「忍連合軍―、たるぅ。」
ぐてぇっと机にべったり張り付いて、斎は疲れたように言う。
「とっとと帰って連絡せぇ!!」
エーはぐだぐだとごねる斎にたまりかねて、彼の机をたたき割る。
それを紙一重のところでかわした斎は火影の帽子を持ってそれを同じようにくるくる回しながら、またため息をついた。
「すいません。連絡に関してはこちらできちんとしました。」
イタチは慌ててエーに頭を下げる。
斎がごねている間にイタチは既に話し合いの内容を鷹でカカシやシカクなど木の葉の中の重要人物に知らせてある。忍連合軍を作るならなおさら事前に部隊の構成なども考えなくてはならないので、斎一人でどうこうできる問題ではない。
ましてや次に影同士で話し合う時にはすべてそろえておかねばならないので、ペインに襲われて荒れている木の葉に連絡するのは早ければ早いほど良いはずだった。
「イタチ、全部連絡終わったよ。」
ちょうどが暗号を片手に部屋に現れる。
「あぁ、ありがとう。悪かったな。」
「他は?」
「ない。ひとまずそれで全部だ。」
イタチは短くに言って、またエーへと目線を戻すと、エーは何やら複雑そうな表情でイタチを見下ろしていた。
「おまえ、確かうちはサスケの兄だったな。」
エーはてきぱきと動いているイタチに尋ねる。イタチはそれに項垂れて頷くしかなかった。
「さっきはワシも熱くなっていた。」
「はい?」
イタチは一瞬エーが言った言葉の意味を理解できなかったが、はっと先ほどのことを思い出した。
サスケの兄、同じうちはだと分かった途端、エーはイタチに襲いかからんばかりだった。斎が口を開かなければそうしていたのかも知れない。熱くなっていたというのは、その時の話だろう。
「いえ、その節は本当に申し訳ありません。俺が始末するのが筋なんですが。」
イタチはサスケのことを思い出すだけで気分が沈みそうだったが、雷影の手前恐縮する。
「否、良い。おまえにもいろいろあるだろう。特にあの馬鹿相手では苦労するな。」
斎のことだろう、話を変えたエーは突然ばつが悪そうにひらひらと無事だった方の右手を振って見せた。
「…まぁ、もう14年のつきあいですから、慣れてますけど。」
イタチが斎の弟子になったのは、アカデミーを出た7歳の頃だった。
普通なら中忍になった途端に師から離れるのが一般的だが、すぐに斎率いる暗部に引き抜かれたため、斎の部下まっしぐらである。別にそれが不満というわけではないが、今となっては完全にどこに行っても彼の副官扱いだ。
面倒ごと、書類仕事は全部イタチの業務である。
「まして娘の面倒までとは同情する。」
斎に娘がいるという話はエーも聞いていたが、を見るのは今回が初めてだ。
娘は父親に似るとよく言うが、ここまで娘の容姿がそっくりとは予想外で、透先眼を使ったところを見ると能力的には優秀なのだろうが、婚約という形で斎本人だけではなくその娘の世話まで押しつけられたイタチに、エーは心底同情した。
だが、エーの言葉にイタチは首を振る。
「いえ、は完全にまともです。」
「何?」
「の名誉のために言っておきます。容姿はそっくりですが、性格は至って真面目でまともです。」
どうしても容姿が似ているため性格まで一緒だと思われがちだが、斎との性格は全く違う。
エーは信じられないのか、じっとイタチの隣にいたを凝視する。はその視線が怖かったのか、ささっとイタチの後ろに隠れた。
「、雷影相手だぞ。」
「…うん、そ、そっっか。」
イタチが失礼だからと言外に言うと、おずおずとはまたイタチの隣に並んだ。だが先ほど凝視されて居心地が悪かったのか、それとも怖いのか、目じりを下げている姿が何やら某CMの大きな目をした子犬のようだった。実際にの紺色の瞳は大きい。
「こ、こんにちは、初めまして、です。」
