「見つけた。」
がそう言って、八尾を見つけたのはマダラに言われた四日後のことだった。
雷の国の中に入るとある程度予想がついていたので、サスケはを雷の国へと連れて行き、適当に歩かすことであっという間に八尾を見つけることに成功した。
とはいえ戦いに関して基本的には役立たずである。
「後ろで見ておけ。」
サスケは刀を構え、に命じる。
「う、うん。へ、変な人みたいだから、気をつけた方が。」
「聞いて、見たら分かるよ。その苛々するだじゃれ。」
水月はの助言にあっさりと言って、前を向く。そこにいるのは白髪の男で、刀をいくつも背中に持っていた。
「八本、尻尾ないよ。」
尾獣というのが一応尻尾のあるものだとサスケに適当に教えられたは男を見て首を傾げる。男はどう見ても見た目は普通の人で、尻尾はない。
「こいつが体の中に尾獣を飼ってるんだよ。」
香燐が冷静にの勘違いを訂正した。
「えっと、んー、そっか。」
は正直八尾を捕まえるために探せと言われた時も、なんのためなのかよく分かっていなかった。だから納得出来なくても元々分かっていないので、適当に頷いた。とはいえ、にもよくわかることが一つある。
「だじゃれじゃねー、おしゃれなライブだこのやろ、おっイェーー」
八尾であるビーは少し変な人のようだ。
尾獣が何かはにはさっぱり分からないが、それでも何となく雰囲気も、力も、そして性格すらも特別な人物だと言うことだけはよく分かった。
が首を傾げていると、ビーはに目をとめ、じっとを凝視する。
サスケや他の重吾などと違い、は暁のマントを羽織っていないし、普通の着物姿だ。気配を消すことも知らないし、ただ突っ立っているだけだ。異質なのは、誰が見ても分かる。
「ちっこい、嬢ちゃん、名字はなんだ、べいべ、」
一瞬だじゃれをやめ、真面目な顔をした八尾のビーは、ぴっとを指で示す。
人柱力であるビーは莫大なチャクラを持つに興味を持ったのか、それとも思い当たることがあるのか、戦いの最中に目の前にいるサスケを通り越して、に言った。は突然話を振られ、また参戦する気も無かったため、小首を傾げる。
「なにも、覚えてない。」
はあまりにも単純な答えを返した。
さらりと肩までしかない紺色の髪が風に揺れる。それを見て僅かに目じりを下げたビーは肩を大げさに竦めて見せた。
「名前は?」
「」
はサスケが止める間もなく、素直に答える。その名を聞いてビーは納得したのか、顎を引いてをまっすぐ指さす。
「迷子の迷子の子猫ちゃん、帰るべき場所、違うだろ。おぉ、イェー」
「え?」
「おまえ、木の葉の風伯の娘だろ。」
真面目な声音が響いて、は首を傾げる。
娘という言葉は分かるが、“木の葉”と“風伯”という言葉の意味がよく分からない。帰るべき場所など、全く覚えていない。
「ふう、はく?」
「木の葉の暗部の忍だぜ。若くてめちゃ賢い、四代目火影の右腕!」
「木の葉…はっぱ?」
はあまり語彙量があるとは思えず単語だけのビーの言葉にもぴんと来なかったのか、首を傾げる。
「…」
話が全く通じていないことに気づいたビーは勢いをそがれたのか、目じりを下げる。
「無駄だ、そいつは何も覚えてない。」
代わりにサスケがビーに答える。するとビーが顔色を変えた。
「やっぱし、そいつ、風伯の娘か。」
ビーは珍しい色合いの紺色の瞳、紺色の髪の一族を知っている。
世界中でどれだけ探しても、紺色の髪を持っているのは予言を生業とし、血継限界・透先眼を持つ蒼一族だけだ。既に今その一族の血統で生き残っているのは斎という直系一人で、もし余分にいたとしてもそれは彼の血筋に他ならない。
ビーは大戦の折に何度も斎と戦った事がある。
特に斎は四代目火影と兄弟弟子であり、四代目火影が難しい任務に出る際は常に斎が傍にいた。そのためビーはエーと共に何度なく斎と戦った。
結界術の得意な酷く頭の切れる男だった。
噂ではあるが、彼が神の系譜である炎一族の女と結婚し、娘がいるという話はビーも聞いたことがある。容姿がそっくりであることを考えれば、目の前にいる記憶をなくした少女は間違いなく斎の娘だろう。
非常に人情を重んじる斎が、娘に愛情をかけていないとは考えにくい。
ならばおそらく記憶をなくしている彼女を、その希少な能力を欲するが故に目の前の少年が利用していると考えるのが妥当だった。
ましてや雰囲気的に彼女に八尾であるビーと戦闘する意志は全くない。
「まったく、困ったもんだぜ、ベイビー」
能力の希少性を考えても、ここで少女を殺すのは得策ではない。斎の娘であれば後で雲隠れの里の役にも立つかもしれない。
「斎さんを、知っているのか。」
サスケは忌ま忌ましさに僅かに眉を寄せて、ビーの話を早早に打ち切るのが良いと判断した。
の紺色の髪は肩までに短くなっているが、の容姿は男女の差はあれども父親である斎とそっくりで、誰もが血のつながりを疑わないほどだ。斎は火影候補に挙げられるほど強い忍で、かつては四代目火影の右腕と歌われていた。もしかすると大戦や任務でビーは斎と交戦したことがあるのかも知れない。
風伯とは斎の通り名の一つで、風伯とは風神のことを表す。彼が風遁を得意としており、流れるように風遁を使うことからその通り名がついた。
人柱力として完全だと名を馳せるビーだ、火影候補として名を馳せる斎と戦っていてもおかしくはない。
ビーはが斎の娘であると理解した上で、記憶を失い、サスケといるを見て、帰る場所が違うと思ったのだろう。
とはいえ、は両親のことはおろか、今までの自分のことすら覚えていない。ビーが何を言おうと、無駄だった。
「要するに血継限界を利用してるって訳か。」
斎を知っているだけにが希少な血継限界・透先眼を保有していることを分かっているのだ。ビーはそう言って、ため息をついた。
「え、えっと、その、けっけいげんかいって、なぁに?」
は意味が分からず、ビーにそう問う。
何も覚えていないにとって、事情をすべて忘れて理解しない、配慮のない他人の話は難しすぎてわからない。
だから素直に尋ねたわけだが、その説明は非常に面倒で時間がかかる。
「OK,おまえを殺してっ、風伯の娘捕まえて、あの野郎に貸しを作ってやるぜ、お、イェー」
ビーはに話しても埒があかないと理解したのだろう。指さす方向をサスケに変えて、楽しそうに言ってみせる。それを聞いてサスケは眉を寄せてをちらりと見た。
「、できる限り遠ざかって下がっていろ。」
「え、でも、」
は自分がやり玉に挙げられているのを理解し、どうしたら良いのかと戸惑いの声を上げる。
「下がれ。邪魔だ。」
サスケは面倒だとに冷たく言い捨てた。
を庇いながら戦うのは得策ではない。ましてやこの感じだとビーは自分の里のためにもを捕獲するつもりらしい。それはなんとしても防がなければならない。
サスケとしてもが巻き込まれれば戦いにくいわけで、記憶をなくし、大怪我をさせた経緯から、サスケにはを守る義務がある。怪我をさせるわけにはいかなかった。
「わ、わかった。」
は頷いて、巻き込まれないように後ろへと下がる。
大きな岩山の後ろまでが下がったのを確認してから、サスケはビーへと襲いかかった。
知己