我愛羅と斎も加勢してみたが、結果的にはサスケが柱を壊したことによって足止めされ、サスケに逃げられる羽目になっていた。





「逃げられちゃったね。エーのおじちゃん。止血しようか?その子よりは早いと思うけど。」





 斎は雷影のエーが左手を失ったのを見て、尋ねる。

 一応彼の部下のシーが止血をしていたが、元が感知専門であるため、遅い。対して斎は昔からチャクラコントロールが得意で、医療忍者のサクラが感動するほどに医療忍術もうまかった。





「早くしろ!!」

「耳元で怒鳴らないでよ。もー。」





 斎はわざとらしく耳を塞いでから、エーの傷を見やる。

 もう少しエーが待ってくれれば天照もイタチの万華鏡写輪眼でどうにか出来たのだが、何分短気なエーだ。あっさりと左手を犠牲にすることを決めた決断の早さには感動するが、時には待つということも重要だと斎は冷静に切れた腕を見る。





「傷が治り次第すぐにサスケを追う。」





 エーはそう言って斎をまたせかす。





「分かってるってば。僕はやる気ないけど、ってかサスケもやる気ないみたいだけどね。」





 斎はため息をつきながら、自分の水色の瞳−透先眼でサスケの動向を追っていた。とはいえ片目で目の前の視界を、片目でサスケを追っているため、他のことにまで手は回らない。




、ダンゾウは追ってる?」




 斎はエーの傷を見ながら、に問う。

 忍術はすっかり忘れてしまっているだが、それでもその透先眼を使用するには何ら問題がない。そのため斎はサスケと交戦する前からあらかじめに“隠れてダンゾウの動向を目で追え”と言ってあった。

 イタチにもから離れないように言ってあったため、サスケとの戦闘に巻き込まれることもない。イタチはサスケを見るとやはり自分が殺さなければと思う所が大きいらしく、すぐに動こうとするため、はある意味で良いストッパーになった。

 今回ばかりはイタチが庇わなければは本当に巻き込まれて死ねる。





「うん。逃げちゃったよ。会談の会場から。」






 イタチの服の裾を持っているは、斎と同じ水色の瞳で振り返り、少し不安そうに言った。






「水影と土影は会談の場にとどまってるんだね?」

「うん。」





 は片方の目でダンゾウを、もう片方で先ほどまで斎たちがいた会談の会場を見張っている。

 そのためは現在の視界が見えていないため、イタチの服の裾を掴んで離れないようにしている。イタチをの傍に残して戦いに参加させなかったのも、ダンゾウや他の影にを確保されては困るし、ダンゾウや他の影がどう出るかを観察しておきたかったからだ。




「すごい能力っすね。」




 ダルイは思わずと斎の透先眼の効能に感嘆する。

 透先眼に死角はなく、非常に広範囲を見通すことが出来ると言うのは有名な話だ。しかも二人は片目ずつで別の視界を見ることが出来る。しかも当たり前のように話していると言うことは、それ程難しいことではないのだ。

 別の場所にいながら手に取るようにもう一つの場所の情報を知ることが出来るなど、夢のような能力である。





「だから大戦時代、奴らを殺すためにワシらは多大な犠牲を払った。」




 雷影であるエーはため息をついてダルイに言う。

 たった一人の蒼一族の人間が戦場で指揮を執ることで、こちらのすべての居場所がばれてしまう。多大な犠牲を払ってまず最初に透先眼を持つ人間を殺すことが、最大の任務となった。四代目火影となったミナトが斎と同じ班に常に配属されていたのは何も兄弟弟子であっただけではない。

 強い忍であるミナトを斎の盾にするためでもあったのだ。






「今となっては残ってるのは、僕とだけだけどね。」





 斎は何でもないことのように言うが、事実は非常に重い。

 結果的に狙いうちにされた蒼一族の末裔は元々人数が少なかったこともあり、斎との二人を残してすべて殺されたと言うことだ。その中には、斎の両親も含まれている。

 戦争の恐ろしさは、狙い撃ちにされ、肉親のすべてを奪われた斎が一番痛いほどに知っている。





「サスケは会場に行くみたいだね。OK、。会場を見てる方の目の視界を戻して良いよ。サスケが会場に向かっているから僕が見る。ダンゾウはそのままで。」

「あい。」





 は返事をして、今まで五影会談を見ていた視界を元に戻す。

 サスケは一端ダンゾウ本人が先ほどまでいた五影会談の会場に足を踏み入れたようだ。サスケのことは斎が透先眼で追っているから、サスケが会場に入るのならば、これで会談の会場をが見張る必要はなくなる。

