試合の後、カルイ、オモイ、、そしてサクラは全員五影の前に賞品の授与のために呼び出された。
「仕方ない…実力差がありすぎた。」
雷影のエーは憮然とした顔で結果的に二人組トーナメントにおいて準優勝となり、しょげかえっているオモイ、カルイを労る。
「二人は良くやった。あー爽快だったさ。」
対して火影の綱手はどこまでも明るく笑って、優勝したとサクラをねぎらった。エーの鼻っ柱を折れたことが嬉しくてたまらないと言ったところだろう。
結局カルイもサクラに鈴をとられてしまい、あえなく敗北となったのだ。オモイはから何度も鈴を取り返そうとしたが、騙し斬りに警戒したは基本的に透先眼を開きっぱなしでオモイに隙を与えなかったし、逆に最初の組合の時にがオモイの腕に結界の術式を書いていたらしく、最終的に結界に閉じ込められて出られなくなった。
「優勝賞金100万両、温泉旅行招待券はどうするんだ?」
綱手は二人に商品を渡しながら尋ねる。
「んー、サクラと話し合って100万はこの間のペインの一件の被災者に寄付ってふたりで決めたんです。」
「温泉旅行はと二人で行ってきます!」
とサクラは仲良く受け取って、にこにこと笑う。綱手は欲のない奴らだと思いながら、弟子たちの雄志に満足だった。
「それにしても圧勝だったな。」
風影の我愛羅が腕を組んだまま椅子にもたれて言う。
「そうでもなかった、かな。結局手間取っちゃったし。」
サクラは肩を竦めて言う。
実は今回の試合はサクラがを無理矢理引きずって申請したみたいなものだったので、サクラは自分一人で片付けようと思っていたのだ。とはいえカルイと思い二人の相手をすることは非常に難しく、結局別々ながらもも相手をすることになった。
「サクラの本領は医療忍術だもん。戦いが本領なのはわたしだよ。」
はサクラに笑いかける。
元々後方支援が主であるサクラなので、本来戦うべきはの方だ。それを面倒だからと後ろに一歩下がって観察していたのは間違いなくの我が儘だ。とはいえ、先に強いが出てしまっては正直サクラが出た意味がなくなるというものだが。
「全然歯が立たなかった…」
どよんとした空気を纏って、オモイが呟く。
どうやら騙し斬りがばれたことがかなりショックだったらしい。特には当初透先眼を全く使っていなかったが、何となくの勘で透先眼を開いたら、騙し斬りだと分かったという感じだった。要するに前もって雰囲気を読まれて予想されていたと言うことになる。
それが随分とショックだったらしい。
「オモイさん、太刀筋に気配はなかったんだけど、顔がなんかやるぞって言ってたんだもの。」
は軽く小首を傾げて、オモイを振り返る。
「え?」
「なんか来るんじゃないかなって思ったんだよ。だってそんな感じだったから。」
元々は気配を探ったり雰囲気を理解するのは得意だ。太刀筋からは騙し斬りは窺えなかったが、オモイの顔が何かすると言っていたため、咄嗟に透先眼を開いた。
「そう、なんすか?」
「うん。」
は問い返してきた彼に素直に頷く。すると自分の頬を引っ張って彼はまたため息をついた。顔に出ていたことを知らなかったらしい。
「それにしても、あんたら強いんだね。特にだっけ?あんたの方は意外だったよ。」
カルイは正直一番にサクラに警戒していたし、を見た時、サクラの後ろにいつもいるので、弱いんだろうと勝手に思っていた。見た目も小柄でどちらかというと気弱そうだ。だからこそ、オモイが簡単に鈴をとるだろうと思ったのだ。
まさかそのの方が強敵だとは思わなかった。
「木の葉では有名なコンビなんだがな。ちなみに一応は上忍、サクラは中忍だ。」
綱手はカルイに笑って言う。
おそらく他里だからの噂を知らなかったのだろう。同盟国である砂隠れの里ではは随分と有名だし、暁の一人を迎撃したという話しもどこでも聞くが、やはり他の里では情報が入りにくいため、誰も知らなかったのだ。
