サスケの班に倒されたゲンマから、を見たとの連絡を受けた綱手は、すぐにイタチとサクラ、そしてサイを呼び出した。
「をやはり、サスケは利用しているらしい。」
綱手は神妙な顔つきで、三人を見回して言う。
実際にの生きている姿が確認されたのは、がサクラたちと離れてサスケとの戦いに出向いてから、初めてのことだった。とはいえ任務の後に偶然サスケとその班を見つけたゲンマの小隊がサスケを捕獲するために急襲し、返り討ちに遭った際に、を見たというものだった。
「…姫は、俺のことを全く覚えていないようだった。」
ゲンマは歯がゆそうに表情を歪めて言う。
彼はの父である斎の部下だったことがあり、幼い頃からのことをよく知っている。彼が声をかけてもが分からなかったのなら、間違いなくは記憶を失った上で、サスケと共にいるのだろう。賢いサスケならば素直なを利用するのはたやすい。
の能力が千里眼を含め非常に希少である事を考えれば、早く取り返してしまわなければ里にとって非常に不利なことになる。
「姫は忍術もあまり使えないし、忘れているようだったから、おそらく」
簡単に捕まえられるのではないかとゲンマは口にしようとしたが、イタチは首を振った。
「それはない。忍術が使えなかったとしてもには白炎の自動防御がある。」
例えが忍術をなくしていたとしても、の持つ血継限界の白炎はを守るという意志を持っている。敵の攻撃を勝手に防御するだろうから、木の葉の忍が襲いかかって捕らえようとすれば、大怪我をするのは確実だ。
なんと言ってもの白炎は、他人のチャクラを燃やす。例え忍術が使えず、記憶がなかったとしてもは強敵だった。
「要するにだから、俺が行くんですね。」
イタチは納得して綱手を見る。
はイタチの恋人だ。しかしそれだけでなく、イタチにはの鳳凰とチャクラが封じられているため、それを使ってに術をかけることが可能だ。またイタチは東宮の伴侶に与えられる首飾りを持っている。あれは白炎を防ぐ効果を持っており、イタチだけが唯一白炎に対する対処方法を持っていると言っても良かった。
「…辛い任務になるかも知れない。」
綱手は執務机に頬杖をついて、イタチを思いやる。
を今利用しているのはイタチの弟であるサスケだ。彼はを一度殺して利用するために記憶を奪った上で、蘇らせた可能性もある。もちろん綱手とて幼い頃から幼なじみとして育ったとサスケが殺し合い、サスケがを殺したとは思いたくないが、証拠のすべてがそれが真実だと言っている。
イタチとて弟が自分の愛した少女を殺したとは思いたくないだろう。
だが、イタチが行く以外に道はないのだ。の白炎を押さえられる手を持つのはイタチのみであり、彼以外にを捕獲できる人間はいない。
「サイとサクラはその援護だ。特にサクラはの白炎について理解が深いからな。」
とサクラは姉妹弟子として綱手の元でこの三年間修行を重ねてきた。
サクラはの事も、術のこともよく知っている。その上医療忍者だ。記憶のないに対して何か手立てを考えられるかも知れない。
「サスケは深追いするな。ひとまずの保護を最優先とする。」
綱手としてはナルトがサスケを取り戻したいと思っているその気持ちを優先したいところだが、ひとまず記憶のないは利用される危険もあり、後々の性格からしてサスケに協力したことを気に負うだろう。だから、木の葉に帰ることを納得していないサスケよりもの保護が優先だ。
特には能力的にも希少で、サスケが暁と連絡を取り合っているとの情報がある今、すぐに取り返す必要があった。
「…綱手様、俺はもしも会えば、サスケを殺しますよ。」
イタチは目を伏せて、ぐっと自分の拳を握りしめる。
「だから、はっきり聞かせてください。サスケがを殺したんですか?」
綱手はゲンマの件を含めて、他にも情報を握っているはずだ。
