サスケたちは基本的に傷が癒えるまでは暁のアジトで滞在することになっていた。





「託児所ですねぇ。」





 そう言ったのは傀儡で遊んでいる少女を見た鬼鮫だった。

 少女は最近暁に入ってきたうちはサスケの連れで、サスケたちは八尾にやられた傷が癒えるまでは暁のアジトに滞在する予定になっていた。

 肩までの紺色の髪に、紺色の瞳。顔立ちはそつなく整っているがどちらかというと目が大きく色白で童顔と言うこともあり、年齢の割に幼く見える、ということだ。サスケと同い年だというのだが、小柄さとその幼げな雰囲気から同い年には到底見えない。

 何を考えたのかうちはサスケはこの少女を一度殺し、記憶をなくした彼女を今は飼っているらしい。記憶をなくしたのは偶然だったはずだが、殺すほど憎かったはずの相手を何故飼っているのかは謎だ。後のちは飼い殺すつもりなのかは、鬼鮫にとって興味以上の感情はないので、知らない。

 暁は陰鬱な空気を漂わせており、皆当然だが大人やS級の犯罪者ばかり。

 その中でアジトの中が退屈だと歩き回るは本当にただの子どもで、結局が落ち着いたサソリの住処を“託児所”と表現する鬼鮫の気持ちもよく分かるものだった。





「うるせぇ。話しかけんな。」





 サソリは傀儡を踊らせて遊んでいるを放置で、自分は熱心に傀儡のメンテナンスにいそしんでいる。

 でサソリから教えて貰った傀儡遊びが存外楽しいのか、いじくっては自分で踊らせてを熱心に繰り返していた。不思議なことに会話と言うべき会話はないのだが、お互い同じ空間にいることに不快感を覚えることはないらしいので、サソリとは何故かうまくいっている。

 ちなみにの遊び人形にされている傀儡人形の見た目は大きくて柔らかそうで丸い、ひよこの人形だった。どうやら彼女は丸いものが好みらしい。

 何故そんな丸いひよこのぬいぐるみのような傀儡がサソリの処にあったのか。それ自体も不思議で思わず鬼鮫は首を傾げてしまった。






「それにもうすぐ保護者が迎えに来る。」 





 サソリは納得出来ない鬼鮫に素っ気なく言う。鬼鮫が言われて気配を探るべく扉の方を眺めていると、しばらくしてノックもなく扉が開いた。




、行くぞ。」




 現れたのはの飼い主であるうちはサスケだった。





「もっ、ちょっと。」





 は先ほどから熱中している傀儡遊びをすぐに終えることが出来ないのか、傀儡の足を付け替えながらサスケの方も見ずにぐずぐずとそれを押さえている。




「何をやってるんだ。」






 飼い主としては呼び戻せばすぐに戻ってきて欲しいところだろう。

 彼は何をやっているのかとの手元をのぞき込んで、それが丸い傀儡だと気づくと大きなため息をついた。






「もうちょっとでこれが、はまりそうなの。」

「はまらないのか?」

「押し込んでるもん。」





 は傀儡の足を押し込みたいらしいが、どうやらかなりきちんとした継ぎ目になっているらしく無理矢理はめ込まなければ駄目なものだ。もともと腕力のないには出来ない話で、しかもチャクラコントロールも記憶と一緒に吹っ飛んでいるため、うまく入らない。

 とはいえ丸くて黄色いひよこの足だ。小さくてそれ程目立つ物では無い。





「もう戻るぞ。」




 サスケがため息を隠そうともせずに言うが、は立ち上がろうとしない。




「あぁ、それ持って帰っても良いぞ。」

「本当?」

「…」





 サソリの申し出には嬉しそうな声を上げたが、サスケは無言。

 はしゃぐの隣で仏頂面ながら何も言うことは出来ず、その黄色くて丸いだけのぬいぐるみのような傀儡を眺めていた。





「すごいんだよ。足をつけるとね、走るんだよ。」





 が自慢をするが、それになんの価値があるのか、当然サスケには分からない。もちろん見ている鬼鮫にもさっぱり分からなかったが、嫌な顔をしてため息をつきたくなるサスケの気持ちは十二分に分かった。

