「ダンゾウ、交代だよ。」








 明るい声で五影会談にイタチと共にかみ切れ一枚持って入ってきた斎に、全員が呆然とする。





「何?」

「あ、ちなみにこれ、大名からの委任状ね−。」





 ダンゾウは怒りと戸惑いの入り交じった殺気を斎に向けたが、斎は全くかまいもせず、ひらひらと紙切れをダンゾウではない他の影たちに見せる。





「…父上って、怖くないのかな。」






 はイタチの後ろに隠れて影たちのやりとりをじっと見る。

 ダンゾウと話している他の影たちは一瞬即発だったというのに、暢気に斎はその中に乱入していった。今だってダンゾウは完璧に殺気を斎に向けているのに、彼は全く気にしていない。彼が話せば話すごとに殺気は強くなっているのに、平気そうだ。






「…斎先生は異空間に生きているんだ。」







 イタチは怯えているを宥めるように頭を撫でてやって、息を吐いた。





「謀ったな!?」





 ダンゾウは声を荒げて机を叩いて大きな音を出す。だが斎は肩を竦めてぺろっと舌を出しただけだ。





「うん。でも今回は謀ったって言うより、人望の問題かな。」





 正直斎には全くと言って良いほど火影になる気はなかった。だが上忍会と暗部に共同で押し上げられればどうしようもない。





「…これは、火影は交代ですかな。」




 この会を取り仕切っているミフネが、ため息をついてふむと一つ頷く。ダンゾウがあくまで火影候補者の身分である事を聞いていたので、正式な委任状を持っている斎が火影に決まったと判断すべきだ。となれば、代表者は交代である。





「…貴方は。」






 砂影の我愛羅も斎のことは何度も見たことがある。





「おまえ、風伯・斎か。」





 土影のオオノキは手を組んだまま、斎に言った。何度も交戦したことがあるため、お互い顔見知りだ。とはいえ前の忍界大戦以来なので、なんだかんだ言っても15年ぶりだ。





「うわっ、オオノキのじいちゃん、生きてたんだ。」

「相変わらず失礼な奴だ。口の利き方も知らん。とはいえ、ダンゾウよりはましか。」





 オオノキは大きなため息をついてダンゾウを軽く睨んでから、斎に目を戻した。

 信用ならず裏工作ばかりを重ねてきたダンゾウに比べれば、理想論者で多少甘い所のある斎の方が信頼という点ではまだましだろう。特に同盟を組むうんぬんの話をするならば、なおさらだった。






「うん。お久しぶり−。エーのおじちゃんも見てみて、大名からの委任状。」






 斎にとって雷影であるエーとは四代目火影のミナトがいた頃には何度となく交戦した好敵手であり、今となっては喧嘩仲間みたいなものである。






「…本当におまえ、変わっとらんな。おまえがここに来たと言うことは。おまえが火影か。」





 自慢するように清々しい顔で書類をエーに突きつけると、エーは頭痛がするとでも言うように額に手をやった。





「なんかね。適任者がいないんだって。」

「当たり前だ。蒼のうつけ!おまえは四代目が死んでから一体何ふらふらしとった!」

「だってーめんどいんだもん。」





 斎は勢いのままに叫ぶエーに軽く言って腰に手を当てる。





「僕まだ若いのにこんな役に任じられちゃって、過度な期待は若者の自殺を…」

「30歳超してぐだぐだ言うな!」






 エーは斎を怒鳴りつけると同時に机を叩いて斎を黙らせた。

 は知り合い通りなのだろうと推測できたが、あまりに恐ろしい覇気と殺気の飛び交う場所で平気な顔をして悪態をついている父親に目をぱちくりさせ、イタチはエーと同じで頭痛がするのかこめかみを押さえていた。





「そこの二人は護衛か。」





 オオノキは警戒するようにイタチとに目を向ける。





「うん。僕の愛弟子と娘。」





 斎はひらひらと手を振って、二人をそれぞれ指さした。





「なら、そやつもうちはか!」






 エーは憎しみと憤りの入り交じった目でイタチを睨み付ける。

 斎の愛弟子が有名なうちは一族出身の手練れである事は既に有名な話だ。義弟であり八尾であるビーを誘拐され、その犯人であるサスケ抹殺を五影会談の議題に出してくるエーにとって、同じ一族、しかもサスケの兄であるイタチは十分怒りを向ける対象なのだろう。