は黙っていることに耐えきれなくなったのか、礼儀正しく言って、ぺこりと頭を下げる。
「…まさかじゃな、」
横でその様子を眺めていた土影のオオノキが眼をぱちくりさせた。
斎の変さは性格を知る程度に頻繁に交戦した人間たちの中では有名だ。類を見ないほどの天才的な才能でももちろん認められているが、その破天荒な性格も際立っている。その斎の娘となればろくでもないだろうと全員が思っていたが、おどおどとした少女の容姿は同じでもどう見ても性格的に斎と通じるところがない。
「性格違えばめんこくて可愛いもんじゃ。」
イタチの服を握って少しびびりながらエーに挨拶をする少女はどう見ても普通で、オオノキはしたり顔で頷いて斎に白い目を向けた。
「うぐぐぐ、まともだ。まともすぎる。」
「でしょ〜、綱手様にも宇宙人が人間を産んだって誉められたんだよ。ついでに良い弟子を持ったっていつも誉められるんだ。」
斎は明るい笑顔でエーに自慢する。
昔から性格に一癖も二癖もある斎の娘にしては、は驚くほどに素直で、当然彼は男なのでを産んだわけではないが、確かに子育てという一点に関して斎は成功したと言えるだろう。挙げ句、弟子のイタチも真面目で、寧ろ仕事のしすぎで有名だった。
「きっと兄弟の誰かが適当だと誰かが真面目になるというあの原理だと思います。ご迷惑をおかけしますようなら、こちらも努力しますのでよろしくお願いします。」
得意になっている斎をイタチは軽くいなして、エーの傍にいたダルイにも頭を下げた。
「あ、俺、ダルイっす。」
つられるようにしてエーの隣にいたダルイも同じように頭を下げて自己紹介をする。
「あ、よろしくお願いします。」
も改めてもう一度言葉を紡ぐ。
「いやこっちこそ。」
「斎先生の事でもご迷惑をおかけするかも知れないんで。こちらに先に言っていただければできる限り対処します。」
イタチもダルイに挨拶をして、連絡先の交換を始める。
そのやりとりを見ていたエーは斎からは考えられないほどあまりにまともな娘と愛弟子に、驚きを隠しきれなかった。
「えへへへ、すっごいでしょ。流石僕の弟子と娘。」
「えへへじゃないわ馬鹿もんが!」
「いでででで。おじちゃんすとおおおおおぷ!」
エーは苛立ち混じりで斎に掴みかかり、斎の悲鳴が部屋にこだまする。
「…なんか、喜んでる感じがする。」
は自分の父親を見ながら、ぽつりと呟いた。
記憶がないので分からないが、何となく父がエーや他の影との再会を喜んでいるような気がしたのだ。特にエーに対しては親しげな何かを感じる。
「そうだな。じゃれてるって感じだ。」
イタチも子どものような自分の師を眺めながら小さく笑ってしまった。
「昔はかなり本格的にやり合ったらしいんですけどね。」
ダルイもその光景を眼を細めて眺める。
何度も交戦していると何か昔の仲間のような親しみが生まれるのかも知れない。もちろんお互いに命を賭けて戦ったことも何度となくあるだろう。それでも何となく斎とエーを見ていると、ほほえましくて、そんなこと忘れてしまいそうになる。
「過激なじゃれ合いだな。」
我愛羅もやってきて、思いっきり顔面をエーに掴まれ、叫んでいたがっている斎を観察する。
「過激な友情があるんだろう。」
イタチは思わず笑ってしまった。
斎とエーは木の葉隠れの里と、雲隠れの里の忍だ。それぞれが常に敵同士だっただろう。今も火影と雷影という全く異なる立場にいる。それでも戦いを繰り返しているうちにどこかで認め合う感情が生まれ、今がある。
不思議な感じがするが、まさに過激な彼らだけの友情がそこに存在するのだ。
「戦いの中で、同じ痛みを知り、わかり合うこともあると言うことだな」
我愛羅は自分にも当てはまるものがあるのだろう、どこか穏やかな柔らかい声で言った。
理解