ナルト、サクラ、そしてカカシ、、イタチが集まった場所で、ナルトがサスケのことについて話したのは、が記憶を取り戻してからのことだった。
「俺は、サスケをなんとしても取り戻すってばよ。」
ナルトは笑って、とイタチを前にして言った。
サスケと相対し彼は決心を固めた。皆が殺せと言ったサスケと本気で相対し、そして戦い、必ず取り戻してみせる、もし駄目なら彼に自分の命をかけると、宣言した。
「そんなこと。」
イタチはその落ち着いた漆黒の瞳を丸くして、首を振る。
「ナルト、おまえには夢も未来もある。サスケなんかに命をかける必要はない。」
ナルトには火影になるという夢もある。皆からの期待も背負っている。
今まで幼い頃から九尾の化け物として扱われたナルトは今、ペインを倒した里の英雄として、やっと里の人々に認められた。今となっては里のすべての人間がナルトを認め、本当に心から期待し、頼りにしている。
ここまで来るまで、ナルトは本当に血を吐くような努力をしたことを、イタチは知っている。
それなのに、里で認められたナルトとは対照的に、今となっては犯罪者となり、を手にかけ、また昨日の一件でダンゾウまで手にかけたサスケのために死ぬと言う。それ程の価値が、弟にあるとは今のイタチには言うことが出来ず、ナルトの決心は受け入れがたい。
「でもさ、俺にとってサスケは誰よりも大切な仲間だってばよ。」
ナルトは無邪気な青い瞳を向ける。
ナルトにとってサスケは昔からのライバルであり、自分とは対照的とも言えるアカデミーの天才で、誰よりも認められていた。彼をうらやむと共に、彼を目指したいと思う心と、強さをナルトにくれた大切な存在だ。
「だから、サスケのことは俺に任せてくれ、」
「…ナルト、」
は目を丸くして、ナルトを見つめた。
彼がダンゾウを殺したことや、暁に入っていることはも斎から聞いているし、実際に見てもいる。は記憶をなくした時の事も、覚えている。雷影があれほど大事に思っている弟を誘拐しようとしたサスケを、正しいとは言えない。
彼が木の葉を、そして上層部を憎み復讐を果たしたこと。
その事実を前にしても、ナルトの瞳は全く揺れぬまま、曲がらぬ覚悟の元にサスケと相対しようとしている。
「わたしを殺したのは、サスケじゃないよ。」
は目を伏せて、ぎゅっと自分の着物を握りしめる。
―――――――――――――――兄貴のために、そんなにぼろぼろになる必要はないんだ
が覚えている記憶をなくす前の最後の瞬間、サスケはを抱きしめてそう言った。あの仮面の男が現れた時、それでもまだ戦うつもりだったに、彼は言ったのだ。
―――――――――――――――もう、良いんだ。
そう言われた時、はほっとした。そして、すべてを放り投げてしまった。
疲れていた。うちは一族やサスケに憎しみの目を向けられることも、一族の皆に負担をかけて、うちは一族を狩っていることも、ままならない自分の力も、必死でイタチを思って血を吐くような努力をしたことも、本当に辛かった。悲しかった。
だから、心のどこかで、早く終わってしまいたいと思っていたのだと思う。それがどんな形であったとしても。
―――――――――――――自分を追い詰めるな
サスケはにそう言ってくれた。記憶がなくて不安がるに守ると言ってくれた。あの言葉は、本当に嘘だったのだろうか。
幼い頃から、彼が嘘を言ったことなんてない。
大人たちは幼いを誤魔化して、宥めていたけれど、彼はいつも不器用で、に嘘をつけなくて、いつも酷く困った顔をしていたのを覚えている。彼は決して歪んでなどいないとは思う。ただ、まっすぐすぎて、歪みを包容することが、出来なかったのだ。