 イタチは眉を寄せて戦闘態勢をとったが、慌てたようにミフネが口を開く。





「ここでの忍術の使用はおやめください。信頼関係に関わりますぞ。」





 先ほど敵を倒すためとはいえ忍術を使ったダンゾウによって揉めたところだ。宥めるミフネを見て、エーは舌打ちをした。





「やっだなぁ。イタチは何もしてないよ。ましてや今や僕の義理の息子だよ?」

「なにぃ?!」

「うちの娘とイタチが婚約してるから。」





 あまりの話しに呆然としているエーを前に斎があっさりと言うと、オオノキはふーとまた一つため息をついて納得したような顔をした。





「相変わらず蒼一族は結婚政策がうまいのぅ。」





 蒼一族の成り立ちや経緯、また木の葉において100年近く前に行った千手、うちは一族との婚姻政策を知るオオノキにとって、婚約の話は別段おかしい物では無かった。斎もまた、炎一族の一人娘だった蒼雪を妻にして婿入りしている。

 別段おかしな話ではない。





「サスケ抹殺計画に、まさかサインをしないとでも言うわけではあるまいな。」






 エーは斎を睨み付ける。

 娘がうちは一族と結婚するなら、サスケも近しい親族と言うことになる。まさか親族だからとサスケを許すとでも言うのか、と警戒するエーに斎は肩を竦めた。





「…今は火影だからねぇ。里のためならサインもするけど。」






 斎は火影の証である帽子を振って、立ち上がったダンゾウの代わりに席に着く。

 ダンゾウの部下である二人も斎を睨み付けて襲いかからんばかりの態度だったが、イタチが睨めば彼らも怯んだのか、一歩後ずさった。斎はそんなダンゾウや部下に目を向けることもなく、くるくると火影の帽子をまわしてみせる。





「貴方、良い男ね。」





 水影である照美メイは初めて見る斎ににこりとしとやかな笑みを見せる。





「有り難う御座います。貴方もおきれいな方で。」





 斎もさらりと世辞を返して、進行役であり、まとめ役でもあるミフネを見やった。





「ダンゾウが君を写輪眼で操ったことは本当に申し訳なかったね。火影がきちんと決まるまでだったとは言え、申し訳なかったと思うよ。」





 ダンゾウとは違い、あっさりと謝る上に人当たりの良い斎にミフネは少し戸惑いの表情を浮かべたが、部下がミフネの傍にやってきたので顔を上げる。





「ミフネ様。」





 部下はミフネにいくつかの言葉を耳打ちした。

 どうやらこの五影会談に侵入してきた人間がいるらしい。斎は退屈そうに相変わらず帽子をまわしていたが、それを聞いたエーがぎろりと斎を睨んだ。





「下で騒いでいる輩は、誰だ。おまえなら、分かるだろう。」





 エーは何度も斎と交戦しているだけあって、斎の透先眼の能力をある程度は知っている。彼にとって数キロ先の戦いを観察することなどたやすいはずだ。だから誰と誰が戦っているかも知っている。要するに斎は分かっていて無視している。




「サスケ、だけど。」




 斎はなんの感動もない声音で、あっさりと言った。




「何?!」



 エーはまさか斎が無視しているのがサスケのことだと思わなかったが、義弟ビーの仇が近くにいると聞いて我慢できる性分ではない。




「行くぞ!!」





 隣にあった壁をぶち破り、部下を連れて走り去って言ってしまった。




「あー。行っちゃった。」





 斎は面倒臭そうにため息をつき、くるくるとまた帽子をまわす。





「先生、」

「イタチは駄目だよ。言っただろ。君は僕の護衛だ。離れてどうする。」





 行きたくてうずうずしているイタチを軽く止めて、斎は透先眼で水色のになった瞳で、現在の視界と戦っているサスケとを同時に見据える。

 斎は目の前で別々の行動を始めた他の影を見て、困ったなと誰よりも思っていた。



会談