テマリとの試合は、お互い完璧に風遁でボールを打ち落としていたが、が二度目に威力をはかり間違え、壁をぶち壊し、テマリもテマリで面倒臭くなって個別にではなく全部一度に吹き飛ばしたため、結果としてはお互い引き分けとなった。

 元々勝った方が好きなものを食べて、負けた方が奢るという事になっていた。速度もほぼ互角で、大技もいくつか繰り出したが、は元々風遁よりも火遁が得意だ。その経緯からテマリがに何か甘味を奢ると言うことで話は片付いた。





「甘味、甘味。」

「…。」






 うきうきした様子で繰り返しているに、サクラは切れた視線を向ける。





「これから、決勝なんだけど。」





 今から二人組トーナメントの決勝戦だ。結局相手は雲隠れの里のカルイと言う、色黒で逞しい女性と、と一緒にこの中忍試験で手伝いをしているオモイのコンビだと言う。

 だが決勝を前に緊張の全くないはテマリに甘味を奢ってもらえるという事実で十分に満足らしく、鼻歌でも歌い出しそうな程に上機嫌だ。






「だって、美味しそうだったんだもん。」






 は頬に手を当てて、思わずそう答える。

 先日イタチと共に即席で出来ている露店へと足を運んだのだが、各国から商人が集まっているせいか、美味しく珍しい露店が沢山あった。特に今しか食べられない甘味もたくさんあり、丸一日あっても元が小食のは全く食べられず、行きたくてたまらなかったのだ。

 その上にテマリが奢ってくれると言うから、としてはもう目を輝かせるしかない。


 会場への入り口を入れば円形の闘技場がある。基本的に鈴をとることが目的であるため、殺しは厳禁。忍術、血継限界の使用は当然自由だが、あくまで鈴を取るため、守るための範囲で認められる。

 とサクラが歩いて闘技場に上がるとそこには既にカルイとオモイ、そして審判のダルイがいた。

 決勝と言うこともあり観客も多く、見上げると五影全員が座っていた。とサクラが五影の席を見ると、綱手は小さく手を振った。も同じく手を振り返す。見れば綱手の隣にはの父である斎と、恋人のイタチの姿もあった。





「そういえば、昨日食べたケーキも美味しかったな。」





 イタチと昨日行ったケーキ屋を思い出し、ふにゃりと笑う。





「…。」





 サクラは怒ったようにぐっと拳を握りしめてを睨む。普通の忍なら震える程恐ろしいサクラの怒りだが、には全く効かない。






「…用意、できてます?」







 審判のダルイが、全然違うことを考えているを見ながら、躊躇いがちに尋ねる。





「わたしは、」





 サクラは仕方なくそう答えた。





「さて、やってやるわ。」





 カルイもかなりやる気なのか、ボキリと拳をあわせてやる気を見せる。





「やる限りは、負けるわけにはいかないっすね。」





 オモイも日頃の弱気はどこへやら、やる気はあるらしい。

 今回は五影も見ているし、各国の目がある。ましてやとサクラは火影である綱手の愛弟子である。対してオモイとカルイは雷影の弟であるビーの弟子で、互いの国の威信を考えれば負けるわけにはいかない。

 とはいえ、本気の戦いではなく、鈴とりなわけだが。






「はーい。OKです。」







 も気楽に答えて、ダルイが渡す鈴を受け取った。

 基本的に鈴は見える場所につけるのが基本で、もそれの紐を自分の帯に挟んだ。ちりりと軽やかな音を鳴らす鈴。





、わたしから行くわよ。」





 サクラはにっと笑ってに言う。




「うん。じゃあいつも通りね。でも、片方は逃がして良いよ。」





 先日までの試合では、サクラが二人をすべて片付けていた。しかし流石にトーナメントを勝ち上がるにつれ、サクラ一人では駄目なことが多くなった。とはいえ、本来これはコンビの戦いであり、それが当然だ。

 ただ二人のチームワークを見せるほどの相手はいなかったし、あっさり倒せてしまっても面白くはない。一人は相手をさせてもらえなければも楽しみがないと言うものだ。

 だからサクラが攻撃をして、ただし集中するのは一人だけ。もう一人の相手をするのは今回はだ。





「わたし、あんまり近距離は得意じゃないんだけどな。」





 どう見てもカルイは近距離戦闘のタイプだ。刀は完全に間合いを詰めるわけでないので、オモイなら大丈夫だろうが、カルイはあまり得意なタイプだとは思えなかった。とはいえ、彼ら二人が自分よりも早く動けるとは思えない。

 また闘志むき出しのカルイとサクラを見ると、おそらく二人がやり合ってくれるだろう。





「じゃあ、始めますよ。」






 審判のダルイが言って、巻き込まれないように後ろに飛ぶ。サクラは予想通りカルイに軽やかに襲いかかった。途端にサクラの拳からの衝撃波で、闘技場のタイルが思いっきり吹っ飛び、土煙が辺りに舞う。





「相変わらず、すごいなぁ。」





 はサクラの怪力を見ながら、思わず他人事のように呟いた。もあの勢いで、しかもあの怪力で殴られたら十分怖い。

 ぼんやりしていると、背後に気配を感じ、は背中に構えていた水色の刀身の美しい刀で攻撃を受け止める。





「ん。」

「鈴、もらうっすよ。」





 オモイは刀を受け止めたを見て、にっと笑う。剣術の訓練を受けているのか、随分慣れているようだ。生憎はそれ程刀の扱いがうまいわけではないが、甘いなぁと思って笑い返した。





