うちはマダラを名乗る男が五人揃った影たちに求めたのは、月の眼計画という、幻術ですべてをコントロールする世界への理解と協力だった。





「幻術の、世界。そんなの、可能なの?」





 は思わず首を傾げてマダラを名乗った男を見上げる。

 記憶をなくしたでも、自分がチャクラを焼く白炎を持っており、幻術には全くかからないことを知っている。写輪眼の幻術も含めて所詮すべてはチャクラが織りなすものだ。それを焼く炎を保有している限り、は幻術が聞かない。

 それは仮に月に写輪眼を投影し、幻術をかけても同じだ。





「だから、炎にも滅びてもらう。」





 マダラはあっさりとした口調で、に言う。





「とはいえ、おまえの鳳凰はうちはイタチが操っているからな。おまえだけは生かしてやる。」





 人柱力と同じシステムで、のチャクラと鳳凰が封印されているイタチは間接的にのチャクラを支配することが出来る。またに術をかけることも可能だ。要するにイタチが幻術に落ちてに術をかけることは可能なのだ。

 だから、だけは生かすことが出来る。とはいえ、他の炎一族の直系は邪魔なだけなので、皆殺しにせざるを得ない。

 要するにの母である蒼雪を生かしておくことは出来ないし、の子どもたちを育てることも出来ない。





「そんなの、何も嬉しくない。」






 一人が生かされて、一体何になるというのだ。






「平和な未来のために、必要な投資だ。」





 あまりの言い方に呆然とするに、あっさりとマダラはそう言い捨てた。

 しかしその必要な投資によって何人の人が死んだのだろうか。人柱力だけではない。暁の手にかかって多くの人や忍がなくなった。そして、これからも彼らの意志に沿わぬ人間たちは殺されていくのだろう。挙げ句の果てに屍の上に立つのは、幻の平和だ。





「ふざけるな!!おまえなどに世界はわたさん!!」





 エーは声を荒げマダラに高らかに宣言する。





「幻の中の平和などごまかしだ。現実の世界でなしてこそ意味がある。」





 我愛羅は淡々とした口調だったが、僅かに声を張った。




「そんなものの中に何があるっていうの。希望も夢もない。逃げているだけよ。」





 水影のメイもマダラを睨み付ける。





「世界を一つにするか、確かダンゾウも同じようなことを言っていたが、おまえのは世界を一つにすると言うよりも、世界を自分一人のものにしたいとしか聞こえん。」





 土影であるオオノキも反対の意見をマダラへとぶつける。

 オオノキの言葉はある意味でマダラの目的の本質を突いているようにすら思えた。彼が世界の神になると言っているのと、何ら変わりない。





「…邪魔な人間を皆殺しにした屍の上の偽りの世界は、戦争と変わらないと僕は思うよ。」





 斎も静かながら、水色の瞳でじっとマダラだという男の仮面を眺めた。

 斎にとって見れば炎一族の直系を殺すと宣言されている時点で、少なくとも自分の妻と、子どもに連なる未来のすべては奪われることになる。何よりも個を大事にしてきた斎にとって家族は自分のすべてだ。それを踏みにじるマダラのやり方を容認する気にはなれない。

 影を名乗るのを許された全員からして、マダラの言う幻術の中の平和というのがどれほど価値があったとしても、受け入れがたい。確かに幻術の世界で人は死なないのだろうが、それを作り出すまでの仮定にまず犠牲者が必要だ。

 そしてその上に立つのが所詮幻となれば、なおさら受け入れがたい。







「そういうおまえたち五影に何が出来たと言うのだ。おまえたちなら本当は理解しているはずだ。希望などないと!!」






 里が、国が出来て100年近く。五影が出来たことは非常に少ないとマダラは言う。





「で、でも、六道仙人の時代から、ちょっとずつ進んできたんでしょう?なら、これからも進めるはずだよ。」




 はマダラを見上げて静かに訴える。

 マダラは先ほど自ら六道仙人から今までに至るまでの歴史を語った。六道仙人は十尾の人柱力で、それを分けたのだってその力があまりに大きすぎるものだと理解していたからだ。だから彼は力を分けた。一族だけでは戦いばかりを産むから、人は里を作った。国を作った。