戦いぶりもよりサクラの方が豪快であったため、なおさら誰も警戒して情報を収集しなかったらしい。
木の葉では誰も逆らえなくて有名なゴールデンコンビである。だからこそ、木の葉の忍のほとんどはとサクラが二人組トーナメントに出ると決まった途端、全員戦いを辞退した。
その時点で他里の忍もどちらにもやばい何かがあると警戒すべきだったのだ。
「でもオモイさん、騙し斬りは良かったと思うよ。透先眼なければ、わかんなかったと思うし、」
太刀筋から騙し斬りを窺うことは出来なかったし、予測して刀で受け止めてもその威力は騙し斬りとは思えないほどで、本気で受け止めたにもかかわらずは横にじりじりと押された。
その点ではオモイも相手でなければその威力を十分に発揮できただろう。
「…慰めは良いっすよ。」
「慰めじゃないよ。騙し斬りはすごかった。」
「はあんまりお世辞とか得意じゃないから、慰めじゃないわよ。」
サクラはの援護をして、オモイに言う。
は嘘をつくのが大の苦手で、基本的に悪いことは口にしない。そのが彼を誉めると言うことは、サクラは直接相対してはいないが、騙し斬りの技術は良かったのだろう。
「ま、要するに騙し斬りだけはって事だけどな。」
カルイはつんつんとオモイを肘でつつく。オモイは複雑そうな顔をして、ぺこりと恥ずかし紛れに頭を下げた。
「それにしても、本当に父上とやるの?我愛羅君。」
は奥にいる我愛羅を見やって問いかける。
「あぁ。」
我愛羅は神妙な顔つきで頷いた。
の父である斎と我愛羅が模擬戦をすると聞いたのは先日のことで、我愛羅が父の動向を気にしていたのは知っていたが、まさかそれを望むとは思わなかったので、驚いた。
「五影会談で会ったときから、一度手合わせしてみたかった。珍しいタイプだと思う。」
我愛羅が初めて斎に会ったのは五影会談の折だ。力を垣間見たのはサスケと斎がやり合った一瞬だけだったが、それでも雷影が一目置き、あのうちはイタチが無条件で師を尊敬しているところを見れば、相応の実力者だとすぐに分かる。
あのふざけた態度に緻密な戦略、天才的な才能。
「才能だけなら、あいつの右に出る奴は今はおらんだろうな。」
雷影のエーも何度も斎と交戦してきたが、四代目火影波風ミナトと斎のコンビには良くしてやられたものだった。
ミナトの死後、才能だけなら斎の右に出るものは、エーが知る限りいない。だがまだ確定ではないが、目の前にいる娘のにも何となくその片鱗があるようにエーには見えていた。とはいえ、本気で少女が戦ったところを見たことがないので、確定ではもちろんない。
「、イタチは斎を捕らえられそうか?」
綱手は心配そうに尋ねる。
「んーー、暗部の人たちに協力をお願いしたみたいだけど。」
斎はサボり癖がある。面倒ごとは大嫌いだ。
そのため模擬戦にも全く乗り気では無く、特に雷影との模擬戦は全く望んでいない。だが、今回は火影の威信もあるため、出て貰わなければ困る。
そこで斎の捕獲を弟子のイタチが命じられたわけだが、いつも逃げられてばかりのイタチだ。失敗の許されない今回、自分の所属する暗部の別部隊にも頼み込み、捕まえようという最大限の努力をしている。報われるかどうかは今まで例がないので知らない。
「あいつは普通にできんのか。」
エーはため息をついて、頭を抱える。ただ普通にほど遠い斎である。悩んでも無駄だ。
「あーーそうだった。一番になったら、奢ってくれるんだった。」
ははたっと思い出したのか、ぽんと手を叩く。
「え?何それ?」
「わたし、やる気なくてサクラに引っ張って行かれたでしょ?その時に父上が、このトーナメントで勝てたら、サクラと一緒に甘味奢るからって言ってたの。」
「だからあんたやる気だったの?」
サクラは呆れた視線を送るが、はなんてことはないとでも言うように「うん。」と答えて見せた。
釣餌