「どうかな。」






 は刀を斜めにしてオモイの刀を受け流す。

 生憎腕力では男に敵わないが、受け流せば威力は簡単に殺すことが出来る。オモイは何度かと刀で組み合ったが、はあっさりとそれを受け流す。彼の攻撃速度は決して早いことはない。






「甘いよ。」





 は刀で相手の刀を受け止めると同時に、相手の刀を軸に使って飛び、オモイの腕に手をつき、オモイの肩を思いっきり蹴りつける。チャクラを一点集中させた蹴りでオモイは簡単に吹っ飛んだ。とはいえ、も威力は慎重に絞っており、彼の腰についた鈴を蹴り上げるためにそうしただけだ。

 本人とは別方向に飛んだ鈴をは手の中におさめる。するとわっと会場からは歓声と簡単がこぼれた。





「良い度胸だ。」





 雷影は客席で思わず呟く。

 相手の刀と自分の刀の擦れ合った部分を基軸に体を回し、オモイに蹴りを入れるその技術はすばらしい。オモイは刀にばかり気をとられており、また基軸に自分の刀を使って力を込めているため、オモイは自分の刀でそれを受けざるえない。そしてそのためにの蹴りから逃げられない。

 度胸もさることながら、戦略的にもは非常に賢かった。





「オモイ!」






 オモイが吹っ飛ばされたのを見たカルイが叫ぶが、助ける時間をとれるほど、サクラも甘くはない。基本的に鈴をとられれば終わりだが、二人の鈴をどちらもとることが勝利の条件であり、片方が鈴をとられるまでは取り返すチャンスがあるのがこのトーナメントの特徴だ。

 要するにがオモイの鈴をとったとしても、カルイが鈴をとられなければまだオモイは取り返すチャンスがあると言うことだ。




「何やってんだい!」




 カルイはオモイの方は見ず、サクラから目を離さずに叫ぶ。





「わりぃ。」




 オモイは何とか壁からはいでて、言う。も殺す気はなかったし、鈴をとる好きを作りたかっただけなので、本気で蹴ったわけではない。どうやらまだ動ける状態らしかった。






「サクラ、どうする?」

「今回は別々、手助けは無用よ。」

「ん。」







 連携して戦えば、おそらく簡単に勝てるだろうが、今回サクラは一対一でカルイを倒したいようだ。おそらくナルトがカルイにぼこぼこにされたという恨みがあるからだろう。

 はサクラの意思を尊重することを決め、オモイを改めて見やる。彼は少なくとも諦める気はないらしい。






「どうする?」






 先ほどの攻撃で、彼も力の差は理解したはずだ。が近距離戦闘が苦手だと言っても、あの程度の速度、太刀筋では勝てない。ましてやは遠距離が得意なくせに、遠距離の忍術で彼に追い打ちをかけるようなまねはしていないし、血継限界も使っていない。

 がオモイの出方を窺うと、彼はまたに刀を持って突っ込んできた。





「ん、同じ手は駄目だよ。」




 は突っ込んでくるオモイに、刀を構える。彼が切りつけてくる瞬間は刀を構えていたが、その次の瞬間、紺色の瞳を見開き、それを水色に変えて慌てて右側に刀を持ってくる。





「ぐっ、」





 しかし、威力を殺しきれず、ずるずると横に引きずられた。それでも何とか止めると、オモイは呆然としたような表情でを見ていた。彼にとってはこれが決め手の技だったらしい。





「危ない危ない。騙し斬りって奴、かな。」





 の目の前を切りつけるふりをして、右横からの一閃。に透先眼がなければ見えなかっただろう。としては透先眼を使う気はなかったが、何となく瞬間危ない気がしたのだ。確かにサクラなら騙されたかも知れないが、透先眼で短期であれば未来の映像を見ることが出来るにとって、敵ではない。

 彼にとっては相手が悪かったと言ったところだろう。






「甘いよ。」






 はそう言って、刀をぐっと力を込めて押し返す。






「何っ、」





 オモイは目を見開いた。

 瞬間的な力はチャクラコントロールで補うことが出来るが、腕力ではオモイの方がより遙かに上だ。にもかかわらずに刀が押し返されているような気がしてオモイが刀を見ると、刀が徐々に切断されているのが見えた。






「チャクラ刀!?」

「ご名答。」





 珍しい水色の刃を持つこの刀は、古くから蒼一族に伝わるもので、チャクラを通す特別な材質で出来ている。そしてそれにの風のチャクラを通せば、貫通力は他の刀の比ではない。ましてや風の性質変化は元々鋭くものを切り裂くことに適している。

 どれほど尖った刀だったとしても、風の性質変化を持ったチャクラ刀に鉄のただの刀が敵うことは絶対にない。所謂ガード不可と言う奴だ。





「相手が悪かったね。狙うなら、反対だったんじゃないかな。」






 はオモイの刀が折れると同時に、もう一度オモイを思いっきり蹴りつけた。

 同じ力押しを旨とするカルイがサクラと戦うというのは、自然な流れだったが、それは不正解だ。はサクラのような完全近接戦闘の忍は苦手であり、カルイ相手であれば怪我のことを考えて慎重になっただろう。オモイの騙し斬りもサクラに対してならば効いたはずだ。

 しかしには間合いを詰められない刀での攻撃は無理だ。






「さて、サクラが終わるまでどうしようかな。」






 はまだ起き上がってくるオモイを見ながら、ため息をついた。

優位