木の葉の小隊にサスケたちが襲われたのは、サスケが動き出してすぐの頃だった。




「もう、大丈夫?」





 木のうろに隠れていたは恐る恐る顔を覗かせる。




「もう良い。出てこい。」





 随分と深いうろであったため安全だがは鈍くさく、一人でうまく出ることが出来ずにまごついていたので、仕方なくサスケはの襟首をひっつかんで引っ張り出した。記憶を忘れて以来、チャクラのコントロールすらも出来なくなっているので腕力皆無のため登れなかったらしい。

 ついでに木のうろでついたであろう枯れ葉や服の汚れも払ってやった。





「なんか、兄と妹って感じだよね。」





 水月は甲斐甲斐しいサスケに苦笑する。





「みすぼらしいと鬱陶しいだろう。それにの方が俺よりも3ヶ月年上だ。」





 初夏生まれのサスケよりも春生まれのの方が年齢としては上だ。もちろんは未熟児で生まれてきたと聞いているので、本当の予定日はサスケと同じ頃だったという。どちらにしても、今のが鈍くさくてとろいことに変わりはない。

 それに、記憶があったとしてもは結構鈍くさかったし、どうにも一人でものをさせるのが心配になる感じだった。





「あんた、ぼっさぼっさだよ。髪。」





 香燐もが気になるのか、甲斐甲斐しいところではサスケと変わらない。彼女は仕方ないと腰に手を当てながら、の肩までになった紺色の髪を適当に撫でて整えた。





「木の葉の小隊。を探しているのか。」





 重吾は倒した男たちを見下ろす。





「違うな。オレたちと鉢合わせたのは偶然だろう。」





 サスケは冷静に言って、同じように足下に転がっている男たちを確認する。

 一人はゲンマというサスケも何回か見たことのある上忍だった。すでに戦闘不能だが全員生きているが、彼の実力から見て、おそらくサスケたちと偶然鉢合わせただけだろう。を殺し、利用していることは里にも伝わっているはずだ。

 相手がサスケであり、を倒したとなれば、もっと高度な忍術を持つカカシやイタチを配置してくるはずだ。ましてや写輪眼相手である。そうでは無いと言うことは、たまたまサスケたちを見つけ、たまたま捕獲しようとしたと言うだけだろう。

 でなければこんな中途半端な戦力の奴を派遣してくるはずがない。




「わ、この人たち何?」





 忍術を使えず全く役に立たないは追跡されているのが分かった時点で木のうろに放り込んだため、何故放り込まれたのかも分かっていなかったようで、不思議そうには首を傾げる。




「なんか怪我してるよ。」

「敵だよ敵。近づくなよ。」





 香燐は興味深そうにじっと倒れ伏す人間を見ているの手を引っ張る。

 一応既に戦闘不能だが、もしもということは十分にあり得るのだ。今のならチャクラをあっさり封じられれば殺されることも十分に考えられるのだから、気をつけるに越したことはなかった。

 とはいえにとっては何もかもがよく分からないことだ。




「ふぅん。」




 相変わらずは不思議そうだったが、ひとまず危ないことは分かったのか、倒れ伏している木の葉の忍から離れて、サスケの方に歩み寄った。

 本人もサスケの傍が一番安全だと分かっているらしく、必ず戻ってくる。




「ちく、しょ、…、姫…」





 ゲンマは動くことは出来なかったが、呻くようにの名を呟く。

 サスケはそれに気づいて舌打ちをしたが、は気づいてぱっと顔を上げ、とことことゲンマの方へと歩み寄り、しゃがみ込んだ。




「あなた、だぁれ?」





 はもう一度彼の方に歩み寄り、袖をひらひらさせてしゃがみ込んでゲンマの顔をまじまじと見てから、小首を傾げて見せる。ゲンマは目を丸くして、言葉を失った。




「な、」





 ゲンマは何故覚えていないのかを問おうとしたが、その前にの襟首をサスケが掴み、しゃがみ込んでいるを無理矢理立たせた。




「行くぞ。」

「あ、え、うん。」





 は戸惑いながらも、サスケの言葉に従う。




「急がないと。援護が来ても困るからな。」





 重吾が気遣うように優しい声音をにかけた。それを聞いても納得したのか、うんと一つ頷いて犬神を呼び出す。





「確かに、こいつらが援護を呼んでいないとは思えないし、存外木の葉は優秀だもんね。」




 水月も疲れているのか、言って、一つ伸びをした。




「それにお嬢がやられちゃっても困るしねぇ。」




 には今、戦闘能力は無い。

 透先眼の効果範囲は香燐より遙かに広いため敵に一番先に気づくのは当然なわけだが、戦闘能力皆無のが出来ることと言えば隠れていることだけだ。要するに一番最初に気づいて隠れる場所を探すことに専念するくらいしか出来ない。

 手練れであればを見つけることも可能だろうし、そうなれば庇って戦うこちらは厄介である。




「まぁある程度は自動防御だろうと思うがな。」




 サスケはの白炎の蝶をちらりと見て言う。

 の白炎の蝶は例えがチャクラを使用できなかったとしても勝手に敵の攻撃を防御するように出来ている。そのため、不意打ちにもある程度は対応するだろう。


 サスケが一番の安全を気にかける立場にあるが、それ程心配はしていなかった。

 むしろがいらないところで転ばないか、自ら敵の罠を間違えて踏んだりしないかの方がサスケからしてみれば心配だ。サスケは幼い頃からがどれほどにいらないことしいで鈍くさいかを熟知している。今は記憶までないのだから、なおさら気をつけていた。

 特にチャクラを封じられれば何も抵抗策がないのがだ。





「この人たちは、どうしてわたしたちの敵なの?」




 は不思議そうに、小首を傾げて見せる。




「…襲ってくるからだろう。」




 サスケはあっさりとした答えを返した。

 もちろんそれは嘘ではない。彼らはサスケの行く先の邪魔をするし、を取り戻そうと狙っているかも知れない。そういう点では、襲って来なければサスケとて相手はしないが、襲ってくる限りは敵である。無駄な殺しはもちろん好まないが、それでも自分の道を妨げるものを排除するのに躊躇いはない。

 はやはりそれに関してもよく分からないのか、納得出来ないといった表情をしていたが、それ以上問うつもりもないようで、小首を傾げただけだった。


 すべてを忘れたにとって、いろいろなものが理解できない。


 一般生活ぐらいはある程度ひとりでできるし、問題はないようだが、それでも細かいところを忘れているし、忍という概念や国についても基本的にはすべて記憶にはないようだ。だからこそ、どうせ木の葉が、と言っても分かるまい。

 サスケはの様子を注意深く観察していたが、分からないことが多すぎて正直は情報を精査できないようだった。




「ふぅん。痛そうね。」





 に分かるのは、敵が怪我をしていて痛そうだという、その程度。

 僅かな感情を敵に向けるのみで、覚えていないにとっては問題ではないのだろう。それは無関係の子猫が落ちているのを憐れむのと何ら変わりはない程度の感情だ。





「行くぞ。」






 サスケはをせかすように、前を示して言う。

 は最後まで名残惜しそうにゲンマに目を向けていたが、サスケに置いて行かれそうになって足早にそちらへと駆けていった。





邂逅