が珍しくヒナタと出かけたのは、トーナメントが終わった次の日だった。




「ヒナタついてきてる?」

「う、うん。」

「甘味、甘味、」

ちゃん、あんまり食べてばっかりいると太っちゃうよ。」






 ヒナタは最近連日奢って貰ったりで甘いものばかり食べているに笑って言う。






「良いんだよ−。ちょっとくらい。」





 は少しすねたように言って、近くの露店をまぶしそうに見つめた。

 各国の珍しい甘味を集めた露店が沢山あり、甘いものが好きなとしては宝物の宝庫のようなものだ。木の葉では食べられないものも多く、イタチと食べ歩いたりしているが、それでも日数が足りない。中忍試験が終わればこの露店もなくなってしまうので、元が小食のの最近の食事はもっぱら甘味だった。






「それにしても、ヒナタ。もう体調は良いの?」






 はヒナタを振り返る。

 ペインの一件からの傷が祟ったヒナタは、今回の中忍試験においてはなんの役にも就いていない。トーナメントにも全く出ていないため、フリーで警備などに当たっていた。

 ペインの件でナルトを庇って大怪我をしたという話はも聞いている。

 前からヒナタがなるとを好きだったことは知っていたが、結果的に彼女が死にものぐるいで戦ったからこそナルトが助かった部分もあり、ナルトからもヒナタに命を救われたと聞いていた。






「うん。もう大丈夫だよ。みんな心配しすぎ。」






 ヒナタはサクラに助けられて一命は取り留めたし、今はもう問題無く動けるが、皆心配しており、何かと気にしている。それをありがたいとは思っているが、今回中忍試験で同時に行われる模擬戦などに出られないのは残念だった。






「じゃあ、今日は一杯回ろうね。あとでナルトも来るんだよ。」

「え?!本当に!?」

「うん。わたしが呼んだんだぁ。」








 は少しいたずらっぽく、焦っているヒナタに笑って見せた。

 ヒナタがナルトのことを好きだというのは前から知っていることで、協力したいと思っていたが、ナルトが鈍感だったため、なかなかうまくいかなかったのだ。それに、ナルトも3年間自来也について修行をしていたため、長らくヒナタも会えなかった。







「せっかくだし、ね。わたしはイタチとデートするから。」





 後からイタチとナルトが来る予定なのだ。

 どうせイタチが来ればとイタチは一緒に話したりするだろうから、自然とナルトとヒナタが一緒にいる時間が増えるはずだ。としては、ナルトとヒナタがうまく行ってほしいところだ。幸いはナルトと一緒の班だったので、別に誘ってもおかしくはない。






「そ、そんな、心の準備が、」

「気にしない気にしない。どうせナルト鈍感なんだから気にしてないし。」






 きっとヒナタが倒れても変な奴だなぁ、で終わりである。ナルトは細かいことは全く気にしないので、多少ヒナタが何をしても大丈夫だ。

 だがどうしてもヒナタはナルトと一緒だと緊張するらしい。大分大人になってましになっているが、それでも相変わらず変わりなかった。






「これ、可愛いね。舶来もののストールだ。」







 は露店の一つにあったストールを手に取る。

 薄手の生地のストールは白色を基軸にしてあったが、裾の辺りが青色と赤色を混ぜたような不思議な色合いで非常に美しかった。





「本当だ。可愛い。」

「ヒナタは髪が黒色だから、これ綺麗だよ。薄手でちょっとストールには幅も狭いから、髪の毛につけてリボンにしても大きくて可愛いよ。」

「そ、それは流石に。」






 目立つから、ヒナタとしては駄目なのだろう。可愛いのにとは思いながら、薄手のストールを見据える。帯の上に巻いても、可愛いかも知れない。

 は膝丈の、スカートと同じように裾の広がっている着物を着ている。小物は母のものを使うことが多いが、大人びたものが多いため、やはり年頃と言うこともあり可愛い小物を集めたいという気持ちはある。