また、他にも情報があったからこそ、の居場所を補足できたのだろう。綱手はイタチの質問に複雑そうな表情を返し、ため息をつく。
「雷の国から、連絡があった。」
本当に昨日の連絡だ。
「どうやらサスケが八尾を襲ったらしい。その時、万華鏡写輪眼の瞳術を使った形跡があるらしい。」
万華鏡写輪眼の開眼条件が親しいものを殺すというものだと綱手が聞いたのは、イタチからだ。だからこそ、サスケは親しいものを狙うだろうとあらかじめイタチは綱手にも言ってあった。
サスケが万華鏡写輪眼を手に入れたのは間違いない。
殺されたサスケと親しいものは、蘇った一人だと言うことは、サスケはを殺すことによって万華鏡写輪眼を手に入れたのだろう。
「…そう、ですか。」
イタチは目じりを下げ、ため息をついて覚悟を決める。
万華鏡写輪眼の発動条件は誰よりもよく知っている。サスケはを手にかけたのは、間違いないことなのだろう。ならば、イタチが里のために、そしてのためにとるべき道は、既に決まっている。どれほど弟を愛していたとしても、とらなければならない道は、決まった。
「私から、おまえにサスケを殺せと命令することはない。だが、ひとまずを取り戻してくれ。」
綱手は懇願のように命じた。
は綱手にとって孫娘のような存在だ。の母である蒼雪も綱手の弟子だった上、を蒼雪の腹から取り上げたのは何を隠そう綱手だ。かける愛情は、簡単に捨てられるようなものではない。
「は、酷い目に遭ってなかったですか?」
サクラは心配のあまりゲンマに尋ねる。
「怪我もなく、ひとまず無事だった。」
ゲンマは忘れられていたせいか、それともを取り戻せなかったせいか、辛そうに眉を寄せて頷いた。
ひとまず今のところ利用価値があるせいか、が酷い扱いを受けている訳ではないらしい。サクラはゲンマの言葉にほっとした。
サスケがを手にかけ、蘇らせたのならば、が酷い目に遭っている可能性もあるのではと、心配していたのだ。無事ならこちらとて彼女を取り返すチャンスがある。
「今、修行中のナルトには、を取り戻してから連絡する。良いな。」
綱手はこの件に関して、ナルトには連絡しないとの決断を下した。
自来也が亡くなってから、今ナルトは蛙の里で修行中の身だ。とはいえこのことを連絡すればすぐに駆けつけてくるだろう。
しかし今、ナルトには修行に集中して欲しい。これが成功するかしないかで、ナルトは里にとって重要な忍となるだろう。また自来也が死んだ今、戦力は多ければ多い方が良い。そういう点では、イタチを里から出すという行為も、綱手にとっては大きな賭だった。
「斎も帰ってきしだい、向かわせる。」
「でも、それは、」
木の葉の里にいる戦力を大きく欠くことになるため、イタチは難色を示す。
今現在火影候補として名を上げられているのは斎一人であり、同時に彼は里にとっての最後の砦でもある。彼をの保護へと向かわせれば、里は手薄になるだろう。
だが、綱手はそれでも、大切なを取り戻すことに決めていた。
「あの子は、里にとって大切な忍だ。特に透先眼が暁にとられれば、大変なことになるだろう。」
もちろんそれだけではない。けれど、綱手は覚悟を決めていた。
特には神の系譜の中でも先祖返りと言われ、始祖に非常に近い、鳳凰を持つ特別な子どもだ。他の神の系譜の動向が分からない今、後々が大きな鍵となる可能性も十分にあった。特に神の系譜の中でも炎一族の天敵となるはずの翠は滅んでいる。
今の現状として神の系譜で一番有利なのは炎だった。
「もしも里が危なくなったその時は、私が命をかけて里を守る。」
綱手はまっすぐな目をイタチに向ける。
常に死も含めて、部下に命じてきた。しかし、里が危なくなれば、次に戦うのは火影である綱手であるべきだ。それが綱手の義務である。
「頼んだぞ。」
綱手は万感の思いでイタチの肩を叩く。
「分かりました。必ず。」
イタチの言葉には強い決心が、含まれていた。
佳境