が岩山の影から出てきたのは、戦いが終わった後だった。

 全員がぼろぼろの状態で、水月と香燐はそれぞれサスケと重吾に抱えられている。とはいえ二人も酷い状態で、サスケはよろけていた。





「犬神さんに乗せる?」





 は口寄せで犬神を呼び出し、サスケに尋ねる。サスケは重吾と顔を見合わせたが、すぐに香燐と水月を犬神の背中に乗せた。背負っているのはサスケとしても辛かったのだろう。

 ついでにサスケは八尾の体も同じように犬神の背中に放り投げた。




「見張っている人がいるよ。」

「そうか、早く行くぞ。」




 サスケは疲れ切った声音ながら、の腕を引っ張る。

 今襲われては、重吾もサスケもなんの特殊な能力も持たない上忍に負けるかも知れない。八尾を確保した今、早めに逃げるに越したことはなかった。





「大丈夫?」





 が尋ねると、サスケはその方が歩きやすいのか、に軽く寄りかかった。やはりさすがのサスケも限界らしい。

 は生憎香燐と違って傷を治すような力は持ち合わせていないから、どうしてやることも出来ない。

 しょんぼりして目じりを下げていると、サスケがを見て言った。






「気にするな。それに、傷もきちんとは癒えていなかったしな。」





 と戦った時、も肩と腹に傷があり、鳳凰を呼び出した負荷とで死に至ったわけだが、当然マダラが乱入しなければ間違いなく死んでいたほど追い詰められていたサスケの傷も酷いものだった。蘇ったことによってある程度治ったの傷と違い、サスケは呪印をの白炎に焼かれてとられたこともあり、回復は今まで以上に遅かった。





「そうだな。とはいえ、これでノルマはクリアだ。」




 重吾は慰めるように言って、息を吐く。

 彼とてサスケの怪我を治した上にビーに殴られてもいるので、酷い状態だ。少なくともサスケの万華鏡写輪眼の“天照”がなければ間違いなく死んでいた。




「…」





 親しい友を殺すことによって開眼するこの万華鏡は、おそらくを手にかけたからこそ、持つことが出来たものだ。乱入者はいた、最後のとどめを刺したのかと言われれば、結局にとどめを刺すことは出来なかった。

 イタチのためだとぼろぼろになっている彼女があまりにも哀れで、必死で、今まで見てきた無邪気なと重なるものがなくて、たまらなかった。だから、手を伸ばした。

 でもサスケがを抱きしめたあの瞬間、はきっとすべてを手放したのだ。

 サスケの温もりに苦しさも、悲しみも、そしてイタチのためにと苦しみ抜いて出したすべての覚悟を手放してしまった。




「…とどめを刺したのは、」





 結果的には、とどめを刺したのは信じたくないが、サスケだったのだ。

 だからこそサスケは万華鏡写輪眼を開眼することが出来たし、こうして今生き残ることが出来た。そしては一度死に、記憶を失った。

 隣でサスケを支えているの体は昔ほど酷くはなくても、同年代で一番小柄だ。皆成長しているだろうが、それでも150センチしかないはどちらにしても一番小さい。両親が二人とも長身であることを考えれば、その身長は間違いなく幼い頃、莫大なチャクラを宿した弊害だった。

 の小さな体を背負って夜道を歩いた、10歳の遠い日のことを、サスケは昨日のように覚えている。例えが忘れてしまっても。




「追って来る気はないみたいだね。」





 は透先眼の水色の瞳で後ろで見張っている忍を確認しながら、言う。

 見張り役は強いビーが倒されたのを見て、勝てないと思っているのかも知れない。ひとまずたちを見張りながら、もう一人の忍が誰かを呼びに行くべく走っていった。ならばこの場から早く離れるのが何より先決だった。

 増援が来る前に。




「ねぇ、尾獣って何?」




 は思わず尋ねる。

 尾獣は尻尾を持っている獣だと聞いていたが、ビーはどう見ても人間だった。確かに最後は尾が八本あったが、どちらが本物の姿なのか、にはよく分からない。彼は人間だったのか、それとも大きな動物だったのか。