「帯紐とか、帯留めになりそうなの、あるかなぁ。」





 木の葉においては今では着物を着る人も少なくなっているため、ないことはないが古いものが多く、今風ではない。露店には沢山の店があり、そう言った小物を手に入れることも出来そうだった。





ちゃん、そういえばトーナメントで勝ったらしいね。」







 ふと思い出したように、ヒナタが話題を出す。だが何となく、ヒナタはその話題を出したがっていたように思えた。






「ん?うん。でもほとんどサクラが戦って終わったけどね。」






 が戦ったのは決勝といくつかの試合だけで、ほとんどサクラ一人で終わらせた。だからが出る幕はほとんどなかった。

 だがヒナタはストールを持ったまま「良いな、」と目じりを下げる。悲しそうな響きに、は顔を上げてヒナタの方を見やる。





「私、なんでこんなに弱いんだろう…」






 泣きそうな震えた声。






「ヒナタ?」







 はヒナタを見上げて、首を傾げる。






「結局、ナルト君も助けられなくて、全然敵わなくて、わたし、」





 俯いて言うヒナタは、ペインの一件を思い出しているのか、の方を見ることもなく言う。それは独白にも近いものだった。





「わたし、」





 ぽたりと水がこぼれ落ちる。ヒナタの表情は窺えないけれど、はヒナタの手を引っ張って、露店から離れる。

 人並みから離れたところで、やっとヒナタは涙を袖で拭いた。

 とヒナタではヒナタの方が背が高いため、が見上げる形になる。はその時記憶をなくしてサスケと共にいたため、ヒナタがどんな風にナルトを助けたのか、知らない。それでもペインが絶対的に強い存在で里を蹂躙したことは聞いた。






「ヒナタは精一杯やったよ。」





 はヒナタを見上げて、そう笑う。

 あのカカシですら敗北した相手で、父の斎ですらも自来也の情報が無ければ、おそらく危なかっただろうと話していた。手練れの斎とイタチが里から離れていたことも、惨事を助長させた。

 そのペイン相手に、大怪我をしてでも、命をかけてナルトを助けたのだから、ヒナタはどれほどの勇気を振り絞ったことだろう。





「でも、でも、わたし、負けちゃって、」

「そんなことないよ。だってナルトは生きてるもん。」





 はヒナタの涙をそっと拭う。





「だって、ヒナタはナルトを助けたかったんでしょう?」





 ヒナタは決してペインを倒したかったわけではない。ナルトを助けたかっただけだ。ナルトはどういう形であれ、ヒナタが助けたことによって生きているのだから、彼女の完全勝利に他ならない。

 きっとヒナタは自分がきっかけでナルトが九尾化してしまったことを、気に負っていたのだろう。






「それに、命をかけるって怖くて、簡単なことじゃないけどそれをやったんだもん。」






 敵を前にして、その恐怖と戦いながら、誰かを守るために戦うというのは決して簡単なことではない。ましてやそれが大方敵わないと分かっていて、納得していて、それなのに命をかける覚悟は、とても重いものだ。

 死の恐怖は決して簡単なものではないとは思う。






「ヒナタは、本当に変わったよ。」






 が明るく言うと、ヒナタも少し気分が楽になったのかごしごしと目元を擦る。






「…そ、そう、かな。」

「うん。」





 いつも気弱なヒナタにとって、それは大きな変化だっただろう。命をかけるほどの忍道を持つ人間が、誰かのために死の恐怖に打ち勝てる人間がどれほどいるのかと思えば、どれほどの価値があるのかがよく分かる。

 そして何より、ナルトが生きていることが、彼女の勇気の証だ。






「イタチと同じぐらい、ヒナタは格好良いよ。」






 は笑って言ってみせる。

 命をかけてのチャクラを肩代わりしたイタチの話は、ヒナタも既に聞いている。だからこそ、そういう例え方をしたの気持ちがよく分かって、ヒナタも思わずつられるように笑ってしまった。






戒能