 そうやって、試行錯誤を繰り返してここまで歩んできたのだ。





「希望はあるよ。だってそうやって、進んできたんでしょう?」





 確かにその歩みは微々たるものだったのかも知れない。けれど、確かに進んできたから、自分たちはここにいるのだ。





「…その通りだ。同じうちは一族だが、俺は幻術の世界が良いとは思えない。」






 イタチも自分の先祖を名乗る男を同じ緋色の目で睨み付ける。

 本当に彼がうちはマダラなのかは知らないし、六道仙人の話が仮に本当だったとしても、関係ない。幻術の中にある平和などに賛同できない。




「少しずつでも良い。俺たちは俺たちのやり方で、進んでいくべきだ。」





 確かに争いはどこにでも転がっているもので、大切な人を思う気持ちが憎しみを生む。その連鎖をイタチも痛いほど知っている。

 だが、同じ痛みを知るから分かり合えることもある。痛みを知るから他人に優しく出来る。化け物と罵られてきたナルトが、自分の力に悩み続けたが誰よりも優しいことを知っている。

 だからこそ偽りの幻術での平和など、望みはしない。





「どちらにしても、おまえらに選択権はない。残りの八尾と九尾を差し出し、俺の計画に諸々協力しろ。でなければ戦争になる。」




 マダラは冷たく自分の意見を拒否する面々を見下ろし、最後の脅しをかける。




「戦争だと?」





 我愛羅は眉を寄せ、問い返したが、雷影のエーは別のことで目を見張った。






「八尾、どういうことだ!?ビーはおまえたちが」






 先ほど斎にも言われたことだったが、どうしてもエーは信じられなかったらしい。というよりは自分の失態を認めたくなかったのだろう。





「八尾の捕獲は失敗し逃げられた。あれこそ人柱力として完璧な忍だ。おまえの弟だけはある。」





 マダラはあっさりと自分の失敗を口にする。

 マダラが人柱力を欲していることを考えれば、そんな嘘をつく理由はない。真実と考えるのは妥当だから、やはり斎が視、が言ったとおり八尾の捕獲はやはり失敗していたのだ。






「ほら、エーのおじちゃん。言ったじゃない…おじちゃんのはやとちり。」






 斎もこれ見よがしに唇をとがらせ、腕を組んでため息をついてからとイタチを振り返った。

 もイタチも考えは同じだ。マダラの言う月の眼計画に協力する気はないし、幻術の理想の世界など望んでいない。





「九尾を渡す気はないよ。綱手様もきっと戻ってきたらそう言うだろうし、僕も幼い頃から見守ってきた親友の息子を渡す気はない。」







 火影としての言葉として、斎はマダラに意思表示をする。

 斎にとってナルトは兄弟子、ミナトの忘れ形見であり、幼い頃から後見人としてナルトの姿を見守ってきた。子どもではないが、大切に思っていることに変わりはない。

 九尾でなくとも、渡すことが出来ない大切な子どもの一人だ。





「うずまきナルトは、渡さない。」





 我愛羅も親友の顔を思い浮かべ、はっきりと告げた。





「私も同じく。」




 メイも我愛羅に賛同を示す。





「雷影、おまえは?」

「もちろん弟は渡さん!」





 土影であるオオノキに促され、エーも高らかに宣言する。当然だ。彼にとってビーは弟であり、大切な弟をみすみす渡せるはずもない。






「俺には力はないが、今まで集めた尾獣の力がある。おまえたちに勝ち目はないぞ。」

「希望は捨てない。」





 我愛羅はマダラの最後の脅しにも屈することなく、はっきりと返した。それはマダラの意見に対する完全な拒否の意味でもあった。





「良いだろう。第四次忍界大戦。ここに宣戦布告する。」 






 マダラは五影を前にはっきりとした口調で言う。

 かつてない、大きな戦争の始まりだった。


戦争