 片方の視界で今の状況が見えるようになったは目を丸くした。





「酷い。」





 イタチに庇われていたためは無事だったが、辺りはがれきの山で、所々に人だったと思しき手や足が転がっている。他にも転がっている侍の遺体を前に、は表情を歪めた。

 少なくともサスケは無駄な殺しはしないと思っていたが、どうやら今はそうではないらしい。また柱に押しつぶされて死んだ忍も何人もいて、手当をしても駄目だと一目で分かるような怪我のものもたくさんいた。





「多分、ダンゾウが目的かなぁ。」




 斎は悩ましげに言って、小さく息を吐く。

 ダンゾウはうちは一族の反逆の際にその鎮圧の指揮を執っており、暗部の任務を隠れ蓑にかなり殺したと後からイタチにも聞いていた。ダンゾウを訴えたり処罰したくても、大抵彼の部下が処罰の対象となり、ダンゾウ自身に手が伸びない。

 結果的に斎がダンゾウを野放しにする羽目になった原因がそこにあった。

 またタカ派、武闘派のダンゾウを上層部の一部も利用している節があり、なかなか手が出せない理由の一つになっていた。





「どちらでも良い!弟の仇だ!」





 エーは怒りで髪を逆立てながら、言い捨てる。

 どちらにしてもサスケはエーの弟であり、人柱力のビーを誘拐したのだ。エーにとっては憎き相手であり、誰を狙っていようが関係ない。

 だが、傷を治していた斎が、小さなため息をつく。




「あとさぁ、ビーだけどさぁ。」




 ビーとは四代目火影、ミナトが生きている時代は何度も交戦しており、顔見知りの斎はビーがどんな人間かも知っている。




「生きてる気がするんだけど。」

「はぁ!?」





 あまりに予想だにしなかった言葉に、エーは目を点にする。





「…僕の目が妄想が見える程度におかしくなければ、補足したんだけど。」

「どういうことですか?」





 イタチも斎の言っている意味が分からず、首を傾げた斎に尋ねる。

 確か雷影であるエーは弟で人柱力のビーをサスケに攫われたことに怒り狂い、彼を攫ったサスケを抹殺しようと五影会談をもくろんでいたはずだ。

 そのビーがサスケに攫われていないのならば、本末転倒である。





「だーかーらぁ、僕ちらっとだけど、ここに来る途中に見たんだよね。」

「それって、先生が言ってた“たこ”ですか?」







 イタチが斎と共にここに来る途中に、彼はふと首を傾げて神妙な面持ちで“たこ”がいると言ったのだ。

 そこは荒野のど真ん中で海まで非常に遠く、魚屋などの商店も全くなさそうで、てっきりイタチはとうとう斎は火影になるのが嫌すぎて幻想まで見えるようになったのかと危ぶんだのだが、どうやら違ったらしい。






「おかしいと思ったんだよね。がさぁ、実はサスケに捕まってた時にビーが捕まえられるところ見てたんだけど、捕まった時、足が一本だって言うんだ。」






 斎は止血術を終え、を示した。




「本当か!?」




 エーは今にもに掴みかからんばかりの勢いで尋ねる。は勢いに押された部分もあったが、懸命にこくこくと頷く。





「そ、そうだよ、そ、それに、サスケたち、八尾を捕まえるのに失敗したって、言ってたし。」





 も自分の記憶喪失のことですっかりと忘れていたが、サスケたちが忌々しげに言っていたのを聞いているから、八尾はそもそも捕まっていない。足が一本しかなかったのも見ているから、情報に間違いもないだろう。




「おじちゃん…確認したの?」

「…」






 雷影は無言だが、どうやら心当たりがあるらしい。





「エーのおじちゃん早とちりだから。」





 斎はその一言で雷影の熱くなりすぎたが故の失敗を片付けた。













誤認