暗くて狭い通路を出ると、光が目を焼く。外に出ると今日は随分と良い天気で、太陽がまぶしく、清々しいほどの青い空がそこに広がっていた。
「うぅ、」
は目を細めて自分の着物の袖で目の上に傘を作った。
「早く出ろ。」
サスケの声が響いて、背中をとんと押される。
狭い通路は一人しか通れないし、出口も狭いため、が出口のところでじっとしていると後ろからやってくるサスケが出ることが出来ないのだ。
暁のアジトは地下にあったため昼でも暗い。そのためサスケも外の眩しさに目を焼かれたのか、同じように目を押さえて何度か瞬いた。サスケの後ろからサソリ、そして体の大きな鬼鮫が随分と窮屈そうに出てきた。
「追ってきますかねぇ。一応入り口は壊したのですが。」
鬼鮫は最後にこの通路に入ったので、部屋からの通路は破壊しておいた。
「どうせ追って来る。透先眼から逃げられねぇ。それもこの近距離じゃな。」
サソリは斎の能力をよく知っている。遅かれ早かれ、追いつかれるのは時間の問題だ。ならば自分たちの都合の良い場所に相手を追い込んだ方がまだ良い。
「、追ってきてるのは、4人だと言ったな。」
サスケは目がやっと光りに慣れてきたため、改めてに尋ねる。
「う?うん。とそっくりで同じ目の紺色の髪の男の人と、黒い髪の男の人が二人と、桃色の髪の人。」
「うちはイタチか。雪よりまだましだな。」
の答えにサソリは舌打ちをしたが、ひとまず勝てるチャンスはあるだろうと息を吐いた。
の母である蒼雪が出てきては、傀儡を白炎ですべて破壊されてしまうため、正直サソリには勝てる手が皆無と言って良かった。対してイタチならば難しいし手練れなのも承知だが、まだ勝てる手段はいくつかある。
「それにしても絶滅危惧種の蒼一族に二人も会えるとは。光栄ですねぇ。」
鬼鮫は心にもないことを言って笑う。
一〇〇年前には予言の一族として名を馳せ、蒼一族が一人いれば戦況が変わるとまで言われた血継限界の透先眼も、今となっては唯一斎との父娘二人が受け継ぐのみで、予言の力はほぼ斎のみしか受け継いでいない。
まさに今となっては絶滅危惧種と言うに等しい一族だ。
「そう、余裕ぶっこいてられんのも今のうちだからな、なんたってあいつは白炎使いの雪と互角にやり合える男だぞ。」
サソリは強いものと戦えることに喜ぶ鬼鮫を諫めて呆れた視線を送った。
「サスケ!無事か?!」
香燐の感知でやってきたのか、重吾と水月が慌てた様子で外に駆けてきているのが見えて、サスケは少しほっとした。
「四人来てるぞ、」
「知ってる。が見た。」
香燐にサスケは淡々と言って、の方を見やる。
「水月、香燐、おまえらはと一緒に後ろに下がってろ。」
「でも、君だってこの間の傷が治ってないだろ?逃げた方が良いんじゃ無いか?」
水月は心配してサスケに言う。
「どうせ逃げ切れやしねぇ。邪魔だからおまえらは下がってろ。」
サソリはぐだぐだと言う水月に冷たく言い捨てて、の方を見やった。
「おまえはどうしたいんだろうな。」
サソリが思うに、わざわざ危険承知で斎が里から出てきたのは間違いなく娘の保護のためだ。娘を保護すれば基本的に暁の殺害が目的ではないから、すぐに退くだろう。ならば、この場でをとっとと切り捨てて引き渡してしまった方が、正直簡単にすむ。
だが、何も覚えていないにとって見た目そっくりの斎に興味はあるようだが、それでも父親と覚えていないし、イタチに関しても恋人だとは覚えていない。サスケに懐いている今のを返すのは、気の毒なのかも知れない。
そこまで考えて、サソリは自分にため息をつきたくなった。
後々のことを考えると間違いなくを里に早い段階で帰すことがのためである事はサソリでもわかる。でもこんな事を暁にいながら考えている時点で、結局のところサソリはに甘いのだ。
「みーつけた。」
明るく、随分と男にしては高い声が響く。
あまりにも暢気で間延びした声と共にそこに現れたのは背の高い、中途半端な長さの紺色の髪の男だった。普通の白いシャツにパーカーという一般人のような出で立ちだが、好きは全くと言って良いほど無い。ズボンの端にはつり下げるように木の葉の額宛があった。背が高いくせに童顔で、無邪気な笑顔が近くで見れば驚くほどにそっくりで、香燐を初め全員が目をぱちくりさせる。
サスケとサソリだけが同時に舌打ちをした。
「…先生。」
隣で弟子のイタチがもの言いたげな表情で彼を呼ぶ。その後ろにはサイとサクラがいて、のいる位置を確認していた。
「お久しぶりだね。三年ぶりかな。サソリ。」
「相変わらずむかつくくらいに変わりねぇな。」
「人間そんなに変わらないものだよ。」
「まったくだ。」
サソリは悪態をついて、斎と相対する。
「あと、えっと、誰だっけ?」
斎は見覚えのない鬼鮫の方に目を向けて首を傾げる。
「先生。彼は霧隠れの怪人と恐れられた元忍刀七人衆の一人ですよ。」
イタチは呆れた様子で斎に言った。
暗部の始末するべき忍の表にあったという事は、暗部の親玉である斎とて本来なら見たことがあるだろう。だが、完全に失念していたらしい。
「私は干柿鬼鮫。以後お見知りおきを。」
鬼鮫は手練れだと有名な斎ににやりと笑って挨拶をしてみせたが、斎には見覚えがなかったのか、無言で首を傾げて、イタチの方を振り向く。
「そういえば、見たことあったかも?」
へらっと斎はいつもの無邪気な笑みを浮かべて頭をかりかりとかいて、後ろにいるサクラとサイを振り返る。
「説明通りにね。」
「はい。わかってます。」
「サクラの援護をします。」
サクラとサイはそれぞれ頷いた。
サクラの手には小さなガラスの球が握られている。この中にはチャクラを封じる術式が刻まれており、にぶつけることで一時的ながらの白炎を封じることが出来る。その上術式と共に結界も入っており、これをぶつけることで捕獲は完了だ。
「さて、イタチ、先走ったら怒るからね。」
斎は一応イタチに注意して、改めて敵となった幼なじみであるサソリ、弟子の弟であるサスケ、そして初対面の鬼鮫に向き直る。
斎は存外弟子のイタチが無鉄砲である事を知っている。特に斎の前だとそれをフォローしてくれると分かっているせいか、非常に生意気で勝手な行動をする傾向にあった。それが同僚からの批判を買っていた部分は十分ある。
だが今回は3人相手であり、余裕はない。勝手な行動をされるとこちらとしても非常に困った事態になる。
「…わかっていますよ。」
イタチはそう答えて、3年ぶりに見る弟を睨み付けた。
再会