を保護するために暁のアジトに乗り込む任務が決まった時、イタチは斎と綱手に頼んで4人の人物を集めてもらった。





「いざとなったら、俺はサスケを殺すだろう。」





 その決断を、イタチはキバ、シカマル、チョウジ、そしてネジの前ではっきりと言う。





「すまないが、をサスケが殺した限りは、俺がそうすべきだと思う。」




 苦渋の選択だ。それは同時に、サスケを取り戻そうと三年前に任務を行った4人の思いを踏みにじるものでもある。

 それはイタチも百も承知だ。ナルトは納得しないだろう。

 しかし、サスケがを手にかけたというのならば、どちらにしてもイタチはサスケを許すことが出来そうになかった。愛しい弟だ。兄弟として長い時間を過ごし、可愛がってきた。今でも赤子の弟を抱いた日のことを昨日のように鮮明に覚えている。

 それでも、イタチは里を守ろうと死んでいった沢山の仲間を知っている。そしてサスケを取り戻したいと笑っていたの笑顔を覚えている。

 だからこそ、今暁として里の敵になり、まで手にかけたサスケを許すことは出来ない。





「…は、きっとそれを一番望んでいなかったと、思うぜ。」





 シカマルは俯いて、唇を噛む。

 事の顛末は聞いているが、おそらくはサスケとイタチの直接対決を一番望んでいなかっただろう。だからこそ、サスケがイタチと接触する前に自分一人でサスケを捕獲しようと、サスケとの早い相対を望んで班から離れたのだ。





「わかってる。」





 イタチの覚悟はある意味で、サスケを取り戻したいと願い続けたの覚悟を裏切るものでもある。





「それでも俺は、を手にかけたサスケを許すことは出来ない。」





 イタチもサスケも同じようにと沢山の時間を共にしてきた。

 ずっと屋敷の中で病弱故に閉じこもってきたと時間を共にした同年代の子どもはおそらくイタチとサスケだけで、同期の誰よりもの事を知っている。知っていたはずだ。


 は無邪気で、ものを知らず、いつも素直で、屈託なく笑う。


 そんな彼女を誰よりも知っていたはずのサスケが手をかけたというのならば、彼の憎しみはもう手に負えないところまで来ているのだろう。ならばそれを止めるべきなのは、同じように時間を共にしてきたイタチだ。


 彼の兄であり、の恋人であり、サスケが里を抜け、憎む原因を作った。そして誰よりも共に過ごしてきたからこそ、他でもないイタチがサスケを殺す役目を担うべきなのだ。

 万華鏡写輪眼に対抗できる忍もそれ程多くはない。




「本当にすまない。」




 もっと早く、イタチが覚悟を決めて、サスケと相対し、手にかけるべきだったのだ。

 なのに、イタチはやナルトがサスケを取り戻したいと願い、戦ってくれることに安心して、彼らにサスケのことを任せきりにしてきた。決断もせず逃げてきたその末路がの死なのだ。






「イタチさんが謝ることじゃねぇよ。俺が失敗した任務でもある。」





 シカマルは謝罪を口にするイタチに首を振る。

 そもそも三年前のあの日に任務に失敗し、サスケを取り戻せなかったのはシカマルだ。一番辛いのはイタチであり、決断を下したイタチに謝罪すべきはシカマルだった。また、の覚悟を知っていたというのにシカマルはあまりに無邪気に笑うを見て、大丈夫だと思い込んでいた。

 がサスケを見つけたとの連絡を受けたあの瞬間から、よくを見張るべきだったのだ。




「むしろ、戦力は十分なんすか?」




 シカマルは言って、ついて行く予定のサイ、サクラを見る。

 暁のアジトへの奇襲となれば、どれだけの構成員がそこにいるのかも分からず、非常に危険だ。サイは暗部の出身で、イタチも手練れだが、それでも暁の構成員の力量を見れば十分とは全く言えず、寧ろ無謀の域だ。