 と、ふとの瞳の色が水色に変わった。





「…あ、あれ?お兄ちゃんいるよ。」




 はふと上を見上げて、サスケに言う。




「?」

「3人、いるよ。上の階。あ、でももう一人いるかも。」





 遠目の力を持つは侵入者に気づいたらしい。

 不安そうにひよこの黄色いぬいぐるみを抱きしめて、サスケを窺うように見上げた。は戦闘能力を失っているため、戦いに関しては完全な役立たずだ。





「…どこの忍ですかねぇ。」





 暁のアジトを補足して、その上で乗り込んでくると言うことは、かなりの忍だ。鬼鮫が言うとサスケは慌てた様子での手を引いて立ち上がらせた。





「どうするか。」





 を隠さなければいけないが気配を消すことも出来ない上、ここに乗り込んでくるほどの忍ならば探索、感知能力もあるだろう。今のでは簡単に見つかってしまう。

 それを承知でどこかに隠すか、それとも手元で守るために側に置くか。

 咄嗟に迷ったサスケは自分の仲間が別室だと言うことも視野に入れて、ひとまずを自分の背中に庇いながら、天井を見やる。





「一体どこのどちらですかね。こっちが気づいていることに気づいているのか。いないのか。」

「え、気づいてると思う。なんか、」





 は鬼鮫の疑問に酷くういた、のんびりした声音をだす。





「わたしと同じ目の人がいるから、」

「はぁ?!」

「何!?」




 サソリとサスケが同時に顔色を変えた。



「え?」




 は呆然としている二人にのんびりと聞き返し、鬼鮫も「ん?」とうるさい二人に目を向ける。だがサソリとサスケにとって驚きは当然のことだった。

 と同じ“目”を持っているのはこの世界に一人だけ。の父親であり、木の葉の中でも有数の忍である火影候補・蒼斎のみだ。





「外に出るぞ。」




 サソリは言い切り、近くの隠し扉を開く。

 ここは建物の中で見晴らしも悪い。その条件は中距離戦闘を得意とするサソリにとって決して悪いものではなかったが、透先眼で死角のない斎とやり合うのにはどう考えても遮蔽物の多い建物の中は避けるべきだ。相手は見えているのに、こちらは見えていない事になる。





「そうだな。、先に行け。」





 サソリの意見に納得し、隠し扉にサスケは先にを押し込み、外へと出す。

 透先眼を持っている斎に既に補足されているのならば、今から逃げたとしてもどうせ無意味だ。彼の視界は基本的に50キロ強。明確にこちらを意識して追ってきている、今から50キロ圏内から捕まらずに出るのはほぼ不可能で、どちらにしても暁の誰かが迎撃に出なければならない。

 サスケもなんだかんだ言って里にいた頃は下忍だったため斎の恐ろしさを目の当たりにしたことはないが、それでもその基礎能力の高さは知っている。




「結局来てるのは誰ですか?」

「風伯・蒼斎だ。」




 サソリが鬼鮫に答えると、鬼鮫も顔色を変えて、にたっと人の悪い笑みを浮かべる。





「これはこれは、木の葉の英雄ではないですか。」

「なめんなよ。あいつはあほの皮を被った化け物だ。」





 サソリと斎は幼なじみで、互いの利点、恐ろしさはお互いによく知っている。






「だが、こっちは三人だぞ。」






 サスケは一応が外への道へ歩き出したのを確認してから、サソリに問う。

 こちらは暁の本拠地で、構成員がサスケも含めてサソリと鬼鮫で三人。他にもサスケの仲間が三人おり、計6人がいる。が戦力外で誰かが庇ったとしても、斎が来たと言うことはの捕縛のために動いているだろうから、を傷つけることはないだろう。

 6人もの忍を相手に、斎といえど簡単にいくのだろうかと問うと、サソリは馬鹿にしたようにサスケに笑った。





「馬鹿かおまえ。斎が出てきたって事は、恐ろしいお連れもおそろいだろ。」






 今や重鎮となってしまった斎は滅多に任務で里の外には出てこない。出てくるのは暁の構成員を殺したりなど、本当に強い相手を殺す時や彼しかこなせないような難しい任務だけだ。そしてその時に連れてくる班員は絶対に決まっている。






「イタチか、雪のどっちかも来てるはずだ。」





 愛弟子のイタチか、妻の蒼雪か、どちらを斎が連れてきていたとしても、恐ろしい相手だと言うことをサソリは痛いほどよく知っていた。



危険