「サスケは、言ってくれたんだ…。記憶をなくしたわたしに、守るから大丈夫だって言ってくれた。だから、」
は自分の肩にそっと手を触れる。
そこにはサスケに刀を突き刺された傷がある。けれどその時も彼は本当に悲しそうだった。憎しみをに向けながらも戸惑うような、迷うような、悲しそうな目をしていた。
「復讐もきっと、」
サスケは誰かを大切に思う心を持っている。
だからこそ、やイタチを利用し続けた里やダンゾウが許せなくて、復讐に走っただけだ。彼は冷たくもない、悪でもないし、性格が悪いというわけではない、ただ、誰かを大切に思っているから、その道を選んだのだ。
「だが、」
イタチはサスケがを手にかけたという事実がある故に、弟の行為を黙って見過ごすことは出来ないと思っていた。サスケは確かに誰かを大切に思ってやっている復讐なのかも知れない、しかしそれが里を、他者を傷つけるのであれば、止めなければならないのが、兄のつとめだ。
そんなイタチをカカシが制する。
「イタチも言いたいことはあると思う。だが、ここは最後のチャンスだと思って、ナルトに賭けてくれないか。」
「…」
イタチは眉を寄せて、少し考えるそぶりをした。
炎一族の婿になったとしても、イタチがうちは一族である事に変わりはない。仮にイタチが生かそうとしたサスケが里を狙うならば、それは里を思う斎や、に対する裏切りになる。自分が手にかけなければならないと、それが里と、そして弟であるサスケ自身に対する責任だと思ってきた。
だが、記憶を失ったが言った言葉が、ふとイタチの頭を過ぎった。
――――――――――――――だめ、そのお兄ちゃんと戦っちゃただめだよ。駄目、だめ、だから
は誰よりもイタチとサスケが戦うことを望んでいない。だからこそ彼女は一人でサスケと相対しに行ったのだ。記憶をすべてなくしてもそれだけは体の根底に焼き付くほどに、思っていた。
イタチがを見下ろすと、彼女は酷く不安げな表情でイタチを見上げていた。
ある意味で、イタチの覚悟がを追い詰めていたのかも知れない。彼がサスケと相対しようとする思いがを戦いに駆り立てた。
「イタチさん、」
サクラも不安そうな目でイタチを見上げている。
木の葉において一人で大きな戦力を有しているのは、斎、蒼雪、ナルト、、カカシ、そしてイタチだ。蒼雪と斎は大抵里の上層部や重要な任務に就くためサスケの処理などに構ってはいないだろうから、特にサスケの写輪眼に対抗するために、サスケの迎撃を命じられるのはイタチ、カカシ。そしてがその可能性が高い。
イタチの同意が得られなければ、サスケを勝手にイタチが殺してしまう可能性もある。
「あぁ、わかった。」
イタチはの背中を安心させるように軽く撫でて、ナルトを改めて見た。
「おまえにサスケのことは任せる。」
そう口にした途端、予想していたよりもずっと、イタチ自身自分の重荷がふっと軽くなったような気がした。
ナルトに申し訳ない気持ちで一杯だが、自分もきっと追い詰められていたのだろう。そしてそのイタチの姿をずっと見ていたは、自分を責めた。
「もイタチ兄ちゃんも、俺に大船に乗ったつもりで任せてくれたらよいってばよ」
ナルトは昔と変わらぬ、無邪気で明るい笑みをとイタチに見せる。
それはあまりに清々しく、自分を信じている笑顔で、ふたりともそれを目の当たりにして何も言えなかった。自分たちがそんな風に自信を持って、誰かに同じことを誓うことは出来ないから。
「…わかった。」
イタチは神妙な面持ちで、頷く。
「もだってばよ。二度とおまえは一人でサスケと戦いに行くなんてするなってばよ。」
「…うん。」
サスケの兄であるイタチが納得するのならば、彼にすべてを任せるべきなのだろう。も納得してナルトにサスケのすべてを託すことにした。
信託