 一応交戦が目的ではなく、の保護だけであるため、極力戦闘を避けるとしても力不足は否めない。

 サイとサクラもそのことに対しては不安があるのだろう。シカマルの質問に視線をそらして答えることができなかった。




「斎先生が任務が終わり次第合流することになっている。」




 今、里で最高の忍と呼ばれる斎と、その弟子であるイタチがいれば連携も慣れているし、暁相手でもそうそう敗北することはないだろう。




「ただ、その分、里は手薄になるからな。」




 一人の事で里が手薄になるのは忍びないが、この決断をしてくれた綱手に、イタチは心から感謝していた。

 綱手としても辛い選択だ。その選択を支えるのは、結局の処他の忍たちになる。





「そんなの、構わねぇ。そんなことより、を連れて戻ってくれれば。」






 キバは赤丸の頭を撫でながら、言った。





「頼んだぞ。サクラ、サイ。」




 ネジはイタチとともにの保護に向かうサクラとサイに目を向ける。




「当たり前でしょ。絶対取り戻してみせるわ。」




 低い声でサクラは言って、拳を自分の胸の前で組んでみせる。




「もちろん。イタチさんの役に立てれば良いんだけど。」




 サイとしてはイタチとの初めての合同任務になる。同じ暗部だがサイはダンゾウ率いる“根”の出身、イタチは “樹”出身であり、ダンゾウの政敵である斎の愛弟子だ。重要な任務ということもあり、少し緊張しているが、失敗するわけにはいかない。




「それにイタチさんも忘れちゃだめっすよ。今回の任務はサスケを殺すことじゃない。」




 シカマルは生意気ながらも腰に手を当てて、イタチに念を押すように言う。

 例え交戦したとしても、今回の任務の目的は“の保護”で、サスケを殺すことではない。イタチの決断は苦渋のものだし、理解も出来るが、その決断故にサスケと戦いを保護できなければ任務は失敗する上、里を危険にしただけになる。





の失敗を繰り返しちゃだめっすよ。」




 はきっとサスケを取り戻したかったから、すべての人の手を振り切って、結果的に自分まで死に追いやったのだとシカマルは思う。

 そして本当ならが一番望まなかったであろう形で沢山の人を悲しませ、一番大切だったイタチが一番望まない形でサスケと相対する羽目になっている。

 はあまりにサスケを取り戻したいと思うがために、忘れてしまったのだ。

 自分が大事な人を大切に思うように、大事な人もまたを大切に思っていると言うことを。はイタチのためになんでも出来ると言ったが、イタチだってそうだっただろう。イタチものためになんだって出来ると思ったから、命をかけてチャクラを肩代わりした。

 の行為は、イタチの思いを踏みにじったとも言えるのだ。





に説教してやらねぇと、な。」





 シカマルはめんどくせぇけどと言いながら、軽く言う。


 は思い詰めるが故に勝手な行動をすることのあるをいつも諫めていた。真面目なのは良いことだが、仲間としては迷惑をかけるからと言って一人で行動されれば逆に迷惑なときもあるのだ。帰ってきたら、説教しなければならない。





「私も一発殴らないと気が済まないわ。」





 サクラはそれに呼応するように笑って見せる。





「そりゃ怖ぇな。はしばらく戦闘不能だな。」

「それくらいで良いだろう。姫は無理ばかりしすぎだ。」





 キバは肩を竦めたが、ネジは少し冷淡に言った。

 動けないくらいにしておかないと、の事だ。勝手にまたサスケを取り戻すと出て行きかねない。そういう点ではもナルトも同じで、誰かを大切に思うが故に勝手なことをすることも多かった。ついて行く方の身にもなって欲しいと言うところだ。





「それにサスケのことは、俺たちも同じ思いっすから。」






 シカマルはイタチをまっすぐ見て言う。

 こうなった以上、自分たちとて覚悟を決めるべきなのだ。そしてサスケを殺すのならば、それは一度は殺されたとも、サスケとも同期であり、時間を共に過ごしてきた自分たちの役目だ。






「俺たちは、一緒に歩いて行くって決めたんだ。」





 ナルトや、そして同期の仲間たち。里の人々。そう言ったすべてと一緒に歩いて行くと決めたのは、シカマルだけではない。





「そうよ。一人、イタチさんひとりで背負うなんて、おかしいわ。」




 サクラはシカマルの言葉に呼応するように、イタチを見上げて言う。

 背負うならばイタチ一人ではなく、全員一緒であるべきなのだ。も一人で背を負うとしたから、取り返しのつかない失敗した。とはいえ、それを取り戻すのも、結局はサクラや仲間の仕事だ。





「…もサスケも良い友達を持ったな。」





 イタチは目を細めて、頼もしい後輩たちを眺める。

 もっと早く、もっと早くが彼らに助けを求めることが出来たならば、あんな事にはならなかっただろう。

 それはイタチも同じで自分の心を戒めながら、少しだけ心が軽くなったことに感謝した。







決別