五大国同盟の祝いの意味も含めて先だって合同の中忍試験が行われることになったのは、一ヶ月もたたない頃だった。





「それにしてもナルトが中忍試験かぁ。変なの。」





 は首を傾げる。何となくナルトが中忍と言われても、ぴんと来ないというのが本音だ。




「まったくだ。」





 隣に並んでいる我愛羅も真顔でに同意し、同じように彼の後ろにいたカンクロウとテマリも吹き出す。

 ちなみに今回のの任務はこの中忍試験での我愛羅の案内と護衛だ。それ程心配するような事ではないのだが、砂隠れと木の葉隠れは仲が良いので、一応友好関係の意味でもあった。





「そういえばおまえは上忍だったな。」





 テマリがに問う。





「はい。」

「逃げ腰だったおまえがな。」

「そんなこと言ったら、やる気のなかったシカマルだけが前の試験で中忍になったんですから、」






 テマリにが返すと、テマリは明るく声を上げて笑った。

 3年前、ナルト達も含めて全員が中忍試験を受け、砂隠れと音の里による木の葉崩しがあり、お互いに敵同士として戦った。とはいえ、結局その時受かったのはシカマルだけだったが、今となっては当時試験を受けた人間の中で上忍となった木の葉の忍はネジとのみだ。

 昇進の順番など、本当に分からないものである。






「おまえも風遁は得意だったな。」

「はい。もちろん。」





 は炎一族の出身だけあって火遁が得意な傾向にあるが、それだけでなく風遁もかなり得意だ。特にの父である斎が風遁を独自開発していたこともあって、もそれを教えて貰い、特殊な術を持っている。







「暇なら一緒に模擬戦に出ないか?」

「え、やるなら負けませんよ。」

「望むところだ。」





 テマリはにっと唇の端をつり上げる。

 今回の中忍試験では余興の意味も含めて、上忍、中忍に関しては希望者同士の模擬戦も許可されている。もちろん挑戦を受けて立つかどうかは本人次第なわけだが、やはり有名な忍だと希望者も多い。そのため一戦くらいは戦うのが妥当だった。

 もちろん戦う程度の本気度合いは本人たちの采配に任されている。勝負方法も然りだ。人数も自由。極端な話、じゃんけんでもくじ引きでもひとまず勝敗が決まれば良い。





「でもテマリさん、希望者多いんじゃないですか?」

「まぁな。と言っておまえも多いんじゃないのか?暁を倒したらしいじゃないか。」

「まぁ、知ってる人から知らない人までよりどりみどりですね。」 





 は困った表情のままテマリに返す。

 昇進が同期で一番早かったし、やはり神の系譜としては有名だ。木の葉の女の中ではかなりの手練れで、現在は長距離に関しては右に出る物がいない天才だと言われている。しかも父親が火影候補者にあげられたことでますます有名になってしまった。

 模擬戦の希望者も多いので、面倒臭くても一戦もしないままに逃げられる状況ではなかった。その点は風影の姉であるテマリも一緒だろう。





「人気者は大変じゃん。」







 カンクロウはテマリとの会話に呆れたように言う。





「カンクロウ、そういうおまえはどうするんだ?」

「どうもしねぇじゃん。俺はあの虫野郎と再戦だぜ。」

「わー、根に持ってる−。」





 はなんてことはなく、あっさりと彼の心境を言い当てる。





「男はしつこいな。」




 テマリも手をひらひらさせて腰に手を当てた。





「我愛羅君はどうするの?」

「おまえの父親はどうする気だ?」

「父上?まだ決まってない。エー様から逃げ回ってるけど。」






 の父である斎は、斎との決着を切実に望んでいる雷影のエーから逃げ回っている。





「対戦方法くじ引きならするって言ってごねてたよ。」

「無茶苦茶だな。」

「うん。イタチも本当は父上とやりたかったみたいだけど、手数も増えてないし、諦めるって言ってたよ。それに今回は特に五大国が一緒にやるわけだしね。」





 今回は大名の余興であるだけでなく、五大国の友好関係を示す意図もあるため、対戦相手は出来るならば他国の忍である事が寛容だ。斎とイタチの師弟対決は木の葉では有名だが、木の葉の人間だけが楽しんでも仕方がないので、今回はお預けである。





