そのため同期が一堂に会しているこの場所にはいない。
確かにサスケは仲間だが、正直同期の誰もがサスケとそれ程仲良くはなかったし、ナルトに人望があり、彼がサスケを取り戻したいと願うからこそ、シカマルやチョウジも納得し、サスケを取り戻そうとしていたのだ。
しかし、今、は蘇ったとは言え、サスケによって殺されたのだ。
は希少な力を持っているため利用価値ありとして蘇らされたのだろうが、他の忍であればそうはいかない。また、里にとって今となっては里にとって大切な忍であるを殺したサスケを取り戻す意味があるのか、と言うのも大いに疑問だ。
は里にとって非常に有益な力を持った忍であり、また里最大の名家である炎一族の姫君でもある。そのを奪ったサスケをナルトの友人だからと言うだけで、許すことはもう出来ない。
「でもなんでサスケはをそんなに憎んでるの?だって、とサスケは幼なじみ同士でしょ?それに、あのだよ。ボクには、そんなにが悪いなんて、」
チョウジは語尾には言葉をなくしたが、それでもの性格はよく知っている。同期の全員がそうだ。
は同期の中で一番小柄で、病弱であまりアカデミーに行けなかったためつきあいが長いわけではないが、誰よりも優しくて、いつも戦いには引け腰だった。無邪気で、無垢で、ふわふわと笑って、少し抜けた、強いなんて信じられないくらい優しい子だ。
そのが憎まれる理由があると言うのが、チョウジには納得出来ない。
「…多分、うちは狩りのせいだと思う。」
答えを知っていたのは、暗部に属していてダンゾウの直接の部下であるサイだった。
「3年前の事件はみんな知ってるよね。」
「も、もちろんよ。うちは一族の反逆は里でもすっごいニュースだったじゃない。」
いのもその日、驚愕と共にその知らせを聞いたことを覚えている。全員がサイの言葉に頷いた。
どこの国でも反逆は国家に対する最悪の罪だ。それを犯したのが里の中でも有数の名門であり、里の創設にも深く関わり、地位も名誉も持っていたはずのうちは一族だったからだ。
確かにうちは一族と火影の一族である千手一族は昔から根深い確執があったが、それでも表向きにはうまくやってきたように見えていた。また、うちは一族は里最大の規模を持つ炎一族と仲が良かった。炎一族の婿である斎は暗部、そして里の上役であり、千手一族とも縁戚関係にある。
だが、反逆の少し前から斎とうちは一族は公に揉め、うちは一族もそれに伴い、友好関係を拒否した。
その後すぐに、うちは一族は反逆を企て、イタチに密告されたためほぼ全員が殺されるか、里から逃げるか、幽閉された。
百人近くいたはずのうちは一族は、半分近くが殺され、四分の一が幽閉。四分の一は里を抜けて抜け忍となった。
「姫は、抜け忍捕獲の任務に、深く関わっていたから。」
サイは目を伏せる。
を含め、炎一族の血継限界である炎は大なり小なりチャクラを焼く効果を持っている。要するに写輪眼の幻術も破ることが出来るのだ。またのチャクラは特に、写輪眼で透明に見えるらしく、どちらにしても見抜くことが出来ない。
そのためはうちは一族の捕獲に一番にかり出されることになった。
サスケにとってはうちは一族を捕獲、幽閉する憎い相手であり、十分にを憎むに値する理由であったかも知れない。
「…、ダンゾウ率いる暗部の部隊に捕獲されたら殺されちゃうからって、頑張ってたの。」
サクラは綱手にが、自分を班に入れてくれるように訴えていたのを知っている。
ダンゾウは自分の部隊を使ってうちは一族を殺し、目を奪おうとしていた。は綱手の命令によって公にうちは一族を捕獲することで、秘密裏に殺されていくうちは一族の人間を減らそうとしたのだ。
「、イタチさんがサスケくんに憎まれてることをずっと気にしてて、本当は、自分が憎まれるべきだったって。」
「どういうことだ?」
ネジはサクラの言う意味が分からないのか首を傾げる。だがヒナタがはっと気づいて、目を伏せた。
「そっか、ちゃん。イタチさんがうちは一族を裏切ったの自分のせいだって、思ってるんだ。」
「意味わかんねぇよ。どこが自分のせいなんだ?イタチさんは“うちは”じゃねぇか。」
キバは納得出来ず、ヒナタに反論する。
とイタチが一緒にいるとき、常に決定権を持っているのはイタチの方だ。彼はもちろん密告をしないという選択を選べただろうが、それはとは関係のない選択のはずだ。確かに婚約はしていたが、まだは12歳で婚約もただの口約束のようなものだったし、正式なものになったのは事件の後だ。
イタチがのために自分の一族を裏切ったと言うことは、ないだろう。
「うぅん。イタチさんは、を選ぶしかないの。が死なないようにするためには、そうするしかないのよ。」
サクラは息を吐いて、俯く。
3年前、サスケがとの戦いを望み、イタチに反撃され、入院した時、サクラはとイタチの話を聞いていた。ヒナタも同じく大きな一族であるため、両親の話す炎一族の内情を聞いたことがある。
「どういうこと、ですか?」
「そうよ。わたしたち、聞いたことも無いわよ。」
ガイとテンテンは確かにとも結構仲が良いが、それでも全く話を聞いたことが無い。それはキバ、サイや他の面々も一緒だ。
シカマルは父から聞いて知っていたため、ぐっとこぶしを握りしめる。
そんなこと最初から分かっていたのだから、少し考えれば優しいがそこに罪悪感を持つなんてことは、想像がついたはずだ。それでもシカマルがそこに思い当たらなかったのは、があまりにも無邪気に、晴れやかに笑って見せるからだ。
「俺たちは、」
シカマルたちはを取り戻すために、サスケをどうするかを決断しなければならない。こうなった以上、猶予など許されないのだ。例えそれをが望んでいたとしても。
「、は。」
サクラは続きを口に出すことが出来ず、声を震わせた。
きっと、ずっとイタチにチャクラを肩代わりしてもらったことを、それしか生きる道がなかったことを、そして彼を自分に縛り付けてしまったことを、悔やんでいたのだろう。自分が死ねば、彼が楽になるとすら思っていたかも知れない。
イタチがうちは一族の反逆を密告したことによってサスケから憎まれた時、彼がうちは一族を選べなかった理由は、自分だと思ったことだろう。ずっと自分を責め続けていた。
「嘘がへたなはずなのに、」
どうやって、どれほど心を砕いて、嘘をついていたのだろう。あの無邪気な笑顔の裏で、彼女はどれほどの悲しみを押し殺していたのか。
それでも、サクラの瞼の裏に浮かぶは、ただ無邪気に笑っていた。
悲哀