 そしてはどこかで気づいている。

 自分も同じように、大きな鳥を自分の中に持っている。何故か出すことは出来ないが、もしももやり方を選べば、彼のように持っている鳥を出せるのではないだろうか。




「尻尾を持ってる化け物だと、前に話しただろ?」





 サスケは疲れもあってか、素っ気なく返す。





「でも、人間だったよ。」





 は意を決して、サスケの横顔を見ながら言った。サスケはの意図を理解しきれず、一瞬口を噤む。





「あれは、人柱力と言うんだ。」





 サスケの代わりに答えを返したのは、重吾だった。






「人柱力?」

「そうだ。あぁいう化け物を体の中に持って、操る人間のことを人柱力と言うんだ。」





 体の中に尾獣を飼う、封印されているのが人柱力だ。

 九尾までいるので多くても世界中に9人いる、もしくはいたことになる。もちろんそのまま自然の中に住んでいる尾獣もいるので、人柱力の数は非常に少ない。簡単に操れる物では無いのだ。とはいえ、そのうち既に七匹が、そして今捕らえたビーを含めれば八匹が暁に捕らえられたことになる。

 残りの人柱力は、木の葉におり、九尾をもっているナルト一人と言うことになる。

 は重吾の説明を理解したのか、理解していないのか、小首を傾げていたが、しばらく考えてから口を開いた。





「じゃあ、も人柱力?」

「…そう来たか。」





 サスケは大きなため息と共に言葉を吐き出す。それは先ほどから不思議な質問を繰り返していたの意図を理解したからだ。

 記憶はないが、自分の体の中に鳳凰がいることをは理解しているのだ。




「さっき言った人柱力って言うのは、生まれながらに尾獣を腹に飼っているんじゃない。後から封印されたんだ。おまえは生まれながらに持っていたわけだから、尾獣じゃない。」




 は生まれた時から莫大なチャクラを持ち、血継限界に近い形で鳳凰を持って生まれてきた。そしてそのチャクラと鳳凰の負荷に耐えられず、おそらくイタチに鳳凰の方を封印したのだろう。とはいえ、元の持ち主はであるため封印は完全ではなく、かなり融通が利き、完全にではないが鳳凰を引っ張り出すことが出来るのは、前の戦いでサスケも理解したところだ。

 むしろの鳳凰を封印されているイタチの方が人柱力に近い。他人の持つ鳳凰を封印し、おそらく操ることも可能なのだろうから。




「だったら、が、ばけものなの?」





 紺色の瞳が、不安そうに問いかける。

 きっと記憶をなくす前のも、心の中で自分の莫大なチャクラや鳳凰のことを、そう思っていたのかも知れない。うちは一族の一部の人間がを化け物と呼んでいたことを、サスケは知っている。

 それでも、記憶はなくても、サスケの心の中にはと培ってきた思い出がある。




「違う。おまえはただのだ。」




 弱くて、小さくて、馬鹿で、真面目で、純粋で、だからその重みに潰されてすべてをなくしてしまった、ただのだ。

 それ以上でも、それ以下でもない。





「…は、。」




 はよくわからないのか、それとも納得したいのか、その言葉を反芻していたが、ふと、犬神の上にのせられているビーを見上げる。





「ん?」

「どうした。」

「なんか、前より小さいね。」

「何がだ?」




 サスケはの言葉の意味が分からず、に問い返す。




「なんかこのおじちゃん、足が一本になったね。」




 は犬神の上にいるビーを見て、そう言った。

 少なくともビーは倒れてだじゃれを言わなくなっているし、天照で酷い怪我だが、それでも五体満足で小さくなったわけではない。とはいえは元々言葉が少し拙く、変なところがある。だからサスケはの言葉をただの言い間違えだと解釈した。





「そりゃ倒されたわけだからな。」




 サスケは素っ気なくに言った。




「そう、なんだ。」




 は納得したのか、小さく頷いたが、まだ不思議そうにビーの姿を見ていた。







疑問