「あの人、わたしとそっくり。」






 は自分とそっくりの顔をした青年と言うべき年頃の男をじっと見つめる。





「目も同じ。あの人は誰?」

「非常に強い忍だ。」





 重吾はが難しい言葉を理解しないため、端的に説明した。

 またサスケがを里に戻したくないことも理解している。と斎の血のつながりは明らかだが、サスケはそのことを口にして欲しくはないだろう。





、ひとまずうちらは下がるぞ。特にあっちの奴、尾獣みたいにやべぇチャクラをもってんぞ。」





 香燐は斎の隣にいる黒髪をうなじで束ねた男を見て、の腕を引っ張って焦ったように促す。





「え、あの人、夢の中のお兄ちゃん。」

「え?」






 は目を瞬いて、イタチを凝視する。





「おまえ、イタチを覚えているのか?」




 サスケはを振り返り訝しげに問うた。

 イタチはの恋人だった。記憶をすべて無くしたとは言え、覚えていてもおかしくないとサスケは思ったが、そういうわけではないようで、は首を振る。





「ん?…よくわかんないけど、夢の中で会うの、悲しそうな目をした、お兄ちゃん。」

「夢の、中?」

「うん。大きな鳥がいる、夢の中。」





 は心の中で、大きな鳥を飼っている。それはすべての記憶をなくしてからも、ちゃんと知っていた。いつも眠っているその鳥に近づいたことがないのは、あの人がを鳥が眠っている湖に近づけようとしないからだ。

 何度か話したこともある。





「…さて、サスケ。君は何をしたいのかなぁ。」







 斎はまっすぐサスケを見据えて尋ねる。





「君は暁に入って、何を望んでいる。」




 どうしてを殺したとは問わなかった。証拠としては確かにを一度殺したのは間違いなくサスケだろうと言われているが、それでも斎はサスケがとイタチに抱いていた複雑な感情を知っている。だからこそ、そこについては言及しなかった。





「…オレは、うちは一族を利用し続けた元凶である里を許さない。」





 サスケはぐっと拳を握りしめ、あまりに純粋で綺麗な、によく似た紺色の瞳を持つ斎に、言葉をぶつける。





「オレたちの不幸の上に、へらへら笑っている奴らが許せない!」




 うちは一族を邪魔に思ったのは上層部とそしてダンゾウだった。イタチを利用して密告させ、うちは一族の裏切り者として自分や他の生き残りにイタチを恨ませることで里へ憎しみが向くことを避けた。そして炎一族にうちは一族を捕獲させることによって二つの一族を殺し合わせ、消耗していくように仕向けた。

 そうやって誰かを犠牲にすることによって里は成り立っている。





「あんただって、わかってんだろ。」





 斎だって暗部の一員だ。

 ダンゾウ率いる暗部のやり方に逆らうために“樹”をダンゾウ率いる“根”に変わって立ち上げ、火影と上忍会を仲間に引き入れる形で上層部と組むダンゾウに対抗した。どれほど里が里のためという名の下に、酷いことをしてきたか彼だって知っているはずだ。






「だから、どうしたいの?」

「決まってる、やった奴らに復讐するだけだ。」





 今となってはイタチが自分を守るためにダンゾウの言うことを聞いたことも、密告したことも、そしてが炎一族を率いて何故うちは一族を狩っていたのかも理解している。だから彼らを恨むことは本当はもうない。

 しかし元凶となった奴らを許す気も無かった。





「そのために、を殺したのか。」





 ずっと黙っていたイタチが口を開いた。それは悲しみと怒りを押し殺すような、低い声音で、近くにいたサクラの方がびくりとする。

 底冷えするようなその声音にゴクリと唾を飲み込んで、サスケははっきりと頷いた。





「その通りだ。」





 がサスケの言葉に目を丸くする。それが、戦いの合図だった。





「イタチ!」






 斎が止めるのを聞かず、イタチが一歩踏み出す。それと同時にサスケも一歩踏み出した。一瞬にして二人の目が緋色の写輪眼に変わる。

 きんっと金属音を響かせて、サスケの刀とイタチのクナイが交わった。




「言ったのにねっ、もう!」




 斎は仕方なくもう一度サクラとサイに目配せして合図を与えてから、印を組む。




「水遁・水龍弾の術!」

「水遁・爆水衝波!!」





 鬼鮫が斎の水遁を迎え撃つ。その大きさに水龍弾を飲み込まれた斎はひゅぅっと軽い口笛と共に、自分の目の前に土遁で壁を作り出し、水遁を防いで見せた。だがその斎にたたみかけるように、サソリの傀儡の刃が襲いかかる。





「斎さん!」




 サクラが二人を相手にしている斎に叫ぶが、斎は軽やかにその刃を避けながら安心させるように大丈夫だとにこりと笑う。

 サクラとサイにはそれぞれの仕事がある。





「さて。」





 斎は刃を避けながら考えを頭の中で巡らせる。透先眼によって与えられる全方包囲死角なしの視界のため、単純攻撃を避けることは非常にたやすい。

 元々イタチと斎で暁の構成員を押さえている間に、サクラとサイがを確保し、すぐに撤収というのが主な作戦だった。イタチと斎は連携が得意であり、もともとそういう形での任務も幾度も繰り返しているから、付け焼き刃の連携の暁に対してなら3,4人相手でもどうにかなると思っていた。

 だが、イタチはサスケを相手にしており、完全に我を忘れている。

 この状態では斎がサソリと鬼鮫、二人の相手をしなければならず、挙げ句まだには3人の忍がついている。サクラとサイにもかなりの負担がかかるので、ひとまずサスケを見て我を忘れているイタチを連携に引き込むのが第一条件だ。

 サクラとサイも取り戻したいと願うを前にして、長く待つだけの忍耐力はないだろう。




「どうしよっかな。」




 簡単な相手でないことを斎は知っているが、感情というのは総じて御しがたい難しいものだ。





「まぁったく。困った子たちだ。」




 サスケとイタチが戦っているのを見て、酷く狼狽えた表情をしている娘のは、まったく昔と変わっていない。イタチがサスケをおちょくったり、揉めているのに戸惑っていた幼い頃と記憶を失っても何も変わっていないのだ。




「水遁・水牙弾」





 鬼鮫がサソリの攻撃をすべて避け終わって未だに空中にいる斎めがけて水遁を打ち込む。斎はそれを別の方向を見ながらも確認していたため、目を閉じ、意識を透先眼に集中させる。





「白盾、」





 その言葉と共に出現した盾が、鬼鮫の攻撃を跳ね返すが、微妙に斜めを向けられた盾は水の刃をサスケとイタチの方へと飛ばした。

 突然の横からの攻撃に、イタチとサスケは慌てて間合いをとり、その水の刃を避ける。





「先生!?」





 イタチは驚いて斎の方を振り返った。斎は計算ずくで戦うタイプで、そんな単純なミスをするはずもない。





「…イタチ、」




 斎は腕を組んでいつも通り笑っていたが、珍しく笑顔の後ろに黒いオーラを背負っている。





「…すいません。」





 あ、珍しく怒ってる、と思ったイタチはすぐに謝る。

 思わずサスケを見て、の事を聞いてしまい、苛立ったのだ。我を忘れてサスケを殺さなければならないと思ってしまった。シカマルにすらも、諫められたというのに。





「余裕ないんだから、勘弁してよ。」





 斎の隣まで退いてきたイタチの肩を軽く叩いて、斎は息を吐く。これ以上勝手に突っ走って問題を作るのは、まっぴらごめんだった。








手間