「じゃあ、うちはイタチはどうするじゃん?」





 今となっては正式に忍であるうちは一族はほとんどおらず、抜け忍か、投獄されている犯罪者かのどちらかだ。とはいえどちらにしても有名な写輪眼の一族である事に変わりはなく、一度は戦ってみたいと思う忍は多い。

 希望者も多いはずだから、彼も一戦くらいはしないと格好がつかないだろう。

 それぞれの里から手練れの忍が出てくる中で、写輪眼で有名なイタチが出ないわけにはいかない。その点ではカカシも当然その範囲内だった。






「イタチもまだ決めてないみたい。カカシさんはガイ先生に追い回されてたし、どうするんだろ。」







 それぞれ困っているのに変わりはない。





「だが、徐々にそうやって仲良くなれることは良いことだ。」





 我愛羅は僅かに唇の端をつり上げて、そう言った。

 彼もまた中忍試験でナルトと戦ったことによって変わることが出来た。たった一つの出会いが、戦いが彼のすべてを変えたのだ。この中忍試験がいろいろな人々の心に別の感情を、そして痛みを知ることによって仲間意識や、友情を築くことが出来ればと、提案したのは我愛羅自身だと聞く。





「確かにね。実際に相手と会って話をすれば変わることもあるしね。」





 愛情の反対は憎しみではなく無関心だと言われる。戦いであっても、相手と相手が面と向かう限り、わかり合える事もあるのだ。関わりがないことの方が問題なのである。






「それにしても。やり方は考えるとは言え、模擬戦は本当にあたしとやらないか?」






 テマリは腰に手を当てたまま、真剣な顔でに尋ねる。

 誰かと戦わなければならないのはお互い様だ。それならば知り合い同士でまとめた方が競争の仕方もこちらで決めても良いのだから気楽である。しかも女同士だ。





「じゃあそうしようかなぁ。お互い長距離専門ですし、的当てでもやります?」

「それは透先眼を持っているおまえが有利すぎるだろう。やり方は後で公平に決めよう。」

「そうですね。じゃあ約束ですよ。」





 はテマリの提案をあっさりと受け入れる。

 模擬戦は基本的に中忍試験と同時進行で行われる。ある意味では中忍試験よりも重要な意味を持っており、また忍たちにとっても良い勉学の場でもある。相手さえ決まってしまえば、のんびりやり方を考えれば良いのだ。






「到着次第、申請だな。」
「そうですね。」





 とんとん拍子に話が進んだので、もほっとする。





「サクラはまたいのとやるって言ってたし。」

「またあの二人がやるのか。」

「でも、今回はサクラの勝ちかな。実力ではサクラが上だし。」





 順当にいのの秘伝忍術にさえ気をつければ、おそらくサクラの勝ちだろう。





「我愛羅くんは残念だね。ナルト下忍だから、模擬戦はでれないし、」





 我愛羅が戦ったナルトはまだ下忍なので、今回の模擬戦の中忍以上という規定からそもそも外れている。サスケも里を抜けて犯罪者として問題になっているくらいだ。生憎再戦を出来るような相手はいない。 

 若手でかつ砂影である我愛羅にも挑戦者は多い。





「そうだな…。まだ考えていない。そういえばおまえはチーム戦のトーナメントには出るのか?」





 我愛羅はに問う。

 模擬戦には余興ついでのチーム戦トーナメントがある。4人一組、3人一組、2人一組のそれぞれがあり、規定は全員が中忍以上、その用件さえ守れば誰でも出ることが出来る。





「それも悩み中。実はサクラがやる気なんだよね。」






 一応個人の模擬戦に出れば許されるだろうが、綱手は弟子が模擬戦に出ることにかなり乗り気だし、サクラに押されて出る羽目になるかも知れないと小さくため息をついた。



試験